Chapter 4. The Missing(失踪) 5
サルーンは昼間とは比べ物にならないぐらい、人がごったがえしていた。
フェリックスは昼間座っていたテーブル席に近づいたが、額に手を当てて首を振った。
「ここじゃ、ないな」
その席に座っていた客がうろん気にこちらを見たが、気にせずカウンターへと近づく。
カウンターには、さきほどのマスターではなく、見知らぬ若い男が立っていた。
「あれ、さっきのおじさんと交代したのか?」
若い男は少し戸惑った後、合点がいったように笑った。
「ああ、父のことですか。もう年なんで、夜は私が担当なんですよ。父に何か御用ですか?」
「話を聞きたいと思ったんだけど……」
「残念だけど、もう寝てると思いますよ。明日では、だめですか?」
「いや――」
フェリックスは誰かを捜すように店内を見渡し、目当ての人物を見つけて口笛を吹いた。
「他の人に聞くよ」
フェリックスは戸惑うルースの手を引き、店の中央へと進んだ。
「お姉さん」
呼ぶと、男に囲まれた艶やかな女が振り返った。
「あら、夕方の。何か?」
「聞きたいことがあるんだ。あんたの見た、おれの連れは――どこに座っていた? それと、どこを見て呆然としていた?」
奇妙な問いに、女だけではなく周りの男たちもいぶかしげに顔を見合わせた。
「どこ、ですって?」
「大事なことなの。教えて」
ルースが横やりを入れると、女は少し不快そうになった。
「あらまあ、そのちんちくりんがあなたの雇い主だってんじゃないわよね?」
「ち、ちんちくりんですってー!?」
「落ち着け、ルース」
羽交い締めにされ、ルースはもがく。
「なんって失礼なひとなのよ!」
「――お願いだから、教えてくれ」
フェリックスの切実な訴えが効いたのか、女は肩をすくめて立ち上がり、カウンターへと向かった。
「あのお兄さんはカウンター席の右端に座ってて、左に顔を向けてぶつぶつ喋ってたわ」
「わかった。ありがとう。こちらのレディにウィスキーを」
カウンターに注文してから、フェリックスは右端のカウンター席へと近づいた。
不思議と、そこには誰も座っていなかった。
「――フェリックス?」
ルースの問いに、フェリックスは頷いた。
「悪魔の、気配だ」
「悪魔!? 兄さんが悪魔に憑かれたってこと?」
「いや。それだといなくなる理由が……」
フェリックスは考えながら、カウンターの若いマスターに話しかけた。
「なあなあ、このへんで奇妙な話はないか?」
「はい? 奇妙な話とは――」
「人が消える話、とか」
「ああ、そういえば」
マスターはグラスを拭きながら、何かを思い出すように虚空を仰いだ。
「最近、ここから東の隣町――ウォーターソンへ行くとき、人が消えるんですよ」
「それだ! 詳しく聞かせてくれ!」
フェリックスの勢いに驚きながらも、マスターは語ってくれた。
フェリックスたちがウォーターソンの町名を耳にした数時間後、まだ夜も明けきらぬその町で一つ事件が起こった。
エウスタシオは馬を借りるべく、宿から馬主のところへと向かっていた。
あの後すぐに出発しても良かったのだが、フィービーが急に眠気を覚えたと言って眠りこんでしまったので、出発は今朝になってしまった。
早朝だからか、町に人気はない。
寒気を覚えて身震いしたところで、急に首根っこをつかまれた。
「なっ!?」
裏道に引きずり込まれそうになり、エウスタシオは背後の人物を肘で打った。
「ぐはっ!」
振り返って銃を引き抜き、倒れた男に銃口を向ける。
「私が連邦保安官補と知っての
冷たく告げると、男は顔を上げた。
まだ若い男で、知らない顔だった。指名手配犯でもなさそうだ。
町のごろつき、といったところだろうか。
「ブラッディ・レズリー?」
問うと、男は首を横に振った。そして、締まりのない笑みを浮かべる。
「……?」
エウスタシオがハッと気づいたときには、もう遅かった。
彼の周りを、覆面の男たちが囲んでいたのだ。人数は七人。倒れている男も合わせれば、八人だ。
「何が目的ですか?」
どうやって切り抜けるかを必死で考えながら、エウスタシオは銃のグリップを握り締める。
「一緒に来てもらおう。抵抗しないなら、傷つけはしない」
「馬鹿なことを」
冷笑しながらも、焦らずにはいられなかった。
風を切る音がして、エウスタシオは首に痛みが走ったことに気づいた。――吹き矢だ。
斜め後ろを見れば、先住民と思しき肌を覗かせた男が立っていた。
「くっ……」
こらえ切れずに、膝から崩れ落ちる。
「安心しろよ、保安官補。痺れ薬だ」
慰めの言葉を口にして、リーダー格であろう男は地面に這いつくばったエウスタシオに一歩近づき、その腹にブーツをめりこませる。
そして、エウスタシオの意識は暗転した。
To be Continued...
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