橋の上

第十三話

 夏を迎える間際。

 数日続いた長雨から日を置いて、再び降り続いた雨の期間がようやく収束した土曜日。

 半端な田舎特有の半分道になってる庭を眺めながら玄関で待っていると、ヘッドライトを光らせ大きな道からジープが入ってきた。

 律儀に私の目の前に助手席の扉がくるよう止まった車体。


「お待たせ」


 中からの操作で窓が開き運転席に誰がいるのかをこちらへ知らせる。


「今日は遅くなかったでしょ?」


「珍しいこともあるんだなって驚いています」


 二、三言窓越しに言葉を交わし助手席に乗り込む。


「はいこれ」


 カーラジオから流れる歌を耳に入れながら須藤さんの声にも耳を傾ける。

 発進前に差し出されたのは質素な茶封筒。

 彼女の仕事の手伝いを始めてからよく見ている物。


「いつもありがとうございます」


「こちらこそいつもありがとうございます」


 仰々しくお礼を言い合い受け取る。

 封筒の紙は薄いながらも、窓から入り込む薄暗い光では透かして見ることは出来ず、しかし何が入っているのかは容易に予想出来た。

 橋の上に現れる着物姿の幽霊。

 市民の何とかしてほしいと言う依頼を受けて解決をした。

 その手伝いに見合った報酬。

 一時間千円。一日上限一万円で計算されるバイト代はこうして直接手渡しされる。

 少し面倒をかけているかも知れないけれど、生憎私は自由に使える口座を持っていない。

 それにこうして手渡しの方がその場で確認できるし、気晴らしドライブの運転手として呼び付ける口実にもなる。

 というわけで早速封筒を開ける。

 お行儀が悪いと思いながらも中身を覗き込む。


「…………須藤さん」


 すぐに目線を上げて運転席にある顔を見る。


「ちょっと多くないですかこれ?」


 封筒の中には諭吉さんが三人。


「成功報酬と上乗せ分込みでも多いですよこれ」


 えっ、いいのこれこんな貰っていいのとあたふたする私を乗せてアクセルが踏み込まれる。


「いやー今回乙木野結構頑張ってくれたからさ。夏休みも始まるし、ボーナス込みってことで」


 発進して窓からの風景が流れる。

 私の家をバックミラーに映してニヤニヤする顔はご満悦で。


「えっ、でも私の提案で色んな人呼びましたし、その分の料金差し引いたらもっと少ないんじゃ」


「あぁ、あれ理由適当にでっち上げて経費で落とした」


 いつもなら落ちないものが落ちて自腹切らずに済んでよかった嬉しさもあるのだろうと察した。


「こんなこと滅多に無いんだからさ。小難しいこと考えず受け取っときなよ」


「…………それじゃあ、お言葉に甘えて」


 ありがたいやら身に余るやらの気持ちと共におずおずと持ってきていたカバンに茶封筒を仕舞う。


「コンビニ寄っていい?」


 バイト代の話はここまでと区切るよう提案する須藤さんに小さく頷き。


「今日は奢りますよ」


「えーほんとーふとっぱらじゃーんなんでかなーなんでだろーなーりんじしゅーにゅーでもあったのかなーそんじゃあお言葉に甘えちゃおっかなー」


 せめてお菓子と飲み物代くらいは還元しないとと自ら申し出た。

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