魔王さまりたーんず!
ヴィクトル1150
プロローグ
魔王城の最深部。灯りは落ち、城内はグラグラと揺れて壁一面に沿って並ぶ書物は散らばり、魔王の使っていたデスクが倒れる。
「うぐ……」
魔王はジリジリと後ろに下がるが、壁にぶつかり退路が断たれる。横目でチラリと後ろを見ると、豪勢な額縁に覆われた白黒の自画像がかかっており、それを見た魔王は苦々しく笑った。
尚も勇者の突きつける大剣は魔王の首元に近づいている。
「もう諦めてくれ! 僕だって本当はこんなことしたくないんだ」
勇者が大剣にぐっと力を込めると、刃に刻まれた刻印が強く光り出した。
照らし出された魔王の顔は厳しく、黒い魔力が目の周りから滲み出ている。
「何故やりたくないのにお主はこの様なことをした? どちらかと言えば不意打ちは魔王のすることじゃろ」
かっかっかと魔王は乾いた笑いを零すが、勇者は沈黙を貫く。
「勇者の名に恥を付けてまですることじゃったか?」
「……国のためだ。国が続くなら、勇者なんて居なくても問題ないのさ。さて、もう時間が無い。降参しないのか?」
更に大剣を突きつけ、魔王の首筋からは血がツーと流れ落ちる。
城が綻ぶ音がしんとした部屋中に響き渡る。
魔王が唾を飲み、答えた。
「わしは生憎お主とは違って諦めが悪いのじゃ!!」
魔王は腕で大剣を振り払おうとするが、それを読んでいた勇者が大剣を首に突き刺した。しかし、大剣は壁に当たったように跳ね返り、勇者は仰反る。
魔王の首にはいつの間にか黒い煙が巻かれていた。
「くっくっくっ、まだ遊べるようじゃの」
魔王は息を切らしながら、人差し指を回して首と同じ禍々しい煙を出す。しかし、煙は途切れ途切れで弱々しい。
「……魔力切れの様だな。これで終わりにしよう」
勇者が大剣を上に振り上げる。
数秒後、大きな音に続いて雷が天井を突き破り、魔王の頭上に降りかかった。一瞬の出来事に反応すらできずに足掻く間もなく雷を浴びる。
しかし、煙が晴れると魔王は未だ悠然として立っていた。目立った傷は見られず、天井だった破片がパラパラと虚しく振っているだけだ。
「なんだ、この程度か?」
埃を払って笑いかける魔王に対して、勇者は哀しい顔で魔王を見つめながら答えた。
「二度と会わないことを祈っている。もっと良い時代になっていると良いな」
勇者の言葉に反応するかのように、魔王の周りにいくつもの光の粒が現れ、その身体に入って行った。それに伴って徐々に全身が光り出し、へたりとその場に尻餅をつく。
魔王は、微かに震える自らの両手を見ながら叫んだ。
「なんじゃ、これは? 身体が動かぬぞ!」
勇者は何も喋らない。ただただ魔王を見つめ続けていた。
「答えろ! 勇者よ! 何故このような……」
魔王は全てを言い切る前に深い深い眠りについてしまった。
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