第9話ギルドマスター

 迷宮で死にかけたことによって、オレは新たな力を入手。

 念願だったレベルアップが可能になり、スキルも手に入れた。


 司祭様から冒険を続ける許可を得て、初心迷宮の子鬼ゴブリン狩りに。

 1週間かけて子鬼ゴブリンを282匹倒して、魔石も282個ゲット。


 でも冒険者ギルドの受付で、強面のギルドマスターに連行されてしまう。


 ◇


「おい、お前、ちょっとオレの部屋まで来い!」


 強面なギルドマスターに、奥の部屋に連行されてしまう。

 完全な個室に、二人きりになる。


「オレがここのギルドのライザックだ!」


 ギルドマスターのライザックさんは、かなり大柄な人。

 スキンヘッドで筋肉隆々、肌の見える部分には傷跡が沢山ある。


 腰に大きな斧を下げて、かなり強そうな戦士タイプ。

 あと顔が熊のように怖い。


 あっ、そうだ、オレも名乗らないと。


「オレはハリトと申します。そこの孤児院出身で、Eランクの冒険者です」


「やはり、そうか! お前はあの【成長阻害の呪いのハリト】だろ?」


「えっ……オレのことを知っているんですか?」


 オレの呪いの名称は、ごく少数の人しか知らない。

 鑑定してくれた司祭様と、オレが本当に親しい人だけ。


「お前んところの司祭は、オレの友達ダチだからな!」


「あっ、そうだったんですか……」


 厳格で真面目な司祭様と、熊のようなギルドマスター。

 真逆なイメージなので、繋がっているとは思わなかった。


 一体どういう関係なのだろうか、二人は。


「それにしてもハリト、あの魔石の尋常じゃない数は、いっいたなんだ⁉」


「えーと、初心者迷宮の依頼を受けて、それで一週間コツコツと子鬼ゴブリン狩りをしていたら、あんな数になってしまいました」


「ほほう。そういうことか。一日当たり子鬼ゴブリン四十匹狩りか……まぁ、ランクEにしては悪くない。エリックの言っていた通り、レベルを上げられるようになったんだな、お前は⁉」


「あっ、はい。エリック……えっ、司祭様から、レベルアップのことも聞いていたんですか、オレの?」


 エリックは司祭様の名前。

 そしてオレの呪いが解けたことは、まだ司祭様しか知らない。


「ああ、五日ほど前に、エリックと飲んでな。そこで言われた。『ハリトという者が、これから世話になるからよろしく』ってな!」


「そ、そうだったんですか……」


 まさか司祭様がそんな根回しをしていたなんて。

 心の中で感謝だ。


「さて、話を戻すが、さっきの魔石を出したのは【空間収納】というヤツだろう?」


「えっ……」


 いきなり言い当てられたので、心臓が止まりそうになる。


 同時に冷静になる。

 たしかに普通は、あんなに多くの魔石は鞄から出せない。


 きっとギルドマスターは【空間収納】について知っているのかもしれない。

 それなら相談してみた方がいいかも。


「実は……子鬼ゴブリン狩りをしていた時に、急に会得したんです。ためしに使ってみたら、あんな感じに。ギルドマスターは【空間収納】のことは知っているんですか?」


「ああ、噂だけならな。なんでもSランク冒険者の連中の中には、使える奴がいるらしい」


「えっ……Sランク冒険者の人が……」


「普通は存在すら知られていない。オレですら噂に聞いたくらいだ。たぶん、【空間収納】を使えるSランクの奴も、コッソリと使っているんだろうな」


「な、なるほどです……」


 やってしまった。

 そんな特殊なスキルを、あんな大勢の前で使ってしまったのか。


 なんか事件に巻き込まれそうな、予感しかしない。


「だが、安心しろ。魔道具の中には【収納袋】という物がある。ほら、これだ!」


 ギルドマスターが見せてくれたのは、ごく普通の袋。


「これが……普通の袋に見えますが?」


「だろう。だが、こうして物を入れると……」


「あっ、本当だ! 【空間収納】と同じように収納された⁉」


 貧乏なオレは。高価な魔道具についての知識は少ない。

 初めて見る魔道具に、思わず興奮してしまう。


「だから今後、【空間収納】をツッコまれたら、【収納袋】だと言いはれ。もちろん袋からの出し入れの練習をしてな!」


「あっ、なるほど! アドバイスありがとうございます!」


 ギルドマスターの話は本当に助かった。


 これで人前でも【空間収納】を使うことが出来る。

 もちろん表向きは【収納袋】を使っている演技をして。


「だが普通の【収納袋】は、あそこまで異常な量は収納できない」


「えっ……そうなんですか?」


「ああ、だから。気をつけて使え。お前の【空間収納】はかなり特殊で異常だ」


「なるほど、分かりました」


 そうか収納袋は沢山入らないのか。

 オレの【空間収納】の異常性に改めて実感する。


「ちなみに他には、どんなスキルを習得した?」


「えーと、他は剣技(片手剣)と回避(受け流し)、隠密です」


 とりあえず固有スキルのことは、まだ言わないでおく。

 オレ自身もよく分からないから、言葉では上手く説明も出来ないからだ。


「なるほど。そっちは一般的なスキルだな……ということは今のところ【空間収納】だけが特殊なのか。ふむ」


 ギルドマスターは何やら思案顔。

 何かあったのかな?


「これもエリックから聞いた話だが、お前は今後も、特殊なスキルを会得していくらしいぞ」


「えっ……また別のスキルを……ですか?」


「ああ、そうだ。その左手の刻印は、そういう類のモノらしい」


「なるほどです……」


「だが世の中は良い奴ばかりじゃねぇ! お前の特殊なスキルを、悪用しようとする奴も出てくるはずだ。いや、必ず近寄ってくる!」


「はい……そうですね……」


 オレは今までの不遇な人生で、色んな人たちを見てきた。


 強すぎる力や金は、多くの人を狂わせてしまう。

 特に冒険者という人たちは、普通の何倍も強い力やスキルに執着している。

 そして、そんな人たちは手段を選ばない。


 だからこそ先ほどオレは、迂闊なことをしてしまったのだ。


「その顔だと分かっているみてぇだな。だから今後、もしも特殊なスキルを会得したら、とりあえずオレの所に相談にこい」


「えっ……ギルドマスターのところにですか?」


「ああ、オレの方で、またアドバイスしてやる」


「あ、ありがとうございます!」


 天の助けのような声だった。

 冒険者ギルドで仕事をする上で、ギルドは切ってきれない縁。

 アドバイスと後ろ盾は、とても助かる。


「だが、その前に、お前も“強く”なれ」


「えっ……強くですか?」


「ああ、そうだ。これはレベルやスキルだけの話じゃない。自分自身を強くしろ! あんな底辺の連中に、馬鹿にされるような冒険者じゃない。アイツ等がビビッて、一斉に下を向くくらいにオーラを発する冒険者になれ!」


「“オーラを発する冒険者”……分かりました。努力します!」


 すごく魅力的な言葉だった。


“オーラを発する冒険者”……か。

 抽象的だけど、魂にグッとくる言葉だ。


「その前に、その服装を何とかしておけ」


「あっ、はい。そうですね。分かりました」


 今はボロボロの服

 たしかに“オーラを発する冒険者”には程遠い。


「とりあえず……この店に行ってみろ。オレの知り合いの店だ。掘り出し物があるかもしれない」


「あっ、はい。ありがとうございます!」


 ギルドマスターが書いてくれたのは、店の住所と名前。

 名前からして、防具屋と雑貨屋なのであろう。


「それじゃ、そろそろ魔石の換金も終わっているはずだ、行ってこい、ヒヨっこ!」


「あっ、はい。ありがとうございました、マスター!」


 深く頭を下げて感謝を捧げる。

 本当に良くしてもらった。


 ――――だが、オレが顔を上げた、その時だった。


 !!!


「……【大戦斧ハッパー・アックス】!」


 ビュン!


 目の前に、鋭い戦斧の刃先があった。

 つい今まで、ギルドマスターの腰にあった斧だ。


「どうだ? オレの腕も、まだ錆びちゃいないだろう」


「い、いえ………お見事です、ギルドマスター……」


 ようやく理解した。

 ギルドマスターは居合い攻撃で、寸止めをしてきたのだ。


 あまりの流れるような速さ。

 そして鋭さ。


 オレは回避することすら出来なかった。


「これが“元Aランク冒険者”の域だ。道しるべとして、覚えておけ」


「は、はい、ご教授ありがとうございました!」


 再度頭を下げて感謝を告げる。

 ギルドマスターは教えてくれたのだ。


“オーラを発する冒険者”とは、どのレベルの世界なのかを。

 身をもって教えてくれたのだ。


 有りがたい気づかい。

 本当のおとことは、こう人を言うんだろうな。


 トントン


「マスター失礼します」


 その時に入ってきたのは、受付のお姉さん。


「ハリト君の換金を持ってきました……って⁉ 何やっているの、パパ⁉ 人に戦斧を向けちゃ駄目でしょ!」


 なんと受付のお姉さんは、ギルドマスターの実の娘だった。


「いやー、つい、うっかり……」


「ハリト君が怪我でもしたら、どうするのよ! もう!」


 前言撤回。

 ギルドマスターも、やんちゃな男の人だった。


 娘に叱られているのを見て、何となく親近感が湧いた。


「あっ、ハリト君。これが報酬です。これで今回の依頼は終わりです」


「あっ、ありがとうございます」


「でも、次は絶対に無茶をしては駄目よ! あと、定期的に報告に来ること!」


「わ、分かりました……失礼します!」


 受付のお姉さんは、いつも以上に世話を焼いてきた。


 あと事務所の裏口から、出ることを進められた。

 アドバイスに従って、オレは裏口から裏通りに出ていく。


 ふう……よかった。


 念のため報酬を数えてみる。

 全部で14,100ルピー入っていた。


 子鬼ゴブリンの討伐報酬は一匹当たり30ルピー。

 子鬼ゴブリンの魔石は1個当たり20ルピー


 そう明細に書いてあった。


「14,100ルピーか……こんな大金、貰ったのは初めてだな」


 この迷宮都市では一日100ルピーもあれば、最低限の生活が可能。

 つまり百四十日分、約四ヶ月分もの生活費を、一気に手に入れたことになるのだ。


「しかも鍛錬した恩恵もあるし、迷宮探索は本当に良いことばかりだな……」


 ピロ~ン♪


 ☆《チャレンジ『チ下町の冒険者ギルドの依頼『初心者向け迷宮の子鬼ゴブリン討伐』にチャレンジしよう』を完了しました》

 ☆《特別経験値が付与されました》

 ☆《魔物討伐の経験値が付与されました》

 ☆《ハリトのメインレベルが2上昇しました》

 ☆《スキルポイントを9ゲットしました》


 おお! チャレンジをクリアしたから、経験値が貰えてレベルアップをしたぞ。


 しかも今回は魔物討伐の経験値も加算。

 一気に二個もレベルアップだ。


 さっそくステータス画面を確認してみよう。



 ――――《ステータス》――――


 □名前:ハリト(♂16歳)

 □職業:剣士

 Up!メインレベル6→8

 Up!スキルポイント:10→19


 □スキル

 ・剣技(片手剣)レベル2

 ├斬撃スラッシュ

 └飛斬スラッシュ・カッター


 ・回避(受け流し)レベル2

 ├見切り

 └受け崩し


 □隠密レベル1

 └New!忍び足


 ・空間収納レベル1

 └New!収納リスト


 □固有

 ・《観察眼》

 ・■■■■■■■■■■


 Up!身長168→172センチ


 ――――◇――――


 おお、ちゃんと二個もメインレベルがアップしている。

 スキルポイントも大盤振る舞いだ!


 あと《隠密スキル》に《忍び足》を会得。

《空間収納》に《収納リスト》も増えているぞ。


 この効果も後で、ちゃんと試しておこう。

 名前的にはどっちも使いやすそうだ。


 ピロ~ン♪


 ☆《チャレンジ:下町の《萬屋よろずや店》に行って買い物してみよう。チャレンジする?》

 □YES

 □NO


 おっと、更に新しいチャレンジが出てきたぞ。


 下町の《萬屋本店》……これは、さっきギルドマスターに紹介された店だ。


 相変わらずタイムリー指令だな。


「よし、もちろんYES!」


 さっそく防具と雑貨の店に、オレは足を向ける。


「あっ……でもお金が足りるかな……?」


 防具類は高いからな。


 ちょっと心配な感じだ。



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