講評

鉄仮面の男ユスターシュ・ドージェ/偽教授


 政治犯を収容するバスティーユ牢獄に収監されていた鉄仮面の男『ユスターシュ・ドージェ』の話。アレクサンドル・デュマが小説の題材にしたことで有名な逸話ですね。

 こむら川小説大賞に続き、実在人物テーマの作品で一番槍を上げた偽教授さん。レギュレーション発表から2時間で仕上げた作品だとは思えないクオリティの高さでした。

 謎に包まれた鉄仮面の男の正体は何者か? 当時から民衆の間では噂になっていた話題だと思うんですが、そういった想像力がデュマのような巨匠の傑作を産んだんだろうな……。

 後世になって検証された真実が語られてきた逸話と噛み合わない難しさは大河ドラマとかでもあると思うんですが、その辺りの呆気なさも含めて歴史の面白さなんでしょうね……。


メンヘラを倒さないと外に出られない部屋/こむらさき


 こむらさきさんも速いよ!! 投稿日にこむら川の講評出したばっかじゃん!!

 こむらさきさんらしさ溢れるメンヘラの説得から始まる今作。毎回楽しみにしてるやつ……と思いながら読んでみたら彼氏がなんか不穏です。それなりに長く生きている……銀製の刃物……。Iカップのまゆちゃんは間違いなく巨乳要素だし……この彼氏は……やっぱアレかーー!!

 性癖のメガ盛り牛丼。または性癖のジェットストリームアタック! これぞこむらさき作品だ!


ある朝、目が覚めると/あきかん


 こむら川小説大賞でも問題作を出してきたあきかんさん。今回はどういったものを……って思いながら読んだんですが、これ評価難しいな……。

 丁寧に描かれた成人男性の出社風景なんですけど、冒頭から違和感のある出だし。特にそれには触れられずに料理をし、普通に家を出る。ここまでで1話、全体の4分の1です。

 コンセプトとして近いのはハルヒのエンドレスエイトとかカペリートの無限ループ夢落ち回かな? 夢という密室のお話でした。


おじさん刑務所/古代インドハリネズミ


 刑法第1023条の施行によっておじさんのおじさん性が罰せられるようになった世界の話。刑務官が女性なのがちょっとイメクラ感ありますね……。

 おじさんポイント(OP)とかおじさん緊箍児とかのワードがツボです。思想に罪が適応されるの、ディストピアすぎる。

 マッチングアプリでチャットする労働、と聞いてネカマパターンを想像したんですが、ラストはまさかの展開に。おじさん、幸せになれよ!

(レビュー欄も含めて一つの作品です)


固く閉ざされた部屋の中で/綿貫むじな


 密室と化した一室で行われるサバイバル・サスペンス。

 昔観た世界まる見えのVTRで、人類が絶滅したら地球はどうなるのか〜って話を思い出した。ペット用の動物は人間が管理しないと絶滅する危険性が高いらしいですね……。

 警察は飼い主の検死とかするのかな……。これだと死後何ヶ月も経った白骨死体として処理されない?

 猫のモノローグから溢れるハードボイルド感がサスペンスを加速させていてめちゃくちゃ楽しめました!


静かな部屋と宇宙の中で/千石京二


 創世記の再話だ!!!

 『俺』の閉塞感と生徒会室、宇宙……ビガーケージズ……。マトリョーシカめいた多重密室構造なんですけど、宇宙を密室と解釈する大スケールに僕の宇宙恐怖症がキリキリと刺激されました。これはコズミックホラーやで……。

 被造物の時も感じたんですけど、千石さんの作品から感じる星新一っぽさが大好物です……。『午後の恐竜』を思い出しました。

 それはそれとしてクソ上位存在は滅ぼされるべきかなって思います!


密室/神澤直子


 書き出しが強すぎる。

 川系大賞名物ゴリラ小説だ!! 虎と漂流ならぬ、ゴリラと密室。

 突如として密室に閉じ込められた主人公がゴリラと生活しながら、徐々に正気を失っていく。それまでの過程がまた不条理で、それなのに妙な納得感があるんですよね。男女逆転版『キングコング』みたいな、そういう雰囲気。

 くるよと名付けられたゴリラにメンヘラの元カノを重ねて行動に理由をつけていく主人公……理不尽を納得しようとしている……。

 最後のオチも『ドント・ブリーズ』の体外受精シーンみたいな趣があるんですよね……。そんなゾッとするオチも含めてめちゃくちゃ良質な作品でした。


吉備津の……/武州の念者


 美少年と中国古典でお馴染みの念者さんだ!! 現代劇にも中国古典要素を含めてくる手腕、いつ見ても惚れ惚れしますね……。

 元ネタは雨月物語の『吉備津の釜』ですね(ググった)。古典作品のアレンジのうまさに作家性を強く感じました。美少年の情念とか執念が強い……同性激重感情だ……。

 親しい人の声で中にいる対象を誘うやつ、その対象が少年だと尚更恐ろしいですね。まだ心が強くないから普通に騙されてしまう……。


シュレディンガーの寧々子さん/双葉屋ほいる


 KUSO小説に定評のある双葉屋さんが……めちゃくちゃ良質な百合を書いてる……(失礼)

 寡黙で内心を明かさない寧々子さんをシュレディンガーの猫に喩えて密室と繋げたの、あまりにも鮮やかな手腕で感嘆の声が漏れました……(もじりタイトルでハメ撮りの翁を思い出したのは内緒だ!)

 田舎の保守的な価値観から二人は逃れることができたのか。お互いの想いを確かめあったなら、どの選択肢を選んでも幸せになれる気がしますね……。


吸血鬼に遭った僕は、一生分の時間を彼女に捧げることにした/神崎 ひなた


 カクヨム甲子園テーマ別大賞受賞おめでとうございます!!

 吸血鬼と人間の、退廃的な共存関係。関係を停滞させることで価値を見いださせる、緩やかな終わりまでブレーキを踏み続ける生涯。僕としては主人公にまったく共感できないんですけど、これはこれで一つの関係性の行き着く先なのかな……って思いました。お互い納得してるならいいか……。

 鉄血場原さんだけ世界観違くないですか!? いや、めちゃくちゃ好きだけど!! 一人だけ文脈が異能モノの主人公なんですよね。カラフルな水彩画みたいな世界に一人だけ劇画タッチの武人がいる。鉄血場原さんの吸血鬼狩り異能モノ、読みてェ……(たぶん趣旨が違う)


草原の厭夜/武州の念者


 見事なまでの性癖盛り盛りに気圧けおされました。

 中華架空戦記……美少年……BL……。念者さんの念者さんらしさが濃縮還元されてます。これも名刺代わりになる作品だと思う。

 アマゾネスのボーイハント的な行為が劉雍のその後に影響するの、あまり見ない切り口で興味深かったです。あと夜の上下が想像と逆だった。

 文章から感じる美少年の色香は圧巻の一言。祖国を襲ってから劉雍が死ぬまでの流れも人間万事塞翁が馬って感じだ……。


ワイダニット密室殺人事件/五三六P・二四三・渡


 アンチミステリだ!! 読者にアンフェアなやつ!! 叙述トリックもガンガンある!!

 ワイダニットが消失した世界における密室殺人は密室である理由が無くなり、フーダニットが消失すると……。最終的には世界規模の大量殺人が起こっていく。なんだこれ、なんだこれ。

 この賞で初の密室ミステリがこの作風なの、天才の所業だと思う。終始悪夢みたいな話だ……。

 ……衝撃がデカくてスルーしてたけどこれ百合では?


名探偵・明智乱歩の推理/狐


 自作。

 僕としてはコンダクター流水(©︎本物川さん)とかサプライズド・ニンジャ的なバカミスをやりたくて、「これミステリ好きに怒られない?」ってヒヤヒヤしながら書いてたんですけど……目の前のトラックに跳ねられたんですけど……。


神崎ひなたの受難 〜藤原×神崎SS〜/藤原埼玉


 バカ!!!!!!

 失礼しました。取り乱しました。でも参加者同士の女体化百合が届くとは思わんやん……。

 小説を趣味で書いてる神崎ちゃん(架空の人物です)に強引なアプローチを仕掛ける藤原ちゃん(実在の人物とは関係がないはずです)。体育倉庫に二人っきりで閉じ込められ……。よし、王道の百合だな! 何も問題ない、はずです。

 同じ趣味の友達がいて、定期的に創作の感想をくれる。小説書きにとっては夢のような存在だからこそ、神崎ちゃんは藤原ちゃんを無下にできないわけですね。わかるぞ。藤原ちゃんが攻めであることに何らかの配慮を感じざるを得ないけども。

 藤原ちゃんに「自分受けの夢小説」を書かれる神崎ちゃん……あれ? それを嬉々として拡散する藤原ちゃん……ん? ナマモノは本人に配慮しなきゃダメだよ、藤原ちゃん!

 あっ、藤原埼玉さんはこれをぜひシリーズ化してください。全世界に需要あるんで。


ユア・センカーと密室の島/鍋島小骨


 役割を強いられた女の子と、魔法使いの儀式の話。

 いわゆる“きょうだい児”である優心ちゃんの心情にすごく思うところがあって、だからこそ彼女の気持ちに共感する部分もありました。個人の人格よりも役割を優先される……。

 人間界で母親から期待されていた役割から逃れた先が魔法界で期待されていた役割に殉じるっていうのも皮肉ですね。やりがいって大事なんだな……。


密室という概念/加湿器


 閉じ込められ、解放された末に「密室」をどう定義するかの思考実験を繰り返した男が至った狂気の果ての話。

 舞台がどんどん現実離れしていくのが男の狂気を表しているようで、容器の底が抜けていくような恐怖を感じました。哲学なんだよな……。

 蛇の貌の女の存在そのものが最初は不条理なんですけど、最後まで読むとある種の抑止力だったのかな、と思いました。

 どことなくインド神話とかのスケール感を感じました。怖いよこれ!


情と錠/ゆきやなぎ


 バレンタインデーと幼少期の幼馴染との思い出の話。

 僕はこういう田舎の夏のノスタルジーとか二人揃えば無敵だと思っていた関係性とかに弱いので、めちゃくちゃ満足しましたね……。

 最初に来る甘さと後味の苦さ、エッセンスとしての爽やかさがすごいバランスよく配置されていて、なるほど抹茶チョコみたいな味わいだ……。

 徐々に薄れていく幼馴染との記憶が寂しくもあり、新しい日々のための救いでもあるんだな……幼年期の終わり……。


吊り橋を越えたら/流々(るる)


 密室に閉じ込められた男女が脱出のために動く話。

 『SAW』みたいなサスペンスか!? とドキドキしながら読んだら別の意味でドキドキしました!! けしからんよこれは。

 主人公がめちゃくちゃ冷静に密室の謎を解いていくんですけど、それはそれとして性欲は抱くのが人間臭くていいですね。結果的に出れたし、デレた……。あっ、そういうこと!?


続・神崎ひなたの受難 〜藤原×神崎SS〜/藤原埼玉


 莫迦!!!!!

 失礼しました。続編を何より求めていたのは主催です……。

 体育倉庫の次は保健室。こっちは周囲の目がありますからね。さすがの藤原ちゃんも自重は……しません!! むしろ変態性と神崎ちゃんのツッコミが過激化してる。これが関係性の進展ですか……?

 囃し立てるモブも最悪で好きですね。教師まで揃って欲望に忠実すぎる。神崎ちゃんの心労がマッハ。どんどん許容するハードル下がっていってない?

(当然のように巻き込まれる神崎さんのフォロワーさんでめちゃくちゃ笑いました。十二人ひふびっとはキラキラネームすぎない?)


過ぎたる性欲はスプラッタるが如し快楽/@dekai3


 セクサロイドを破壊してしまった少女(?)の密室劇。

 被造物の時と同一の世界観って情報を得た時点でかなりワクワクしたんですけど、出された性癖の圧にただただ尊敬を覚えました。不死者と巨根装備セクサロイドの百合風俗……? 四つん這い馬姦イメージボテ腹プレイ……?

 コンテナのシステムから倫理が狂っててサイコーですね。ロボット三原則仕事しろ。

 不死者の少女のキャラもクズでいいな…….。不死者ジョークも彼女にとっての死が特別なものではないのを示唆しててゾクゾクしました。

 作中の合成肉なんですけど、もしかしてバイオミート……?

 スプラッタと性癖の圧をテンポのいい掛け合いとポップな語り口で細切れにして水に流すような作風が凄い好きです。あと世界観も大好物です。

 そんな性癖盛り盛りのでかいさん主催の『第一回性癖小説選手権』の〆切は4/15まで! 奮って参加しような!


キョウキの密室/ぎざ

 

 『凶器』が密室に入った前代未聞の殺人事件の話。

 冒頭からいいバカミスの空気感。バカミスにメタネタはつきものだよね! 被害者の名は体を表す感じとかあるあるだ……。

 別に髭宮さんも小早川くんも頭いいって感じではなくて、むしろポンコツなのが微笑ましいです。わりと周りからも邪険に扱われてない?

 トリックも3Dプリンタを活かした面白い仕上がり。めちゃくちゃ手の込んだ事してんなっていうツッコミは野暮です。

 次回は『鳴楼なろう館の殺人』ですね? 楽しみにしてます!


宇宙最強最固の密室殺人/五三六P・二四三・渡


 ブラックホール内で起きた密室殺人を推理するスペース探偵の話。

 シミュレーション世界の殺人がマトリョーシカみたいに波及して影響していく……シミュレーションのシミュレーション……助手の助手……。

 引きこもった小説サイトの管理AIをサーバーパンクさせてブラックホールに変えるの、規模がデカすぎてめちゃくちゃシュールですね。スペースF5アタックとかスペース田代砲とかあるのかな?

 サラッと書かれてるけど難解な話なので、ゆっくり咀嚼しながら楽しむ話ですね……。


密室殺神/偽教授


 異世界転生前に何者かによって殺されていた女神の謎に成り行きで立ち向かう転生者の話。

『転生の女神だから自分の転生も可能』、完全に異能モノの文脈だ……。それなら犯人当ても簡単に……はいかない。誰が女神を殺したのか、最後まで読者にはわからないのがいいですね。

 下級邪神さん、わりと話通じそうで好きです。いまいち邪気を感じない。むしろドジっ子まである。萌えキャラじゃん……。


魔女の林檎/修一


 密室に閉じ込められた魔女が自由の身になるまでの話。

 全体を通して雰囲気作りが上手くて、この後どうなるかがすごく気になる話でした。結局少女は何者だったのか? 手に持った林檎の意味は? 謎が残ったままのモヤモヤ感が余韻になっている気がする……。

 火炙りとか少女とかのワードから魔女裁判を想像しました。あれは無辜の民衆を魔女として扱ってたけど、その中に本物がいたとしたら……。

 単発の話にするには勿体ないので、長編シリーズ化を期待しています!


魔煙の匣/狐


 欲望や妄執を顕現させる魔煙に囲まれたロンドンを生きる少年の罪の話。

 伝奇とスチームパンクやりてぇ!!!ってなった結果の作品です。時代考証にめちゃくちゃ苦労した結果、すごい言い訳みたいなオチになってしまった。

 主催が〆切ギリッギリに投稿したのは……本当に申し訳ない……。

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