第17話
「あれだけの数をよく倒したな。大したもんだ。」
アルはそう言うと、すっかり血に汚れた辺りを見回した。
「荒削りだが、センスに光るものがある。筋力のなさをバネや技術で補っているのにも感心した。よく頑張ったな。」
アルが私を褒めるのを聞くと、ジャックとギャリーはくすりと笑って言った。
「随分と気に入ったねぇ?準備の段階でウキウキしてたのに、全く格好つけちゃってさあ。」
「顔がニヤついてたぞ、新しいおもちゃを見つけたみたいな顔をするな。」
少しむくれたアルは2人を軽く小突くと、あたりは和やかな笑い声で包まれた。
私はふわりと浮き立つような気持ちになって、思わず顔を緩ませた。
会って間もないのに、どうしてこんなに安心できるのだろう。
のんびりとした暖かな気持ちに浸っていると、ヘヴンとヘルがなにかに気づいたように、武器を構え直した。
「奥から変な音がする……ヘル。」
「わかってる、ヘヴン。何だか歪な気配……さっきのより強いのがいくつかいるよ。こっちに気づいてるみたい。」
ヘヴンはいつもの人懐っこい笑顔をしているものの、その目は油断なく奥を見すえている。
ヘルは私達に武器を構えるよう無言で指示する。私達には何も感じとれないが、2人はなにかに気づいているようだ。
少し立つと私達にも感じ取れるくらいの濃い気配が近づいてくるのがわかった。
先程とは比べものにならないほど、息の詰まる気持ち悪い空気が辺りを漂う。
「……来る。」
誰かがそう言ったのを皮切りに、奥から全長5mを超えるであろう大きな魔物が飛び出してくる。森のどこに潜んでいたのだろうか、けたけたと大きな笑い声とともに三体の大きな鬼がこちらへ向かってきた。
右の鬼形の魔物は赤い身体に大きな棍棒を持っている。一撃で吹っ飛んでしまいそうな攻撃力を持っていて、当たったら確実に死ぬだろう。
私達にまっすぐ突っ込んでくる速い魔物は青い鬼形で、大きな角と太い脚が特徴的だ。ちょこまかと小回りが利く身体をしている。速さは三体の中で最も速そうだ。
奥の一際大きな黒い鬼形の魔物は、鎧のような筋肉を身にまとい、ちょっとやそっとの攻撃ではまともに傷をつけられそうにない。邪悪な笑い声を響かせながら、三体の魔物は私たちに突っ込んできた。
でかい上に速い。瞬時に私達の目の前まで飛んできた青い鬼をを、誰かが咄嗟に張った防御魔法で防ぐ。
レディの魔法だ。無詠唱で出した防御魔法は強度や持続時間が弱い。私達はその隙に後ろへ飛び退いた。
「ジャックとレディは赤い鬼を、ヘヴンとヘルは青い鬼を、俺、アル、ライラは奥の黒い鬼。素早く片付けろ、いくぞ。」
ギャリーがそういうや否や、私達は一斉に鬼へ飛びかかった。
ギャリーが正面でターゲットを取るうちに、
私は黒い鬼の背後を取った。首を狙って剣を突き立てるも、堅くてビクともしない。
アルやギャリーも同様に剣や槍で傷を付けようとするが、黒い鬼の頑強な筋肉は思ったよりも手ごわい。
私達はしばらく鬼と戦闘していたが、しびれを切らしたようなアルはちっと舌打ちをすると鬼から飛びのき、黒鬼が振り回す剣を避けると怒鳴った。
「埒が明かない!祝福を使う!」
アルは呪文を紡ぎ始める。
『 舞い踊る焔 焼き尽くす烈火 地獄の扉は開かれた 罪は業火によって死せり』
アルの体は炎を纏い、手からは真紅の剣が現れる。剣を構えるとアルは炎とともに黒鬼に正面から突っ込んでいった。アルは琥珀色の目をギラつかせながら、獣のような獰猛な笑みを浮かべて鬼の首を目掛けて飛んだ。
祝福の炎は身体能力も向上させるようで、軽々と鬼の首まで飛ぶとその首に大きな亀裂を付けた。
黒鬼が少し体勢を崩した隙を見逃さず、私は背後から顔に飛び移り鬼の右目を潰す。
鬼は大きな叫び声を上げて後ろに倒れ、ギャリーは鬼の身体に駆け上ると胸に槍を突き立てトドメを刺した。
ドサリと倒れた鬼にグサグサと剣を突き立てるアルは、纏っている炎をゆっくりと消した。
「あー疲れた。これが親玉だろうな。これで鬼退治は終了だろ。」
私達は鬼にギルドカードをかざして鬼の死骸を片付けると、他の皆が戦っている様子を眺めることにした。
ジャックとレディの戦っている赤い鬼は攻撃力が高い。しかし、装甲は薄いようだった。レディが防御を付与しながら、ジャックが鬼と戦っている。レディは防御特化らしく、自分にも傷一つついていない。しかし、自身の戦闘力は皆無に近いらしい。ジャックはアサシンの戦い方に近い身軽な動きをしている。
ジャックがトドメを刺すと、レディはジャックに駆け寄ってハイタッチをした。
ヘヴンとヘルの戦っている鬼は動きの速い鬼だったが、ヘヴンとヘルもそれに劣らず素早い動きで応戦している。ヘヴンは大剣で青鬼を翻弄し、ヘルの刀身の大きな大鎌は青鬼の身体を着実に切り刻み、スピードを落としている。
2人はスピードが速く、連携もうまい。2人が戦う様子は雷のようだった。
「さあ、後片付けは終了した。もう昼も過ぎて腹も減っただろ、早く戻って飯行くぞ。」
ギャリーがそう言うと皆一斉に歓声をあげた。
元気がありあまっているのかヘヴンとヘルは麓の町へ向かって既に走り出している。ギャリーの槍を持って。馬鹿野郎、と怒鳴ると、ギャリーは双子を追いかけていく。
レディとジャックはそれを苦笑して見ると一緒に走り出した。
アルは呆れたように笑い、麓に向かって歩き出した。
解けたブーツの紐を結び直した私はさあ戻ろう、と一歩踏み出した。
そのとき、鈍い痛みが右足に走る。先程の戦闘で足を怪我したようだ。私は顔をしかめると、右足を庇って歩き出した。バレないように、バレないように気をつけてそっと森を抜ける。
「どうした?何かあったか。」
気づかれないように、気づかれないようにそっと歩く私の様子に何か勘づいたのか、森の出口付近でアルが声をかけてくる。
「……いえ?何もありませんよ。」
私は笑って応えると、走って森をぬけた。
ずきりと足が痛むのを堪えながら、私達はギルドへ戻っていった。
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