第23話 ドリームランド探訪 ⅩⅣ

<シークレットクエスト:かけらを探せがスタートしました>


<かけらを集めて封印された神格を世に解き放とう!>


<集めたかけら3/10>



 ポップアップした表示を下げて、今獲得した情報を開示する。



「どうやらこのオブジェを見つける事がシークレットクエストの条件になってたみたいだ」


【つまり?】

【手順をすっ飛ばして召喚した訳か】

【草】

【本当そのカメラデタラメだな】

【よもやシークレットクエスト関係なく抜くあたりは流石】


「他にも何か隠されてませんかね? これだけしかないと言うのはありえない」



 もりもりハンバーグ君の言いたいこともわかる。

 偶然スクリーンショットで抜いた情報でシークレットクエストがあらわれたが、それはそれ。

 これっきりで情報が完結するなんて思うのは視野狭窄だ。

 祠というからにはわかりやすいオブジェだけではなく、他にも何か情報が転がってると見ていいだろう。



【ハンバーグさん、お爺ちゃんより探索向きじゃない?】

【探偵の人より頼りになるぞ、この人】

【なんだかんだクリア者だしな】


「マスターカッコいいです!」


「|◉〻◉)ハヤテさん、早く僕にも格好いいところ見せてください。このままじゃ負けちゃいますよ?」



 スズキさんがヤディス君に当てられて私の袖をぐいぐい引っ張ってくる。そんな急に言われてもね。こういうのは見つけようと思ってすぐ見つかるものじゃないから。



【いつの間に勝負になったんだ】

【リリーちゃんライバル心むき出しやな】

【そりゃぽっと出に負けたら悔しいやろ】

【アキカゼさん、なんだかんだエンジョイ勢だしな】

【実績がエンジョイ勢のそれじゃないんだが】


「はいはい。幻影に頼られたら負けてられませんね。という事で、どっちが先に情報を抜けるか勝負だ」


「ええ、望むところです」


【挑戦を受けるんだ、ハンバーグさん】

【そりゃ幻影からの期待には応えたくなるでしょ】

【めっちゃ懐いてますからね】

【俺にも懐いてくれる幻影居ねーかな】

【まずはベルト所持しなきゃだな】

【だよなー】



 こちらを囃し立てる一方で勝手に落ち込むコメント欄。

 全く勝手なものだ。

 まぁそれでもわざわざ時間を割いて見に来てくれてるんだから私としてはありがたい限りだよ。

 スクリーンショットを傾けつつ、たまにカメラも傾ける。

 カメラだけじゃ見つからない現象もあるのでナビゲートフェアリーもオンにした。

 このナビゲートフェアリーのバージョンの高さが唯一私が彼に勝ってる部分(だと思っている)

 彼のランクは詳しくは知らないけど、そこまで高くないはずだ。


 そして最初に決めた約束の時間。

 お互いの勝負のカードを出し合う。

 こういうライバル関係は是非とも続けていきたいところだ。

 いや、今までいない訳じゃなかったんだけどね、揃いも揃って聖典側に行っちゃったものだから。

 同じ陣営で競い合える相手って限られてくるんだよ。


 別に共同してる訳じゃないけど、陣営が違うだけで確率論まで変わってくるからね。共闘は難しいんじゃないかって思ってる。

 だから私は全力を出すよ。


 一枚目のカードはカメラで撮影した時に出た影だ。

 像に写った影ではなく、祠の一部に残されていた柱。

 そこに陽光操作を当てて立体物が何もないのに写り出した影を取り込んだ画像になる。

 それをアトランティス、ムー、レムリア言語で翻訳して導き出した情報を洗い出したメモである。



「これは……どこにありました?」


「あそこ。天井付近の歪んだ窪みがあるでしょ?」


「気づきませんでした。さすがお義父さん」


「そこに陽光操作を当てながらカメラで撮影したんだ。カメラを構えながら、フラッシュを焚く感覚で陽光操作を使ってね、浮き出た部分を切り取ったものがこれだよ。翻訳はレムリアの器ver.βによるものだ」


【アキカゼさん本気出してきてるな】

【どれだけ負けたくないのか】

【大人気ないな】

【それ】



 なんとでも言いなさい。でもね、これくらいの情報で萎縮してしまうような相手ではないと見越しているからこその一番目。

 思った通り、彼は私を絶賛しつつもとんでもないカードを切り出す。



「では僕からはこちら」



 それは地上ではあまり見たことのない石、鉱物。レアメタルと呼ばれるような破片。黒ずんでいるようで、しかし光に翳せばクリスタルのような透明感と輝きを持つ。



「これは?」


「祠に使われてる素材です。あいにくと僕の知識にマッチングする情報はありませんでした」


「鑑定してみよう」


「お願いします。僕のスクリーンショットじゃ全ての情報までは抜けなかったので」


「大丈夫だ、これは私の得意分野だからね」


「|◉〻◉)あ、テーブル今お出ししますね」



 スズキさんがどこから取り出したのかこの場に似つかわしくない木製のテーブルを取り出した。普段のコタツよりいくつかグレードが高い。そこそこお値段が張りそうな一品。

 そこに例の鉱石を置いて、スクリーンショットを傾ける。



【リリーちゃんwww、どっから出したそのテーブル】

【祠の中で近代的なテーブルって】

【めちゃくちゃ浮いてるなwww】


「ありがとう、助かるよ。どう、うちの幻影も結構気が利くでしょ?」


「ええ、そうですね。ですが僕はそれができなくても彼女を責めませんよ」


「マスター、不甲斐なくてごめんなさい」


「いいんだヤディス。君はまだまだこれからだ。もし何か気づいたらなんでも言ってくれるだけでいい。リリーさんに張り合う必要なんかないんだよ?」


「うぐ、はい」


「|◉〻◉)……僕、ハヤテさんにそうやって慰めてもらったことないです。ずるいです」



 スズキさんがヤディス君ともりもりハンバーグ君の様子を見ながら私の袖を引っ張る。全くこの子はしょうのない。



「他所は他所。ウチはウチです。それに甘やかしてもそれを受け取らないのはどっちですか。余計なことに流されてないでいつも通りでいいですよ? スズキさんはスズキさん。でしょ?」


「|ー〻ー)ぶえー、ハヤテさんがいじめるー」


「スズちゃん、よしよし」


【これ、どっちが先輩なんだっけ?】

【察してやれ】

【完璧に立場逆転してるな】

【アキカゼさんがスパルタすぎたwww】

【リリーちゃんもリリーちゃんだからなぁ】

【ここにきて清純派ヒロインぶる魚類が居るそうですよ?】

【一応その子アイドルなんで】

【普段からその片鱗見せない結果がこれwww】


「っと、情報が抜けた。メールで送るね」


「ありがとうございます」


【さっきまで勝負! って感じだったのに急に和気藹々な件】

【幻影の頼みを聞いてただけで元から仲悪くないからな】

【普通に祖父と婿の関係だし】

【そういやそうだった】


「私たちの関係はさておき、この鉱石の情報が割れたよ。夢魔の鉄鉱石と呼ばれ、私達魔導書陣営にとってはダンジョン作成に欠かせない素材の一つだ。今回の件で判明したが、これらも他にもっと違う素材を用いる事でレベルアップ、或いはダンジョンのアップデートが出来るらしい」


【つまり?】


「情報抜くだけ抜いたらこの祠に用はない。全部解体してダンジョン素材として使わせてもらう」


【容赦なさすぎwww】

【後続のために残しておいて!】

【それこそ無茶な要求だろ。似たような祠あったら解体でFA】

【ま、普通はそうだよな】

【わかりきってたけど当たり前のようにぼろぼろ情報出るな】

【そりゃプレイヤーの手垢がついてない未開の地ですもの】

【手垢つきまくった場所からでも情報抜くプロだし?】

【どちらにしろ今まで通りなんだよな】

【草】


「まぁ解体云々は後々考えるとして。お義父さんはまだ情報ありますよね?」


「無論。もりもりハンバーグ君もまだ隠してそうなんだよねぇ」


「あはは、どうでしょう。新情報の自信はありませんが、あるにはありますよ。まずはお義父さんからどうぞ」


【この二人……】

【意外と似たもの同士か?】

【さっきの鉱石関係の発掘もオリハルコンクラスの発見やし】

【それがこちらに持ち帰れるかもお忘れなく!】

【その場合素材欲しさにドリームランドに行くバカが増えそう】

【怪異と喧嘩するよりはよっぽど健全な理由ですな】

【怪異の親分が怒らないとは限らないけどな】

【そりゃ(寝床ぶっ壊されたら)そうよ】

【無慈悲な神格の怒りが全プレイヤーを襲う!】

【言うて通常雑魚モブが神格だし、どっこいどっこいでしょ】

【中には神獣なんて存在もいるし、こっちより難易度高いのは確かやで】



 結局私の抜いた情報は緯度を示した情報だった。

 そもそも地図がないので論外。

 それならダンジョン素材を抜いたもりもりハンバーグ君の方が有用な情報だと思う。

 けど彼は私を立てる人なので一戦目の勝負は引き分けとなった。今回抜いた情報が特種である可能性は低いが、まるでハズレとも言い切れないと言う理由だ。

 まずその前に地図の作成をしないとね。


 脱線した話を戻して二戦目。

 先行は私。取り出したのはざわめく妖精の姿を抜き取った映像だ。もしかしなくてもここにはムーの精霊使いが必要不可欠な何かが眠っているかもしれないとのこと。

 その証拠にかの影の巨人が練り歩いていた浮遊大陸にも似たような闇が凝縮された箱がある事が記されている。


 あの時は同時に影の巨人を討伐する事で謎の部屋への扉が開放されたけど、今回もその可能性が高そうだと示唆する。



「うん、これは確かに餓狼の牙さんのデータベースで拝見した事がありますね」


【餓狼の牙ってリーガルの?】

【村正ちゃんのお父さん!】

【あのファンになる条件がクソ厳しい親父か】

【アイドルくらい好きに応援させろっての】

【普通に上位クランなんだよなぁ】

【いつの話だよ。地上勢、その上チュートリアルでイキってる連中だろ?】

【過去の話にしていい訳じゃないけどね】

【それでもあの頃からだいぶ変わったのも事実】

【だな】

【結局アキカゼさんの情報に誰も触れてなくて草】

【話が高等すぎてついていけないのよ】

【まず他のクランのデータベース覗く機会ってないしな】

【それ】


「だよね。ただ満を辞して抜いた情報とも言えなくてね、二番手に回したんだ」


「それでもこれはすごい収穫ですよ。ここでも陣営ジョブの活躍の機会があるというのは朗報では?」


【普通に快挙な件】

【下手すりゃプレイヤーが一番の雑魚扱いの環境だし】

【活躍の機会があると知れば行きたいって思うからな】

【問題は揃いも揃って聖典陣営な件】

【中には賞金首もいますよ】

【賞金賭けた人の要請に応じると思うか?】

【受け取って背中から刺してくる状況までは見えた】

【あの人ならやりそうだ】

【顔見せの挨拶代わりに必殺技ブッパしてくるから】

【アレでも本気出してないからなぁ】



 確かにコメントで流れる通り、頼みの綱が揃いも揃って相手陣営に行ったことで誘いにくいのが事実だった。

 今回の情報は後続の為のものとしては最適だと思うことにした。そして後攻のもりもりハンバーグ君が出したものは……



 またもや見たことのない鉱石だった。

 ほんと、どこから見つけてくるんだろうね、こういうの。

 驚く私に満足いくような笑みで説明を始める彼に、また情報抜き取りお願いしますねと彼は頭を下げるのだった。

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