第34話 俺と紗季と愛奈の過去 ~告白~
しばらく時間が経ち、教室に先生が入ってくると、集まっていたクラスメイトも座席に戻っていった。
そして先生が自己紹介を終えて、この後の入学式の予定を説明する。
しかし、俺はそれを聞き流して先ほどのことを考えていた。
隣の席は先生が来るまでまったく人が減ることはなく、むしろ増加が止まらなかった。
染井さんは朝のホームルームまでの時間で、クラスを掌握してカーストトップまで成り上がった。
染井さんは容姿だけでなく、人の気持ちや行動などを良く知っているように見える。
つまり、人心掌握術に長けていると言っていいだろう。
本当に女子高生かこいつ?
「では、体育館に移動しましょう」
気がつくと先生の話は終わって、クラスメイトが廊下に名前順で並び始めていた。
◆◇
校長の話がとても長くて退屈だ。
やっぱり手持無沙汰のときには、人間観察に限る。
周りを見回してみると、他の生徒たちはしっかりと前を向いてどっしりと構えていた。
熱心に話を聞いて、心の底から高校生活を楽しみにしているのだろう。
俺も高校生活に期待しているが、ここまでではないので羨ましく思ってしまう。
ふとそんななか、染井さんがどんな顔をしているのか気になって染井さんを探す。
ああいうタイプの女子は、こういう堅い行事には興味がなく、顔のいい男を探しているに決まっている。(偏見)
しかし、染井さんがいるはずの場所にいない。
名前順で染井さんだけが飛ばされているのだ。
もしかして、保健室とかでさぼっているのだろうか。
「では、次に新入生代表の言葉」
染井さんについて考えていると、いつの間にかに校長の話が終わっていた。
新入生代表は誰なのか気になるので考え事を一旦中断する。
さぁ、誰が出てくる。男か? 女か?
きっと眼鏡をかけたがり勉そうな男が出てくるんだろうなぁ(偏見二回目)
そんな予想を裏切って、舞台袖から出てきたのは見たことがある顔だった。
「新入生代表の言葉。一年C組染井愛奈さん、よろしくお願いします」
……。
おめぇかよ!
◆◇
入学式が終わり、教室に戻って帰りのホームルームが行われる。
先生が明日の連絡をしているが、どうしても聞く気になれない。
俺はちらちらと、隣に座る染井さんを見る。
なんでこいつが学年一位なの?
こんな軟派そうなやつに負けているという事実が許せない。
絶対下位の部類だと思ってた。
そんなことをやっていると、染井さんが俺からの視線に気づいて、にっこりと笑顔で返してくる。
くそっ、かわいい!
◆◇
ホームルームが終わった瞬間、予想通りクラスの全員が染井さんの席に集まった。
「染井さん、この後親睦会やらない?」
「染井さん、カラオケ行こうよ」
「染井さんって、」
「うーん、どうしよっかなー」
クラスメイトに囲まれて一度に多数話しかけられても、嫌な顔も困った顔も一切しない染井さん。
その愛嬌さは可愛いの次元を超えてもはや怖い。
しかし、その染井さんは人だかりを割って俺に近づいてきた。
「久野くんはこの後暇ですかー?」
染井さんはいとも容易く俺のパーソナルスペースに入って、上目遣いに訊いてくる。
パーソナルスペースを侵害されているのに嫌悪感を抱かないのは、かわいすぎるからだろうか。
こんな態度をされると、暇じゃなくても休んで遊びに付いて行ってしまいそうになる。
だが、俺には――
「賢太ー、帰るわよー」
教室のドアから紗季がひょっこりと顔を出す。
ドアから少し出た美しい顔が、とてもかわいく見える。
クラスの大半が紗季の方を向いて、顔を綻ばせる。
「分かったー。すぐ行く」
俺は紗季に返事をして、染井さんの方に向き直る。
「ごめん。そういうことだから、今日は忙しい――」
そう言いながら染井さん顔を見ると、信じられない表情をしていた。
この世全てを悟って、見捨てたように冷たい顔。
今までの態度や言動からでは想像できない表情に言葉を失ってしまった。
これが染井さんの本当の顔……?
「ねぇ、久野くんってあの女と付き合ってるの?」
染井さんは顔をうつ向かせて、ドアにいる紗季を指さして訊いてくる。
「い、いや、付き合ってないけど」
なぜだか返答に少し緊張してしまう。
まるで、浮気が嫁にばれて怒られているみたいだ。
「へー、そうなんだ」
先ほどから声が変わっていて、少し怖い。
「ふぅ」
染井さんは一度息を吐いて、にぱぁとした笑顔で顔を上げる。
「ねぇ、久野くん」
染井さんが一歩近づいてきた。
クラスメイトがまだいるのになかなかに大胆な行動をするのね、この子。
「私たち」
「付き合おっかっ!」
……。
「「「「「「えーー!」」」」」」
染井さんの告白によって、クラスメイトが狂乱状態になる。
しかし、俺の返答が気になるのか、すぐに静かになった。
これに対する俺の返答はただ一つ。
「ごめん、無理」
……。
「「「「「「えーーーーーー!」」」」」」
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