5−2

 戦争は苛烈で長いものとなった。

 アリーシア達、アルゴン・ハイホン連合国軍は主力の歩兵が12,000、騎馬が3,000、戦車は合わせて30輛しか持っていなかった。

 対するイジュラ国は歩兵35,000人。軍全体の規模は定かではなかったが、100あまりの戦車も待機させているという話で、数では圧倒的に連合国側が不利だった。

 しかし、そこにアンカーディア率いる闇魔法で生成された骸骨の歩兵5,000が投入された。漆黒竜グレンに、白銀竜アベムも自身の主人たちとともに参戦した。グレンは火炎と闇魔法を、ユーシスは兵士の生成こそできなかったが、アベムとともに風の精霊達を繰り出して戦うこととなった。


 開戦は晴れた寒空の下だった。

 国境の川を挟み、両軍は向かい合っていた。

 黒と白の2国旗をかざす南軍はアリーシア達連合国軍、緑の国旗の北軍はイジュラ国軍だった。

 開戦の宣言がされ、旗が振られた。

 一斉に両軍の歩兵が浅瀬を目指し駆け出して、騎兵が川へ飛び出す。

 戦車は要所々に配備されて、お互いの関所を切り崩そうとしていた。


 最初は、連合国側が押され気味だった。

 なんと言っても歩兵だけで倍の戦力差がある。

 数々の国を力で平定してきた大国らしく、戦術に長け、兵士たちの統率もよくできていた。

 けれど、アンカーディアが生成した闇の歩兵たちは死を知らぬ不死身の兵士達だった。

 骸骨の兵士達は切り倒されようとも、戦車で吹き飛ばされようとも、倒れたその場に出現する黒い沼地の底から復活する。

 それに恐れをなして背を向ければ、ある者は白銀竜アベムの放つ風の刃に首を掻き切られ、ある者は漆黒竜グレンの火炎に全身を焼かれた。

 じわじわと戦況は連合国側に傾いていた。

 長引く戦争にも、連合国側の士気が衰えない理由はアリーシアにもあった。

 戦闘経験のないアリーシアは戦場にこそ姿を現すことはなかったが、兵士たちの間にはその存在がまことしやかに囁かれていた。

 戦争の前に国民へと公表された、アリーシア姫の突然の帰還。

 死んだも同然とされていた姫の帰国に国中が湧いた。 

 さらには呪いの術者であったはずのアンカーディアの参戦もあって、アリーシアは聖女として崇められていたのだ。

 ユーシスや漆黒竜グレンも同様だった。

 アンカーディアの呪いを解いた英雄ユーシス。アリーシアの義兄。

 もとはアルゴン国の守護獣であり、今はアンカーディアの騎獣である漆黒竜グレン。

 このタイミングでの4者揃い踏みに、兵士たちが歓喜しないわけがなかった。

 自分たちは、賢者や竜、聖女へ守られている。

 連合国の兵士たちは勇気を持って戦場へ赴くことができた。

「勝利をアリーシア様に!」

「我々にはアンカーディア様がいるぞ!」

 兵士たちの声に応えるように、グレンへ騎乗したアンカーディアが先陣を切って残党狩りへと乗り出す。

 終結は間近だった。

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