第4話
「そもそも私がこの街に来たのはね、ある研究施設、ってのがこの森自体だったんだけれど。ここにあるものを探しに来たの。ほら、あそこに小屋があるでしょ?」
女が指した方向には、木々に隠れて見え辛いが小屋が確かにあった。
「ふむ。一体なにを探しに来たのじゃ?」
「……まあ、たいしたものじゃないよ。見つからなかったし。それよりも、探しに来たと同時に暗殺の依頼も受けてて、対象がさっき変身した研究者のおばあさんだったって訳」
「研究というのは、魔獣の開発や改造か?」
「そうだよ。よく分かったね。」
ハルシウスが自信満々に語る。
「わしが昨日殺した魔獣が森に似合わず獰猛で違和感があったのじゃ。体中に縫い目もあったし肉も不味かったからの!」
ルミオは驚いて、熊の死骸に目をやる。
「うん。主に魔法臓器についての研究をしていたみたい。おばあさんが問題だったのは子供や希少な生物を勝手に拉致して検体に使ったことだね。希少生物の愛好家に恨みを買ってたっぽいよ」
ハルシウスとルミオは神妙な面持ちで話を聞く。もしかしたら自分もそうなってたのかも、とでも思ったのだろうか、ルミオは槍をぎゅっと力強く握った。
「で、おばあさんは昨日殺したんだけど、森を調査してたら面白そうな人が入ってくるじゃん。おばあさんの私有地なのに。そこからはずっと隠れてあなたを見ていたんだけど、やっぱりバレてたんだね」
降参だと言わんばかりに両手を軽く上げて見せた。
「当たり前じゃろう。これまで幾度となく死角から殺されかけたのじゃ。この程度慣れておる」
女は平静を装ったが、たらりと冷や汗がこぼれる。
「成る程……私も隠れるのには自信があるんだけどね。もしかしたらとんでもないことをしちゃったのかもね。……それで、二人は何しにここに来たの?」
女が不思議そうな顔をして尋ねる。
「うぬ。わしらはこの森近辺の危険生物の狩猟をしようと思っててな……」
女の足元にある鹿の魔獣の死体を見ながらハルシウスは言った。
「あらら、なんかごめんね。調査するために全部殺さなきゃいけなかったから。もう魔獣は多分残っていないよ」
「問題無いぞ、その死体を渡して貰えればな。狩猟の証拠が欲しいのじゃ」
女は暫くぽかんとしていたが、何か分かった様な顔になった。
「ああ、お金?」
「そうじゃ。遠出をするために金が必要でな!」
「へえ……。その話、聴きたいな。取り敢えず場所移そっか。あと、私はプリシラ。よろしくね」
そして三人は街へと戻って行った。
街の静かな喫茶店へと入り、注文を済ませて話にもどる。
「時にプリシラよ。お主は指名手配されてるそうじゃが顔が見えても大丈夫なのか?」
ハルシウスはプリシラに目をやる。変装もせず顔も覆ったりはせず、堂々と座っている。これでは誰にでも顔が見られる状態だ。
「うーん。指名手配はされてるけど顔はバレてないっぽいし大丈夫でしょ。そう言えば私が見つかると二人も困るかもね」
口ではふふっと笑う。しかし実際のところ、二人を一切見ずにつまらなそうな表情のまま自らの爪をいじっている。ルミオは愛想笑いを浮かべた。
「……まあ変身するには対称のことを深く理解することがこの仮面には大事だからね。面倒だし、こんな力だから自分のままの時間も作った方が良いかなって思ってる」
プリシラは遠くを見ながら話した。
「うむ、それもそうじゃな。ばれてもわしがいればなんとかなろう。それよりわしとルミオについてじゃが……」
ハルシウスは自分の経歴や勇者のこと、二人がルミオの故郷を目指していることを話した。
「へえ。私は世界中の色んな所を行ったり来たりしているけど、そこは知らないなあ。未だに国も把握できてない集落なんていくつもあるだろうし、もしかしたらその一つなのかもね。魔王とか勇者についても知らないなあ。一応これでも知識はある方だと思うけど」
三人とも困り果てる。
「やはり分からぬか。何処か要所に行けば人が集まるから何か分かると思うのじゃが、おすすめなどあるか?」
ハルシウスはプリシラに尋ねる。プリシラは暫く考えると、自信なさげに答えた。
「うーん。何か分かるかは保証出来ないけど、今から私が行こうと思ってたメフロンに行ってみる? 一応大国だし人は色んな国から集まってくるよ」
「ほう! どんな所なのじゃ?」
「メフロンは獣人の国だね。ここよりも獣人がいっぱい居て大きな警備会社の本社がいくつもあるんだよね。国は主にそれで成り立っているかな。観光も凄いよ。メフロンでしか食べられない果物が沢山ある」
「なるほど……」
ハルシウスがじゅるりと涎を垂らしながら頷く。
「依頼の報酬貰えるなら二人も行けるんじゃない? ここから近い方の大国だし充分足りると思うよ」
ルミオが驚いて尋ねた。
「歩いて行くんじゃないんですか?」
「うん。歩いても行けるには行けるけど、ここからならお金払ってでもあれで行った方が良いよ。ほら、今日もちょうど、着いたんじゃない?」
プリシラが指差した方では轟音が鳴り、煙が昇っている。蒸気機関車が到着した所だった。
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