第17話 約束の朝まで
約束の朝まで、残り五時間。一同は、静かにその時を待っている。暗闇から姿を現す、邪悪な存在が邪魔さえしなければ、「天王」とやらに救われる。
「あと何時間だ?」
「五時間ないぐらいだよ。 私達は、安全な場所へ連れて行ってもらえるのかな?」
「だといいがな......悪い竹子。 さっきから頭痛がしてよ。 少し眠らせてくれ......」
表情を歪める虎白は、そう言って竹子の隣で横たわった。正座をしている竹子は、自分の膝を見つめている。
そんな硬い地面に寝転ばなくても、私の膝を枕にしてくれていいのに。竹子は、言葉に出せない自分に不甲斐なさを感じながら、眠る虎白を見た。
「姉上?」
「しー! 虎白が寝ているの」
「ああ、そうでしたか。 まだ朝まで時間ありますので、新納と見回りに行ってきますね」
「うん、わかった。 気をつけてね」
笹子は、相棒であり父親的存在でもある、新納と共に暗闇を探索しに向かった。
「お嬢、天王とやらが迎えに来たら、どげんすると?」
「わかんない。 本当に来てくれるのか、その後、どこへ行くのかね」
「うーん。 天王と名乗るからには、天の世界か!?」
「いいねえ! そうしたら、一緒に甘いお菓子をたくさん食べに行こうよ!」
「よかねえ! わしはサツマイモが食べたいのお」
この微笑ましい二人も、出会ってから随分と経ち、様々な苦楽を共にしてきた。気を抜けない霊界で、大変な思いをしながらも、楽しくやってきた二人は、まだ見ぬ平穏な時間を求めた。
やがて夜空の向こうが、薄っすらと明るくなり始めた。二人は、手をつなぎながら、竹子と虎白の待つショッピングモールへ戻ろうとしていた。
その時だ。
「お嬢!」
「や、やっぱり簡単には諦めないのね......」
「どげんすると!? こん数は相手できなかよ!」
民家や壁、はたまた道路から這い出てきた怨霊の軍隊。その数は、新納のとんがり帽子達だけではとても相手にできない数だ。
刀を抜いた笹子は、臨戦態勢だ。しかし何かおかしい。笹子は、目を細めて、怨霊の軍隊の隊列を見た。
「背の高い兵士が多いね?」
「なに悠長なこと言ってる! あれは
不気味に並ぶ怨霊の兵士の中に、人間より頭三つも高い鬼の兵士がいるではないか。それだけではない。今まで、侍のような鎧兜を身にまとっていた怨霊の軍隊が、どういうわけか、古代ギリシャの兵士のような姿をしている。
格闘技のヘッドギアのような兜の頭頂部には、鳥の
「お嬢一旦鞍馬どんの元まで行くど!」
「う、うん!」
護衛のとんがり帽子達を引き連れて、足早に逃げる笹子達は、虎白にこの異常事態を説明するためにショッピングモールへ戻った。
笹子達が戻ると、先程まで気持ちよさそうに眠っていた虎白の声が響いている。
「竹子! 俺の近くにいろ!」
「姉上!」
「笹子!? やっぱり来たよ! 早く一緒に戦って!」
ショッピングモールの中は、怨霊の兵士で溢れている。さながら、休日の日常と言えるほどの混雑具合だ。
しかし決定的に違うのは、休日を満喫する人間ではなく、邪悪に満ちた怨霊達でひしめき合っている。
「おい笹子戻って来るな! 俺と竹子がそっちに行くから、援護してくれ!」
「ダメだよ虎白! 外には、鬼とおかしな姿の兵士がたくさんいたよ!」
怨霊の大軍に分断されている虎白と笹子達は、前後に敵がいるという最悪な状況だ。
虎白と竹子は、僅かなとんがり帽子達とその場で戦い、笹子と新納は何百人というとんがり帽子達と共に戦った。
「お嬢! 外の敵は普通じゃなかよ! 今は鞍馬どんを助けるために、この建物の中で戦ったほうがよか!」
「わ、わかった! みんな放てー!」
笹子の号令で、とんがり帽子達が、一斉に銃を放った。背中を撃ち抜かれて倒れる怨霊の軍隊をかき分けて、虎白達の元へ向かった。
約束の朝まで残り三時間。
「笹子達が俺達の元へ向かっている。 外にも怨霊の軍隊がいるんだな......」
「どうしよう虎白......」
虎白は、恐怖で歪んだ表情の竹子の顔を見た。方や必死に合流を目指す笹子と新納達。
どうしたってこの死地から逃れることは厳しいだろう。虎白は、竹子の着物を掴むと、自分へ近づけた。驚いた様子の竹子は、目を見開いている。
「念のために言っておく。 俺は、後悔したくない
「ど、どうしたの!?」
「愛してる。 封印から解けた時にお前を見て、一目惚れしたんだ。 どうせ死ぬかもしれないなら、想いは伝えようと思ってな」
竹子は口に手を当てて、目を見開いている。周囲には、迫る怨霊の兵士。虎白は、近づいた敵を自慢の二刀流で鮮やかに斬り捨て、再び竹子の顔を見ると彼女は泣いていた。
「なんで泣くんだ......気持ち悪かったか? さすがに今どき女に愛してるなんて言わねえのかな......」
「あ、ありがとう......そう言ってもらえて、もう未練はないよ......それに虎白と一緒ならどうなっても怖くないよ」
二人は最期の時を迎える覚悟を決めた。全方向から迫る邪悪な軍隊は、斬っても斬っても現れた。ならば、最期まで抵抗を続けて力尽きたら、愛した相手と共に終わろうじゃないか。
虎白は、両手に持つ刀を倒した怨霊に突き刺すと、竹子の肩に手を置いた。そして顔を近づけていく。それが何を意味するのか理解した竹子は、目を閉じて唇が交わる瞬間を待った。
その時だ。
「騎兵今だ!」
「勝手ながら助太刀致すぞ!」
どすの利いた声に驚いた二人は、交わる寸前で離れると、声の方を見た。
怨霊が次々に吹き飛ぶ中、姿を見せたのは、赤い鎧兜を身にまとい、霊馬に乗る侍の集団だった。
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