第14話 麗しの転校生は帰国子女
次の日、僕ら兄妹はシグレと一緒に登校した。
遠巻きに猫又の虎吉が、ふふっ、スパイになりきって、護衛についてくれてる。頼もしいよ。
心配ごとがあろうが、最恐の鬼が僕たちの日常を壊そうとしていようが、変わらず太陽は昇って朝になり、新しい一日になる。
僕らのことなんか関係なくって、世界の決まった法則でお構いなしに、こなすべき日常の生活の時間はやって来る。
要するに、周囲は何ごともなかったかのように過ぎ、僕たち兄妹もシグレも学校に来ているってこと。
――もちろん、サクラさんも。
いつもどおりだった。
ただ、いつもと違うのは、僕らのクラスに転校生がやって来たことだけ。
でも、珍しい時期に転校生が来たよね。
「もうすぐ一学期も終わりだけど。こんな時期に転校してくるって大変そうだよね……。――シグレ?」
「……」
「シグレ、聞いてる?」
僕が話し掛けてもシグレはうわの空で。いったいどうしたんだろう?
「あっ、ああ。聞いてるよ」
明らかにおかしい。
先生の隣りに立つ転校生は帰国子女で、以前はこの町に住んでいて帰って来たんだって。彩花が行っている小学校に通っていたそうだ。
「超絶美少女〜!」
「めっちゃ可愛い」
「小学校ん時も可愛かったけど、まじさらに可愛い」
「アイドルみてえ」
転校生の登場に教室中がざわざわとして浮足立って、ちょっとした騒ぎになる。
先生の一喝が入って一瞬静かになるも、クラスメート達はやや抑えた小声でざわついている。
たしかに綺麗な子って感じかな。
僕は美少女とかよく分からんけど。
なぜだろう?
美空や彩花、サクラさんとどことなく、纏っている雰囲気というか、親しいものを感じる。
「
「おいおい、澪。恥ずかしいからやめてくれ」
「えっ? えっ?」
頭を抱えて机に突っ伏したシグレ。
教室の前方の小上がりでぶんぶんと手を振りながら「シグレ、シグレ」と親しげに連呼してしている転校生の
シグレと竹花さんはどうやら仲良し、親しい仲なようだね。
✧✦✧
「ちょっとシグレ! アタクシ達、会うのは久しぶりなのに、そんな態度はひどくありませんこと?」
放課後、竹花さんはシグレの席の前に仁王立ちして、顔をむくれさせている。
時間の残り少ない部活や受験勉強をするために自習ルームなど、クラスメート達は思い思いの場所へと行ってしまい、教室には僕とシグレと竹花さんだけになっていた。
ついさっきまで休み時間や給食の時間も絶えず、竹花さんはクラスメート達に囲まれて、質問攻めにあっていた。小学生時代のクラスメートも多くいたらしく、竹花さんはすぐにクラスに溶け込み馴染んでいた。転校初日にしてすごいや。
人気者なんだなあ。
にこにこと微笑み、華麗な振る舞いでクラスメート達に応じている姿は、どこかのお姫様みたいだな。それぐらい気品っていうのかな? そういうのが漂ってて優雅かもなんて僕は思ってた。
「ようやく皆様いなくなりましたわ。騒がしかったこと。やっとですわね」
竹花さんはやれやれやっと解放されたとばかりに伸びをひとつして、シグレの元に一直線にやって来たのだった。
「あ〜あ、シグレの隣りの席が良かったですわ。ひと歌歌って、席を移動させてもらおうかしら」
「やめろ、お前。自分の特別な力をそういうことに使うなって」
チカラ……?
ひと歌歌ってって――、竹花さんは言ったよね? それってなに?
「アタクシはただ、シグレのそばにいて楽しくイチャイチャと過ごしたいだけですのに……。アタクシ、シグレのお嫁さんにしてもらいたいってずっと頼んでいましたが、もういいですわっ! 気が変わりました。いつもツレない態度のシグレのことは諦めました。すっぱりキッパリ!」
な、な、なんかすごい勢いで怒っていますけど?
「ねえねえ、良いの? シグレ?」
「ははは。はあぁー。美人が怒ると余計にすごみが増すよなあ。まっオレは付き合い長い幼馴染みだから、澪の
話が見えなかったけど、つまりはこういうことかな。
シグレの幼馴染みの竹花さんはずっとシグレに片想いをしてきてた。
……そう、シグレは今はサクラさんの事が好きなんだもんな。
――に、しても僕としては、竹花さんの特別な力ってやつの方が気になるんですけど。
「あなた、相楽雪春さんといいましたわよね?」
「ああ、はい。そうですけど……」
「シグレの代わりに人魚になりなさい」
「は?」
「近い将来、私と結婚して妖怪人魚になりなさい。アタクシのお婿さん候補に入れてあげます」
えっ?
えっ?
え――っ!
なにそれ?
何なの、そのお婿さんってのはー!?
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