第44話 ドリームランド探訪 ⅩⅩⅩⅢ
全く反省しないスズキさんを正座させつつ、祠復活までのロスタイムを待つと、再びワールドアナウンスが私たちの耳に届いた。
<プレイヤーが初めて神格ノーデンスと接触しました>
<接触したプレイヤーはゲーム内時間で7日に1回、対象の敵対神格を封印、又は送還することができます>
<プレイヤーの意思によりクトゥグアが送還されました>
<初めて敵対神格を送還したボーナスにより、秋風疾風にはステータスポイントが付与されます>
<引き続きAtlantis Word Onlineをお楽しみください>
なんかあっという間に終わったね。
クトゥグアの被害はもう少し長続きするもんだと思ったけど。
あ、私の方で獲得した拠点もいくつか消えてるみたいだ。
消えても一度拠点化した場所がグレーになるだけで街や土地の記録は残ってる様だね。
ハンバーグ君に任せたダンジョンも無事だ。
陣営チャットでは神格をおけば無事だと判明してるし、早速霊樹の木片が役に立ってくれた様で何よりだ。
「なんかワールドアナウンスされましたね。誰がノーデンスと接触したんでしょう? イベントを進めてると言ってた探偵の人でしょうか?」
「え、あの人イベント進めてたんだ? 全然知らなかった」
「お義父さんはもう少し自分の書いたブログの記入欄をもっとチェックした方がいいですよ?」
「面目ない。しかしノーデンスの能力強力すぎない?」
「そうでしょうか? 不本意とはいえこちらのミスで向こうにも相当甚大な被害が出ていますし、カウンターとして丁度いい措置だと思いますよ? 問題はその封印、又は送還に対する範囲ですね。指定しただけでその効果が及ぶのか、又は接敵されなければ意味をなさないのかで攻略法が変わってきます」
【なんの話?】
【ワールドアナウンス案件らしい】
【悲報:チュートリアル世界は無音】
【そら(ドリームランドとは別だし)そうよ】
【ノーデンスってクトゥルフと敵対してるって、あの?】
【敵対してるからって人類の味方ではないぞ?】
【あれもまた神様だから】
【人類の神と一時共闘とかそういう感じかも?】
【向こうも考えがあるんだろうけど、あれってニャル様的ポジションじゃね?】
【あー、アイテムで召喚的な?】
【にしては強いらしいぞ?】
【ニャル様が弱いとでも?】
「確かにその線もあるか。ちょっとご本人に聞いてみよう」
【突撃! お前の情報クレクレ】
【いきなり行って大丈夫ですかね?】
「大丈夫だよ、あの人私にマウント取りたくて仕方ない人だし、こっちが素材欲しさに神格を解放するたびに困るのは向こうだから鬱憤が溜まってるだろうから」
【その神格解放の場にその人居たんだよなぁ】
【完全に棚の上に上げて人ごとな当たり】
【ああ、どっちもどっちだろう】
コメント欄では早速探偵さんの責任転嫁について取り上げられていた。きっと彼的にはグラーキの二次被害対策だったのだろうけど、当てが外れたね。
ソロで対処可能なグラーキと、敵味方に相当な被害を与えるクトゥグア。手に負えない方の処理を優先したのは明らかだ。
そうこう言ってるうちに相手からメールが届いた。
先程の注意事項に対する返信だ。
ーーーーーーーーーーーーーー
>RE:アキカゼ・ハヤテ
早速君の目論見は潰させてもらったよ。
君達のところにも相当な被害が出たと予測している。
いったいなんであんな真似したのさ?
まぁ早速僕の切り札を披露する事になったけどさ。
秋風疾風
ーーーーーーーーーーーーーー
何か誤解してない?
何故か私の悪巧みが全世界に向けて発信されたみたいに捉えられてるけど、こっちは被害者なのに。
ねぇ、スズキさん。
「|◉〻◉)なんですか?」
「今例のイキリ散らかしてるであろう人から返信が来てね、君の目論見は潰させてもらったよと」
「|ー〻ー)あー、あの人は妄想癖がありますから。全部をハヤテさんの陰謀にしたいんですよ」
「ヒーロー的に?」
「|◉〻◉)その方が盛り上がると思ってそうですしね?」
どっこいしょとその場から立ち上がるスズキさん。
まだ正座解いていいとは言ってないよ?
この人も探偵さんと同じで私の言葉を曲解するきらいがある。
「スズちゃん、立ち上がったらめーだよ?」
そこへ監督役のヤディス君がハリセンを持って注意する。
スパンといい音を鳴らしているが、ここが海中だと言うことをつい忘れそうになる。この子達、たまに概念を置いてけぼりにするんだよね。見ている分には楽しいけれど、突っ込み始めたらキリがない。
「|◉〻◉)え、今僕許されたんじゃ?」
「お義父さん、許したんですか?」
「いや、全く」
「ほらー、祠が復活するまでってお約束でしょ!」
「|◉〻◉)えー。僕暇で暇で。またスルメを炙りたい衝動に駆られてるんですけど」
「この人自由すぎませんか? うちのヤディスも結構自由になってきてますけど。ここまでじゃないし」
「うちは放し飼いしてるからね。自由意志を尊重させすぎたかもしれないね」
「それじゃあすぐ動けない様に重石乗せておくね?」
ヤディス君がどこからか引き抜いた巨石をスズキさんの膝の上に乗せた。ヤディス君、意外と力持ち。
もしかしてスズキさんも持とうと思えば持てたりするのだろうか? そんな素振り一切見せないから判断がつかない。
「|>〻<)ぎゃあああああ! |◉〻◉)あれ、あんまり痛くない?」
「私達は痛覚ないからね。だから物理的に動けない様にしたの」
そんな設定あったんだ?
【いいぞヤディスちゃん、リリーちゃんを懲らしめてやれ】
【スルメくらい炙らせてやれよ】
【その結果クトゥグアが召喚されても】
【流石に今日の今日で再召喚はない……よな?】
【それされたらノーデンスも涙目やろ】
【涙目になるのは各陣営なんだよなぁ】
【それ】
「ですね、復活させるならクタアトの召喚後が理想です」
【こっちはこっちで周回速度上げる気満々だし】
【思考が邪悪で草】
【周りの迷惑もっと考えて】
【そもそも召喚理由が不明だしな】
「じゃあ代わりに私が炙ってあげますよ」
「|◉〻◉)いい感じに炙れたら僕にくださいね?」
「熱源が見つかったらね?」
私の肉体では炎により熱は感知しにくくなっている。
それが火の契りによる弊害だと知ったのはクトゥグアの被害を免れた後。
幻影の彼女達も同様で、LPの設定こそあれ、魂の消滅まではしない。痛みも同様で痛覚もない。
スズキさんの場合はいくらでもお替わり可能な写し身なので実際のところは消滅していないのだけど、でももしそうでないとしたら私にも例のアイテムが発見出来ているはずだし謎が多すぎるんだよね。
私はスズキさんから受け取ったスルメの様な何かを手持ちのアイテムに設置した。
【それでアキカゼさんはいったい何を?】
【用意された釣具】
【海中で釣り?】
【海中でスルメ炙る猛者もいるし今更でしょ】
「これはね、釣り針にスルメを仕込んで何かが反応するのを待つ仕掛けなんだ」
【霊樹的な?】
【ああ、聖典武器に反応するって言う?】
【この人にとっては釣りと同義だと】
【あれは悲しい事件だったね】
【霊樹って魔導書陣営にとっては害悪じゃない?】
【だからニャル様が燃やしたがってるんでしょ】
【あー……】
「けど霊樹の素材はダンジョンに必須なアイテムでもあるから燃やすより聖典陣営と一緒にもらいに行くのが有意義でもあったりするんですよね」
【その結果弱体化させられる未来がなっていると】
【どっちを優先するかだな】
私だってこんなので熱源が感知できるとは思ってない。
しかしこんなだだっ広い場所で手探りしたって時間ばかりが経過するだけだしね。
遊びの範囲でやるだけやった結果だ。
釣り竿を地面に突き刺し、時を待つ。
10分、20分。いくら待ってもスルメは微動だにせず。
やはり的外れだったかと諦めかけた頃、祠の復活と同時にリールが強く反応した。
【お、スルメが反応してる?】
【って言うか祠に反応するスルメってなんだ?】
【ぜってーこれアーティファクトの類いだろ!】
【リリーちゃん、これどこで手に入れたの?】
「|◉〻◉)これですか? クトゥルフ様の切り落とされた触腕の一部ですけど? こうやって口の中に入れてるといい感じにリラックスできるのでよく甘噛みしてるんです」
【草】
【クトゥルフ様ーー、あなたの幻影自由すぎます!】
【ええーー、ちょ、それは】
【これが幻影でいいのか?】
【今明かされる、衝撃の事実!】
【不敬では?】
「|ー〻ー)クトゥルフ様は許してくれたもん。触腕はまた生えるって。それで落ち着くなら儲けものだって」
【クトゥルフ様、この子の扱いに手慣れすぎてない?】
【神格と幻影は夫婦みたいなもんやろ】
【だからって爪や肉体の一部しゃぶられたら嫌だろ。俺は嫌だ】
【神様のお考えを俺らが理解できるわけないやろ】
【そらそうよ】
「取り敢えず祠も復活しましたし、スルメの様子も気になります。ヤディス君、スズキさんを解放してあげて」
「はーい」
「|◉〻◉)許された! じゃあ僕ブーメランで遊んできますね?」
「ダメです。一緒に探索するんですよ。なんでブーメランで遊びたがるんですか」
「|ー〻ー)だって、あの場所が気になるんですもん」
「どの場所です?」
「|◉〻◉)あの場所です」
スズキさんが指をさした先。
そこには海中とは思えないくらいに深い闇が広がっていた。
私は気が付かなかったが、スズキさんはその場所が気になってブーメランを放り投げていた様だ。
しかしいくらその場所を通過してもなんの反応を示さないため、ムキになって全力で投擲したところ、近くの祠が倒壊するほどの渦を発生させてしまったらしい。
「これは……影のボックス? どうして祠の外にこれが?」
ハンバーグ君がナビゲートフェアリーや陽光操作を使ってそれをグラーキの祠で見つけたものと同一であると判断した。
「私にもわかりかねる。さて、ここにはいったい何が隠されているのだろう?」
奇しくも祠を見下ろす形。
影のボックスは珊瑚礁の真上に怪しく揺らめいていた。
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