レシピ10 2人で練習開始♪ まずは楽しく料理すること
水族館から帰りの電車の中2人で並んで座っている訳だが、なんか前より距離が近いような……嬉しいから良いんだけどね。
そこでゆめが最近、牛脂で焼いた鯖のハンバーガーを作って自分がただの料理下手じゃなくて、メシマズであることに気付いたこと。
レシピを読んでもその場の思い付きで違うものを混ぜたりすること。
そして味覚に自信がないことを語ってくれた。
俺、裕仁は考える、メシマズを直す方法を。
まずは現状把握だな。ちょっと酷な質問になるかもしれないが大事なことだ。
「ゆめ、メシマズって自分で言ってたけど実際どれくらいなんだ? そうだな、なんかこんなもの作ってお母さんから怒られましたぁみたいな例はないか?」
ゆめは少し考えてちょっとだけ申し訳なさそうな顔で話し出す。
「私が最後に作ったのは高校2年の夏、シーフードカレー。シーフードにお刺身の盛り合わせ使ったら1人で料理するのやめなさいってお母さんに言われた」
思い出して悲しくなったのか目に涙を溜める。
「他には水の分量間違えてお粥になったご飯で生焼け肉と殻入りオムライスとか、ハーブとハチミツでご飯を炊き込んだり、お味噌汁にイチゴを入れて──」
聞いてるだけで辛くなる料理たちだ。これらを出される前にゆめが自分の事に気付けて良かったと思わないとな。
料理そのものに関してはなにかルール的なもの、例えば材料の買い出しは1人でいかないとか、レシピ通り……これは課題として出して徐々にやっていくしかないな。
味覚に関しては小さい頃からピーマンとかバリバリ食べていて好き嫌いのない良い子だって言われてて気にしてなかったらしい。
ご飯の上に板チョコ置いて溶かし食べるのにはまってクラスメイトに「それはないわーー」って言われてから気にはしていたらしい。
病院とかで治るものではないのか?
課題は多いが1つ1つやるしかない。
だが一番大事なのはゆめが料理を作りたい、楽しいと思ってくれること。
そして自信を持って欲しい。
「なあ、ゆめ今度一緒に料理作りたいんだが、なにか自信のあるものないか?」
「ごめん……ない」
「そ、そうか。じゃあなにか作りたいもの、食べたいものとかないか?」
少し上を向いて考えた後
「ハンバーグ」
そうはっきり答えた。
***
それから、ネットで調べたり一緒に本屋に行って料理本を何冊か買ったりして、一番簡単そうでシンプルなハンバーグを作ることにした。
そして今、我々は俺のアパートきの台所……いやお洒落に言おうキッチンに立っている。
「材料の忘れ無いよな?」
「うん、今もう一度確認したけど大丈夫!」
ゆめが敬礼してくるので敬礼で返しておく。
「俺2回くらい作ったことあるけど以外に焼くのが難しいんだよな」
「私、1回。牛乳入れすぎて成形不能になってパン粉2袋投入して……」
涙目になるゆめに俺はそっと肩に手を置いて首を横に振る。
「振り返るな、これからが大事だ」
「そ、そうだね」
ゆめは涙を拭うと思い出したようにリビングに行き袋を持って戻ってくる。
「これ、エプロン買ってきたの。ひろくんの分もあるからどーぞ」
「あぁ、ありがとう」
そう言って袋から出すと手渡される可愛らしいデフォルメされたアシカの絵が描かれたエプロン。ふむ、可愛いが、これは俺には可愛すぎないか? ちょっと躊躇する俺を余所にゆめが自分のエプロンを着けてお披露目してくる。
「どう? イルカにしてみたんだけど」
「ああ、可愛いな(特にゆめが)」
「良かったぁ、とりあえず形から入ろうと思って買ってきたんだけどね。かたち大事! ってそれしか出来ない。えへへ」
アシカのエプロンを身に付ける。なるほど確かにこれだけで料理出来そうな気がする。
「かたち大事だな」
「だよね」
2人で気合いを入れて買ってきた材料を広げる。
[牛豚合挽き肉……400g
玉ねぎ……1/2
パン粉……1/2カップ
牛乳……50cc
卵……1個
黒胡椒……少々 ]
余計なものは一切入れない、ザ・シンプルなハンバーグだ。ソースは作らないケチャップで良い。
そしてハンバーグ以外は作らない。ご飯は炊く、味噌汁はレトルト、サラダはカット野菜だ。
今回の目的はゆめがメインで作り上げること。無理はしない。
忘れないうちにご飯をセットしハンバーグ作りに取りかかる。
「まずは玉ねぎをみじん切りにしようか」
ゆめが包丁を構える。ほう、この構えは玉ねぎを殺る気だな。
包丁の柄を両手持ちし腰を低くしてお腹の辺りで構え今にも玉ねぎを一刺ししそうなその姿に感心すら覚える。
「ゆめさん、一体何を殺るのでしょうか?」
「あ、えっとねぇ。えへへへ」
「ゆめって料理するとき何を考えてる?」
俺の質問にゆめが必死で考え始める。頭を抱えて考え始め唸っている。
「絶対に美味しく作らなきゃ! って考えてるかな」
「なるほどな」
なんとなく予想通りの答えだ。高校時代のお弁当話から察するに「美味しい料理を作らなきゃ」って気持ちが先行し過ぎだと思う。
それに加えて元から持っている不器用さと味音痴が加わっているのがメシマズに繋がっている気がする。
「なあ、ゆめ。ハンバーグってどんな形だっけ?」
「えっとね、丸か小判型かな?」
「じゃあ最終的にそれを目指して捏ねような。玉ねぎはみじん切りだし少々形なんて気にしなくて良いし、順番に作ればそれなりの味は出せる。それなりを目指してみよう」
ゆめが首を傾げる。
「美味しく作ろうってのも大事だけど、まずは気楽に、出来れば楽しく作ることを心がけた方が良いんじゃないか」
「うん、頑張る」
そう言って笑うゆめは今日も可愛い。
「おっとそうだ、これを買って来たんだった」
そう言って俺はノートを出すとゆめに渡す。
「これは?」
「それに作った料理と気付き、感想なんか書いていこうかと思ってね。失敗しても次に繋がれば良いかなって」
「ありがとう、大事にするね」
ノートを嬉しそうに広げて早速『ハンバーグ』と今日買ってきた材料を書いている。
「じゃあ早速玉ねぎ切ろう、大体で良いよ後から切り刻もうぜ」
「うん、切り刻む♪」
ザックリ切られた玉ねぎをまな板の上で再び叩きみじん切りへと進化させる。
「ねえ、ひろくん」
「ん? どうした?」
「私の手、玉ねぎ臭い」
「へぇ~ノートに記しておこう。ゆめの手は──」
ゆめが俺の鼻に玉ねぎの手を引っ付ける。
「なっ、臭い俺が玉ねぎ臭い」
「えへへへ、この苦しみを味わうが良いさ、ひろくん!」
「ぬぬぬ、ゆめが反撃してくるとは油断した」
どうでも良いやり取りをしながら玉ねぎを炒め、キツネ色とやらを目指し冷ましておく。
パン粉は先に牛乳で湿らせておくと良いらしいので規定量入れておく。
そしてゆめが卵を割る。
「あんまり殻が入らなかったよ」
嬉しそうにゆめが報告してくる。
「聞いてた話より上手いんじゃないか」
「そ、そうかなぁ」
ちょっと恥ずかしそうにゆめが照れる。ゆめは落ち着いてやれば出来る子なんじゃないかな? 大きい殻を取り除き卵を溶く。
そのままボールに合挽き肉を入れ、玉ねぎ、牛乳で湿らせたパン粉、溶き卵を入れ混ぜ合わせる。
「あぁ~手が気持ち悪いぃ。今度は肉臭いよ~」
「使い捨てのビニール手袋とかあると良いのかな? それはメモしておこうな。おっと肉臭いとは書かないからそれは顔に付けないでくれよ」
「バレたか、って流石に生肉を付けたりはしないよ」
ゆめが楽しそうに笑っている。玉ねぎも大概やめて欲しいが楽しそうなのでよしとしよう。
それっぽい形に成形しフライパンに入れて焼く。片面に焼き色がついたらひっくり返して水を入れて蓋をして蒸し焼きにする。
竹串を刺して肉汁の透明度を確認し皿に移す。
後はそのハンバーグにケチャップをかけ完成だ。後は炊けたご飯とカット野菜を盛り付けレトルトの味噌汁を作って晩御飯が出来上がる。
俺が食べるのをゆめが真剣に見る。ゆめの緊張が伝わり俺まで緊張してくる。
ハンバーグを箸で切って口に運ぶ。緊張する。口の中で先にケチャップの酸味が少し感じられその後を遅れて肉の凝縮した旨味と薫りが広がる。
「美味しい! ゆめ、美味しいよ」
「本当! そんなこと言われたの初めてだ……よ……」
泣き出すゆめを抱き締める。なんか普通になってきたなこの流れ。
「今回のハンバーグは間違いなくゆめが作ったから自信持って良いと思うぞ。折角作ったんだし温かいうちに食べよう」
ゆめは頷くとハンバーグを食べ始める。
「うん、美味しい。これは私にも美味しいって分かるよ」
涙がまだ乾いていない潤んだ目で笑う。
完食した俺たちは一緒に片付けをする。
「ひろくん、今日はありがとう。初めてちゃんと作れたよ。それに楽しかった」
「そっか、それなら良かった」
俺は濡れた手を拭きながら振り向くとゆめが抱きついてくる。
「頑張る、これからも頑張るから……その……一緒にいてくれる?」
「ん? 一緒に頑張るって言ったんだから当たり前だって。一緒にいるよ」
潤んだ目で見上げるゆめを見ていたらドキドキしてきて、気がつけば唇を重ねていた。
最近でこそ腕を組んだり手を繋いでくれるが、最初はガチガチに緊張していたのでゆっくり関係が進めば良いかと思っていたのでこれがゆめとの初めてのキスだったりする。
キッチンでってのが俺ららしくて良いのかな?
長い間重ねていた唇を離すとゆめが相変わらず潤んだ目をしているがなんとなく熱っぽい顔をしていて、可愛いけどどちらかと言うと色っぽい……
少し恥ずかしそうにボソッと呟く。
「もう1回……いい? だめ?」
危うく理性が飛びそうになる……。
って今回はここまで。料理の話から外れすぎた。続き? もう少しで終わるかな?
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