第57話 クランメンバーズ Ⅸ

 ジキンさんとケンタ君がファーストアタックを決めた。

 それを見てマリンとユーノ君が動き出す。

 きっと私に自慢しようと練っていた策をご開帳してくれるらしい。

 私はそのショットを撮り逃さないようにカメラを構える。



「いっくよー! 本邦初公開! 『水操作』+『重力操作』複合スキル──〝水遁の術〟!!!」


【水のない場所でこれ程の水遁を!?】

【すげー、称号スキルにそんな使い道が?】

【アイエエエエ、ナンデ!? ニンジャナンデ!?】



 本当に驚いた。称号スキルは使い方次第で活路を切り開くものだと教えたことはあったがこう使ってくるとは!

 思わずカメラを握る手に力が込められる。


 まさに冷水をかけられたと言わんばかりのリンドブルムに、今度はケンタ君のツープラトンボムが炸裂した。

 あれ? これチェインアタック成立してる?


 畳み掛けるようにユーノ君が編み上げた術を解き放つ。



「マリンちゃん! 合わせて!」


「うん! 大技だね!」



 まだまだ私を魅せてくれるらしい。

 私はショートワープを繰り返し、ベストショットの位置取りを測る。



「我が敵に其の力を振るえ! 『チェインライトニング』+『召喚:シャドウ/ハウンド型』──複合スキル〝サンダーウルフ〟」


【うぉおお、テイムモンスターにスキル複合させれたんだ!?】

【え、そんなことできるの】

【このゲーム本当、なんでもありだな!】


「其は雷、其は悪魔。顕現せよ雷獣! ──複合スキル〝ツインライトニングパンサー〟」


【は? ユーノちゃんのスキルを奪った?】

【奪って合体させたのか?】


「実は味方に向けてデバフ魔法をかける事で相手に対象を移す、相手の物にすることができるらしいんですよ? 今のところマリンちゃんぐらいしか成功例がないので、皆さんも練習すればできるかもしれませんね」



 ユーノ君が淡々とネタバレをしつつ状況を説明。

 すでに攻撃スキルと霊装の複合はヒャッコ君が実践してた。

 けれど他人のスキルを奪って自分のスキルと合体させるなんて知らない。

 それをこの子達は独力で昇華させて見せたのだ。


 すでにその情報を持っていたプレイヤーも居ただろう。

 しかし孫達に花を持たせるために驚いてみせた。

 せっかくのお披露目に水を注すのも悪い。

 大人な対応で配信の趣旨を理解するように一緒に盛り上げてくれた。


 チェインが繋がる。

 ツインライトニングパンサーは重力、浮力をものともしない雷と影の召喚体。


 戦闘フィールドをそれこそ我が物顔で走り去り、リンドブルムの肉体を突き抜けた。

 実態を持たないビームに対して苦手意識のあるリンドブルム。

 マリンとユーノ君の合わせ技、ツインライトニングパンサーにも勿論面倒臭そうに対応する。


 なんせ影+雷だから実態がない。


 その上でその牙がリンドブルムのスタミナ値を大幅に削っていく。

 考えたな、内側に潜り込めば影が作りたい放題。

 そして影ができれば雷の力に身を隠していた、シャドウ/ハウンド型が活きてくる。

 アレの牙はランダムでこちらのSP、ST、ENを削ってくる。要は相手に何も行動させないのだ。


 その隙をケンタ君とジキンさんが放っておく筈もない。


 チェインが繋がる。

 5HIT!

 6HIT!

 7HIT!

 見えないところでリンドブルムに状態異常をかけ続けるツインライトニングパンサー。

 そこへジキンさんの棍棒がリンドブルムの脳天を捕らえた。


 武器まで巨大化できるなんてズルくない?

 もはやアトランティス陣営で居ながらムー陣営のようだ。


 だが、裏を返せば陣営に与せずとも同じことができるという裏返し。


 問題があるとすれば霊装とスキルを複合させる必要があるくらいか。

 ただ大きくなるだけじゃその重さは変わらず、腑抜けたパンチになるところを、金剛で重くなると同時に水増し。

 自らの重量をパワーに転換させるジキンさんらしい発想だ。

 脳筋とも言う。



「じぃじ!」


「おう!」



 巨大化したケンタ君の爪がリンドブルムの翼を引き裂く!

 8HIT!


 翼のなくなったトカゲを袋叩きにするジキンさん。

 9HIT!


 おっと、私も参加しないと終わってしまうな。

 リンドブルムのLPゲージは大きく減退し、暴走モードに入ろうにもST切れ。

 ツインライトニングパンサーの効果で行動も不発のまま、スキルで強化されたケンタ君の爪が心臓に穿たれた。

 10HIT!


 リンドブルムはまだ生きている。

 

 そこへ私は腰にくくりつけたロイガーに力を込めて投げつけた。


 バツン! 何をしても切れなかったリンドブルムの首がロイガーによって切断、エネミーの消失を確認!


 最後、おいしいところを奪った形で戦いの幕は閉ざされた。

 ちなみにこれからマリン達も参戦する意気込みを語られた時はごめんよの言葉が何度も脳裏を過ったが、それを口にすることはなかった。

 その代わり私はロイガーの使用も禁止され、仕方ないのでそれも承諾する。



【期待を裏切らない男、アキカゼ】

【ロイガー、威力やばくない?】


「そりゃ貫通のステータスを付与して投げたから」


【草】

【通りで首が吹っ飛ぶわけだよ】

【ドリームランドの住民強すぎるだろ!】

【こっちでも効果あるんだ?】


「あったみたいだね。攻略が捗るんじゃない?」


【その前に、向こうとこっちじゃ難度に差がありすぎるから】

【それはそう】

【わざわざ向こうに行ったのにこっちでマウント取る奴おる?】

【目の前に】

【言われてますよアキカゼさん】

【いつもの】


「|◉〻◉)僕何にもできませんでした」


【リリーちゃん、どんまい】

【普段ボケ担当だから急に真面目ぶっても本来の力が発揮できないみたいな?】

【弱体化してて草も禁じ得ない】

【ボケてないと本気出せないとか芸人か?】


「私のカメラにはその存在感がありありと映ってたよ?」


「|◉〻◉)え! どれどれ?」


【気になる】

【見せてもらってもいいですか?】



 カメラの前で会心の出来を見せびらかす。

 確かにそこへスズキさんは写っていた。

 ただ、どうにかカメラの前に出ようとその身を捻じ込ませる形でだ。

 どこにカメラを構えようとも必ず入ってくる、執念みたいなものを感じた。


 その映像だけ見れば、大して役に立ってないのに、一緒に戦ってる雰囲気だけは出してた。

 微妙にぼやけてたり見切れてたりするのは私がそうしたからに過ぎない。

 だってめちゃくちゃ前に出てくるんだもの。何度その邪魔な頭を押し退けたことか。



「|>〻<)うわぁん、僕全部見切れてるじゃないですか!」


【草】

【ここまで一切SAN値チェックなし】

【警察の人は帰ってどうぞ】

【怪異に見慣れ過ぎて日常的に見えるだけで十分おかしい映像のオンパレードだけどな?】

【これは真似する人出てくるだろ】

【真似できても喧嘩しそう】

【味方にデバフとかPVPまっしぐら】

【続きは陣営でしてもろて】


「それよりもどうする? もう一回やる?」


【タイムいくつ?】


「2分とちょっとだね」


「僕はここでも構いませんよ?」



 ジキンさんがごねるようにここでの活動を求める。

 どうやら霊装の巨人化が解ける前にもう一度活躍したいらしい。霊装は一度使ったら日を跨がないと再度使用不可能だもんね。


 そしてもしこの姿で移動するとなると、巨大化しながらの移動になるし、それこそルールを尊ぶこの人なら再戦を望むのもわかる。けど、孫達は不満そうだ。



「私は別のところでやりたいかな?」


「そうですね、こうもあっけないとまだ切り札をお披露目し切れてない私達の活躍の機会が見込めないので、私もマリンちゃんに賛成します」


「正直俺も消化不良だ。じぃじがこんな隠し球持ってたなんて知らなかったけど。あと爺ちゃんにラストアタック持ってかれたのちょっと根に持ってるから」



 孫達の本音が祖父達に深く突き刺さる。

 主に私が参加したことによる不満だった。

 まだ暴れたりないとばかりに、孫達が申し出れば大人が折れないわけにもいかず……ジキンさんは泣く泣く霊装を解除することになった。



【サブマスさん、元気出して】

【この人涙もろくない?】

【シッ】

【孫の本心に爺さんは弱いもんよ】

【つまり?】

【アキカゼさんが美味いところ持ってった】

【なんだ、いつも通りだな】

【草】


「|◉〻◉)僕はどっちでもいいですよ?」


「じゃあ狐君のところにでも行く?」


【難易度上げ過ぎ】

【何この近くによったから来たみたいな言動?】

【普通にファイベリオン行きなさい】

【どっちみちポータル通れば一瞬なのは間違いない】


「お爺ちゃん、ヤマタノオロチはそんなにダメ?」


「山田家に失礼かと思って」


「山田さん?」


【誰?】

【アキカゼさんとこのペット】

【ペットwww】

【あー、そういえば捕獲済みか】

【どっちみち九尾すら眷属化してたし今更じゃね?】

【テイムモンスターと古代獣は別物らしいですよ?】


「じゃあ、お爺ちゃん。そのヤマタノオロチのテイムに付き合ってって言ったら付き合ってくれる?」


「え、欲しいの?」



 意外だ。彼女は自分のテイムモンスターを手数扱いしてたからてっきり状態以上付与系は欲しがらないと思ってたのに。



「どちらかと言えば欲しいのは私かな?」


「あー、ユーノ抜け駆けするの?」


「だってマリンちゃんすぐに使わなくなるでしょ?」


「そんなことないもん!」


【何、このペットをねだる子供と諭す親の関係は】

【昔は犬を飼いたくて親にごねたもんだよ】

【ペット飼ってる家は今の時代無くなったよなぁ】


「あったねぇ、昔娘が子犬を飼いたいと申し出た時があって、その時のことを思い出したよ」


【何それ聞きたい】


「ねーえー、お爺ちゃん!」


【今のマリンちゃんが当時の娘とかぶる的な?】

【待て、娘って何番目だ?】

【いや、そういう突拍子もないことを言うのって決まってパープルさんじゃ?】


「おっと、誰が言い出したかここでは秘密にしておくよ。幼い時の彼女はとても愛らしかったんだ。今も可愛い自慢の娘ではあるけどね?」


【おや? おやおやおやおやおや】

【◯◯は可愛いですね】

【やめろ!】

【SAN値チェック不可避】

【某深淵を覗くのはやめなさい】

【この言い方はパープルさんじゃないな?】

【案外シェリルの可能性も?】

【それは……なんだ? 俺たちにギャップ萌えをさせる気か?】


「さてさて、それはどうだろうねえ。孫が泣き出しそうなので場所を変えるよ。ほら、ジキンさんも行くよ。また違う手段で活躍すればいいさ」


「僕からメカを奪っておいてですか?」


「子供達の前で大人気ないこと言わないの。それよりカーシャちゃんは?」


「危ないので影の中に入ってもらってますよ」



 全くこの人は。幻影はプレイヤーと違うのにこのかわいがりよう。単純に娘ができた父親なんだ、今の彼は。


 だから先に進めないんだよ、カーシャ君にもっと世界を見せてあげなさい。

 一緒に乗り越えてこそ、絆が生まれるんだよ?



 そんなわけで私達はファイベリオンに向かう。

 その時にカーシャ君を表に出して、孫達に紹介した。

 すぐ仲良くなったし、リスナーさん達もベタ褒めしたけど、カーシャ君はジキンさんの後ろに隠れてしまっている。

 アイドル活動の時は観客の視線は気にならなかったけど、こうやって知らない誰かの前で「アイドル」じゃない素を出すのは恥ずかしいようだった。


 やれやれ、これは長い道のりになるぞ?

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