常世と現世と月結び〜命を狙われているらしいので、お狐様の許で薬師見習いはじめます〜

杉崎あいり

第1話 プロローグ

 桜が舞い、暖かな風が足元を駆け抜ける。


 私、神崎 結奈かんざき ゆいなは買い物袋を両手に持ち、河川敷を歩いていた。


 右手には今日の夕飯の材料が。

 左手には日用品のあれこれが。

 牛乳パックが少し重くて、私の肩は天秤のように傾いていた。


 いつもの日常。


 しかし、そんな穏やかな時間は、長くは続かなかった。


 初夏の風が熱風となり、私の足に絡みつく。

 いつもなら綺麗だと思える、水面に反射するオレンジの光が、ギラギラと輝き始める。

「なんだろう?」なんて思う暇もなく、私はバランスを崩して川へと引き込まれてしまった。


 水に飛び込んだ衝撃はなく、気がついたら水中にいた。


 寒くもなく暑くもなく。

 ただひたすらに沈む。

 ゴボゴボと耳元で唸る水音は聞こえているのに、息苦しい感じが全くしないことが逆に怖かった。


「まるで自分が水の一部になったみたい」


 包み込まれる感覚を最後に私の意識は遠のいた。

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