第10話 そうだ、撮影旅行にいこう Ⅶ

 銀鉱山から歩く事10分。

 セカンドルナの街を素通りして私達は迷いの森へとやってくる。迷うのはマナの大木に近づこうとすればするほど。

 しかし一度マッピングしてしまえばだいたい一本道だ。

 その道に左右にこれ見よがしに気になる通路があるので、そっちに入ると大概迷う。そんな図式でこのフィールドは成り立っている。

 思えばマリンと来た時も真っ直ぐ、真っ直ぐ進んでいたものな。



「少年。ここを選んだということはどこか当たりをつけているのかな?」


「当たりというほどのものではないですけど、行ってない場所はありますよね」


「行ってない場所?」



 はて? と探偵さんは首をかしげた。

 私はまず常識を疑ってかかることから提示する。

 ファストリアの壁然り、マナの大木然り。

 普通はその場所をどう攻略しようかに注意が向くけど、その真逆を説いた。



「マナの大木の内側さ。あれだけ大きくて広いんだ。大の大人が四、五人横一列になってもまだ余裕があるんだよ? その上雲を突き抜ける長さがある。ただの木な訳がない」


「いや、それを言ったらその通りなんだけどさ。普通は中を見ようなんて思わないじゃない? しかも上は妖精がよく屯してるんでしょ?」


「ですね。姿こそは見えませんが」


「地の試練の風の契りを交わしていても見えないの?」


「そういえば試してないですね」



 地下に行く時はだいたい空から直通か飛空艇を通して行き来していた。なんでこんなことに気がつかなかったんだろう?

 そして探偵さんの審美眼の高さに恐ろしさを感じる。



「くま君を見つけるのと、妖精を見つけるの。どっちを先にしますか?」


「手っ取り早そうな方からでいいんじゃない? 既知である情報の方が正気度損失少なくていいし」


「それは確かに」



 くま君の発見はいつでもできる。

 なんだったらジキンさんを通じて呼び出してやればいいのだ。

 しかしくま君の発見とマナの大木の内側への道へ至るにはどうしても正気度損失の危機がある。

 さっきの消失がだいぶ大きかったことから、探偵さんの心配もよくわかった。



「じゃあ先に妖精の視認から始めようか」


「賛成」



 小休止とばかりに私達は木登りを開始する。

 最初彼を誘った時は文句を言われたものだけど、今では普通についてくる。本当に、成長したよね。



「見違えたね」


「何を今更」


「最初私がここに誘った時のこと、覚えてる?」


「あの時はただのイジメだと思ってたよ」


「えぇ、そんなこと考えてたの!?」


「冗談だよ。ただね。一般的な遊び方ではないなとワクワクしていたのは本当だよ。そのあとあんな大発見をしたんだ。自分の常識が疑わしくなった。それからだな、君ならこのゲームをどのように攻略するんだろうと、楽しみになった」



 びっくりさせないでよ。

 この人通常会話でも冗談をぶち込んでくるから油断できないんだよね。ただの雑談がいつのまにかサスペンスにすり替わってたりするから怖い。



「そもそも私はこのゲームに撮影をしに来てますからね。通常プレイヤーと同じ目線ではないのは確かですよ」


「それでも普通はそのゲームの枠組みの中にある常識にとらわれるものさ。システム然り、スキル然り。種族にまで影響してくるゲームはここほど顕著なのはない。元々このゲームに興味を抱いたのは息子からの勧めでね? 自作の小説の内容に悩んでいた時に紹介されてやってみようと思ってたんだ。ここなら、ゲーム開始6ヶ月経てど一向に攻略出来そうもないここなら知識欲を満たせるのではないかと着手したんだ」


「じゃあ私が誘うまでもなく、やる気だったんだ?」


「生憎と付けたかったネームは既に使われていたけどね?」


「それはごめんなさい。あの時も言いましたけど、君があのコミックにそこまで人生狂わされてるとは思わなかったんだ」


「それは君も同じだろう?」


「そうですね、さて。そろそろです」


「いよいよ初お披露目か」


「多分キャラメイクの時にであった彼らだと思いますけどね」


「そういえば君、そんなこと言ってたもんね」



 マナの大木に常設された無人の観覧車の横を男二人で上り詰めた先、開けた空間に木の枝が階段のように雲の道を割開いた。

 そしてそこには……



[また来たにゃん? アキカゼ・ハヤテ]



 困ったような表情を浮かべるネコ妖精のミーが居た。

 見える。しっかりと見える毛玉ボディに猫の耳と尻尾をつけた謎の存在。手足はなく、見れば見る程どのように存在してるかを伺わせない。



[どうしたんにゃ? おーい!]



 見えてる、知っている予想通りの姿であるにも関わらず、どこか現実味のない焦燥感を覚えた。

 そして目の前でダイスロールが振られる。



<正気度ロール! ……成功。正気度を5%消費しました>


<侵食度を10%を獲得しました!>



 なんで正気度減ってるの?

 そしてなんで侵食度上がってるの?

 もしかしてこの妖精達って……



「やぁ少年、随分顔色悪いけど……もしかして正気度ロールでた?」



 こくこくと頷く。



「やっぱりか。僕もね、懐かしい存在に触れた時頭の中にアナウンスが響いたんだよ。何かと思ったら妖精や精霊は聖典派閥の神話武器に該当するらしい」



 そう来たか。魔導書の神話武器が怪異によるものなら、聖典の神話武器はそっち方面か。

 


「じゃあその手に持ってる鈴が?」


「うん。僕のナビゲートフェアリーのダルメシアンポミー」


「けったいな名前だね」


「そういうなよ。僕も思ったけどさ」



 肯定する探偵さんの言葉を否定するかのようにリンリンと勝手に揺れて音を鳴らすダルメシアンポミー。

 呼びづらいから略してダメポと呼んでやった。

 その残念な結果に憤慨するようにうるさく鳴り響いたのは言うまでもない。



「しっかし、妖精や精霊が神話武器とはね。じゃあ探偵さんもびっくりするほど侵食度上がったんだ?」


「そうだね。80%を越えたのは確かだよ。ついさっきのアレで50%まで強制的に引き上げられたのが大きいかな?」


「嫌な事件だったね……」


「引き起こしたのは君だろ?」


「私、ただ歩いてただけですよ?」


「それでも君の侵食度によって引き寄せられたんだ。君が悪い」


「あーあー、そんなこと言うんだ!」


「ははは、何度でも言ってやる! まぁ、今回は僕も悪かった。まさかあんな結果になるとは思わなかったよ」



 苦笑しながら心情を白状する探偵さん。

 どうも神話武器に該当する内容は、それぞれの派閥が直感してしまうようだとその後の近況報告で持って回答に行き着いた。


 探偵さんの妖精を見てみようの直感然り。

 私の銀鉱山見たことないよね発言然り。

 そして私のマナの大木の内側を見てみたい発言。


 導き出される結論は……



「急用を思い出した。残念ながら僕はここまで。また一緒に探索しよう」



 シュタッと右手をあげて逃走を図る探偵さん。

 勿論逃がさない。がっしりとトレンチコートを掴んで森の奥へと引っ張って行った。



「何言ってるの。最後まで付き合ってもらうよ。くま君も誘うんだからいいでしょう?」


「いやいやいや、僕もうほんと正気度やばいんだって! 60%切ってるの!」


「私もさっき誰かさんのせいで65%になったからおあいこですよね?」


「なんで君の方が高いのさ! おかしくない!?」


「おかしくないよ。ヒントは眷属化した古代獣の育成かな? アレを実行すると絆値の増加に伴って侵食度もモリモリ増える」


「それか!」


「答えがわかったなら行くよ」


「はーなーせー!」


「ハッハッハ。度は道連れという言葉を最初に言い出したのは誰だったかな?」


「君でしょ?」


「全く身に覚えがないな」



 そんな押し問答はくま君を見つけるまで続いたとか続かなかったとか。

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