第25話 ドリームランド探訪 ⅩⅥ

 さて、ダンジョン用の素材は粗方集まった。

 カメラを除けばまだ有るけど、集まったかどうかの判断基準は私に委ねられている。

 全てかき集めよとまでは言われていないからね。

 少し残しておいて後続の糧にしよう、そうしよう。


 スタミナゲージが消えたとは言え、もりもりハンバーグ君は見てるだけで手伝ってくれもしないし、スズキさんもヤディス君とコンサート談義で花を咲かせている。

 と、言うよりいつの間にか彼女も含めた状態で話が成り立っていた。まぁいいけど。どうせ舞台さえ用意すれば人数はどうとでもなる。世界の半分はクトゥルフさんの眷属下。私の名声で呼び掛ければ人数も埋まるさ。



「よし、大体揃ったよ」


「お疲れ様です」


「|◉〻◉)ハヤテさん! 僕次のライブでこんな構想考えてました!」


「ましたー」



 おやおや、ヤディス君もすっかりスズキさんに染められて。

 配信直前の頃とは比べようもない。

 あの頃のやる気はどこに行ったんだろうね?

 これじゃあスズキさんの見張り役が私に戻ってきてしまうよ。

 早々に諦めたか、それとも丸め込まれたかは私の知るところではないけれど。



「それよりお義父さん、次の目的地はお決まりですか?」


「特にはないよ。素材も手に入れた事ですし、ダンジョンもなんとかしたいところですけど」


「ならダンジョンに行きませんか? 僕も気になっていたんです」


「でも生憎とこの場所と向こうの場所が把握できてないよ? ポータルらしいポータルもないし」


「|◉〻◉)ふっふっふ。こんな事もあろうかと事前に用意して置いたんですよね」


「ええ、いつの間に?」


「|◉〻◉)じゃーん! これです!」



 そう言ってスズキさんが取り出したのは空飛ぶコタツだった。

 海中に揺られ、布団が捲り上げられている。絨毯もこたつの足をすっぽり包み込む状態で真上に捲れてしまっていた。

 それを重力操作をうまく使って体裁を整え、額の汗を拭うような仕草をしている。

 


「こたつだね」


「コタツですね。今はもう見ない」


「そうなの?」


「オール電化が当たり前ですから。室内の温度管理は全てコントロールされてます。こんな旧時代的なアーティファクトは今時教科書のテキストでしか知らない人の方が多いいんじゃないですか?」



 もりもりハンバーグ君に言われて変に納得する。

 確かにお世話になってるオクト君の家でコタツは見ていないね。暖かくていいのに。それでいて家族との距離感も近くて気まずい時だってそれとなくおしゃべりできるのにさ。

 今の社会には必要ないなんて少し寂しいね。

 そんな寂しさを覆すようにスズキさんが話を盛り上げる。



「|◉〻◉)はい! このコタツを設置した拠点は、僕の取り出すこたつと空間で繋がる仕組みなんです!」


「これがポータル?」


「いい歳してこの中をくぐり抜けるのは抵抗があるなぁ」



 もりもりハンバーグ君の言動も理解できる。

 ショゴスくらいの背丈ならば通り抜けるのも容易いだろう。

 しかしアバターを若返らせたとは言え、身長170センチ代の大人が50センチもない空間を潜り抜けるとしたら匍匐前進くらいしかない。

 別にやれないとは言ってないが、絵面がね?

 一応配信主として格好悪いポーズはしたくないのだ。

 後で家族に見られる可能性も考慮して、今回は力技で行くことにした。



「ありがとうスズキさん。しかし私たちがくぐり抜けるには些か小さく思える。なので」



 境界の向こう側からクトゥルフさんの両腕を召喚し、両手を合わせる。

 〝掌握領域──コタツ+ショートワープ〟

 よし、これでコタツに入っただけでコタツごとA地点からB地点に転移する事が可能になったぞ!



「|◉〻◉)あーん、僕のこたつー」


「大丈夫、少しグレードアップしただけだから。取り敢えず普通に足突っ込んでみて?」


「|ー〻ー)仕方ないですね。ハヤテさんが言うなら従う他ないですけど」



 渋々言うことを聞いたスズキさん。

 座りましたよーと此方に振り返った時、スズキさんの姿が目前から消えた。

 それはまさに瞬間移動と言っても差し支えない。


 そしてしばらくして帰ってくる。涙目で。



「|>〻<)ハヤテさーん、急にいなくならないでくださいよー、僕びっくりしたんですよ? いつの間にかダンジョンにいるし、なんで僕だけって!」



 擦り寄ってきてお腹辺りをぽかぽか殴ってくる。怖がらせるつもりじゃなかったけど、思った通りの効果で満足だ。



【ふぁっ!?】

【つまりどう言うことだってばよ?】

【アキカゼさーん、視聴者置いてけぼりにしないでくださーい】

【いや、今の消え方はショートワープ特有の現象に近い】

【つまり?】


「正解だよ。座った座布団ごとポータルに出動する感じでショートワープが作動するんだ。座布団の数だけ行き来が可能で、人数制限を縛る目的もある。将来的にこのコタツであらゆる場所に移動できたら良いよね?」


「|◉〻◉)そんな仕掛けが!?」


「もちろん私が此方にログインしてる間に限るよ。ずっとは使えない」


【ですよね】

【でも定員以内なら聖典もダンジョン来れちゃうのでは?】

【そりゃそうだ】

【海はみんなのものだしな】

【でも待て、行ったところで攻略できるか? 今の持ち合わせで作ると高確率でショゴスとグラーキのダンジョンになるぞ?】

【なにその極悪なマップ】

【えげつねぇ】

【そんなえげつない相手でもアキカゼさんは簡単にあしらうんだよなぁ】

【それ】



 荒れるコメント欄。いつもの事だね。

 勝手にパワーアップさせたのを良いことにスズキさんはヤディス君にドヤって居た。

 なんでも個人の持ち物にここまで手をかけてくれる主人がいる。ヤディス君はそれをして貰えるか?

 みたいな言い振りだ。もちろんそれはして貰えそうにない。

 もりもりハンバーグ君は申し訳なさそうに頭を下げていた。

 人間向き不向きがあるからね。

 それでいちいちマウントを取るようにはなりたくないものだよ。



 コタツを通じて私たち一行は再びダンジョンに足を運んだ。

 そこではショゴス達がえっさほいさと動き回り、何かを作り上げようとして居た。

 人型の銅像のような、と言うかこれは私か?

 なんでまたこんな恥ずかしいものを建てようとしているのだろうか?



「これ、スズキさんの仕業?」



 私の全身像を後ろ指で差し、聞き出す。



「|◉〻◉)はい。ショゴ太郎達が自分の崇拝先を求めているようでしたので、偉大なる御方を形にしようとつくらせました」


【偉大なる御方www】

【なにその呼ばせ方】

【魔王か何かかな?】

【あながち間違ってないけど】



 そう言えばあの指輪はスズキさんに渡したから私を介さずに生まれたショゴスも居るわけか。

 ショゴスは頭が良いらしいからね。生みの親でもない相手に忠義を尽くすのは無理があったか?

 でもこう言う場合はクトゥルフさんを引き合いに出したほうがいいんじゃ? 

 そう思って呼びかけるも、



「|◉〻◉)なに言ってるんですか、クトゥルフ様自らのお言葉ですよ[もうアキカゼ・ハヤテは余の力を上回る。ならばどちらが君主か今更問う必要もあるまい]との事です」



 あの人、自分が恥ずかしいからって逃げ出したな?

 いや、そもそも神格に羞恥心なんてあるはずがない。

 と言うと、本当に私を立ててそう申し出た可能性がなくもないか。



「そうなんだ。些か恥ずかしいが作るなら格好良く作ってよ?」


「|◉〻◉)> あいあいさー」


【でもそれって、一眼で誰が関わってるダンジョンかって分かるんじゃね?】

【草】

【同時に警戒度も跳ね上がりそうだが】


「手をかけるのは僕ですけどね」


【アキカゼさん関係ないやん!】

【とんでもない詐欺行為を見た気分だ】

【言うて、クトゥルフかガタトノーアか選べと言われても俺はどっちに選ばない自信あるぞ?】

【比較対象がおかしいんだよなー】

【そういえばハンバーグさんガタトノーアかwww】

【神格が表に出てこないから油断してたがやべー神様やんけ】

【本人はニコニコしてるのに飛んだ食わせ者だぜ】

【アキカゼさんだってニコニコしてるやろ?】

【やらかしの実績が桁違いなんだよなー】



 立像はさておき、ダンジョン中枢部へ。

 拠点の所持者をもりもりハンバーグ君にすげ替え、スズキさんを通じてもりもりハンバーグ君の立像制作も同時進行させた。

 君主と共同関係の御方らしい。

 別にそう呼ばせなくても良いのに、わざわざそう呼ばせて居た。ヤディス君も監督役としてショゴスに命令をしている。


 幻影という立場上、この手の奉仕種族に強いのかスズキさんと接している時より些か強気だ。


 そしてもりもりハンバーグ君がコンソールパネルをタッチして呟く。



「これ、ダンジョンという名前ですけど、何かのエネルギー生産施設ですね」


「エネルギー生産?」


「例えばダンジョン内で討伐した一般人類、ここでいう現地人や聖典陣営のプレイヤーによって獲得するエネルギーがあります。それをAとします」


「うん」


「このAと、外で獲得してきた素材を掛け合わせて全く新しい施設を作るわけです」


「その施設でも作れるエネルギー源があると?」


「はい。どうもこれは最終的に何かのエネルギーを作り出すもののようだ。その為に表向きはダンジョンという形を取ってるようですね」


「運用できそう?」


「取り敢えず先ほど見つけた素材が30個程あれば、ダンジョン運用ポイント、以下DPの特別ポイントと合わせてモンスター生成室が作れますね」


「それを作るとどうなるの?」


「その施設をアップグレードする毎に設置できるモンスターの種類が増えていく感じです」


「なるほどね、すぐにたくさん置けるわけではないのか」


「はい。他にもそのDPを直接消費する事でダンジョンの仕組みをいじる事ができますが……」


「言い淀むってことは何か致命的な問題が?」


「正直にいうと、このポイント数じゃなにも手をつけられませんとしか」


「さっきモンスター製造施設は作れるって言ってたじゃない」


「それしか作れないって意味ですよ。他にもたくさん施設も作れるんですが、要求DPと素材が見た事も聞いたことのないものばかりで」


「ある意味全部シークレットなわけね」


「そもそも素材の入手場所が不確定ですからね」


「じゃあこれ」



 私はそう言いながら今できるであろう施設建設用素材を手渡した。



「良いんですか?」


「どちらにせよ何か出来るのならそれに回した方がいいと思って」


「よし、ではグラーキの魂片30とDP500を使ってモンスター製造施設を作りますね」


【ん? グラーキの魂片?】

【これはもう答え出てるのでは?】

【どこにそれがあるかは判明してないんだぞ?】

【つまりその野良神格はダンジョンとセットな訳か】

【しても初期費用500とか少なすぎない?】

【そもそもあんな断崖絶壁に誰がわざわざくるのか……】

【草】

【それなー】



 もりもりハンバーグ君がコンソールを弄ってダンジョン内に施設を置く。おいた場所に施設がすぐに出来るわけじゃなく、これらもショゴスが働いて建築するようだ。

 人材、足りるのこれ?

 疲れ知らずのショゴスでも無理じゃないのこれ?



「建築時間は50時間だそうです」


「じゃあそれが出来上がるまで探索の続きと行こうか」


「それが良さそうです」


【放置ゲーなんだよなぁ】

【序盤から攻略難易度が地獄じゃねぇか!】

【誰がドリームランドに来てまで放置ゲーをやらされると思うのか】

【それ】

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