第100話 ゲーム内配信/古代獣討伐スレ民 ⅩⅣ

「( ゜д゜)引きちぎれ、サイクラノーシュ!!」


「ヒャッハーーッ」



 ( ゜д゜)氏の言葉に、影から少女が大斧を持って飛び出し、突然の事に事態が把握できてない三尾形態の九尾の前足が粉砕された。



「ああ、サイちゃんが蛮族に毒されてる……」


「それが彼の幻影なのかな?」



 容姿こそ年端の行かない少女。

 青黒い髪を腰まで伸ばし、それを一つにまとめている。

 顔は面で隠されており、その尊顔を拝むことはできない。

 両手で持つような巨大な戦斧を片手で振り回して暴れているのだ。

 身に纏うドレスは袖やスカートがちぎれていて、原型をとどめていなかった。どれだけの時間、蛮行を重ねてきたのかわからない。スズキさんを視界に入れても彼女は獣のように獲物を追い求める行動を続けた。もはや理性などかけらも残ってないのかもしれない。



『サイクラノーシュ、サイちゃんはかつてツァトゥグァ様が住んで居られた星の名前。その器たる彼女は星そのものの膂力を持ち、眷属と共に旦那様を支える健気な子だったんです。なのに持ち主があんな奴だったせいで……』



 スズキさんの言葉に薄寒いものを感じた。

 親戚、従姉妹と聞いて情が湧いたのか魔術師である( ゜д゜)氏に怒りに近い感情を持っている。

 しかし君も向こうから見たらだいぶやらかしてるよね?

 そんな指摘に彼女の返答は……



『何言ってるんですか? 僕はこれが素です。昔からこうでしたよ?』



 どうやら私の指摘は的外れだったようである。

 彼女はポカンとした表情で私を見返してきた。



『つまり( ゜д゜)氏は意外と力持ちの彼女の腕力に目をつけたと?』


『かもしれません。あ、僕は手先が器用ぐらいの能力しかないので、彼女と同じことをしろと言っても無理ですよ?』


『言いませんしさせませんよ。私が嫌です、女性をそう扱うのは』


『ハヤテさんのそういうところ、好きです。僕も女性扱いしてくれるのはハヤテさんぐらいですもん』


『君はその態度が女性らしくないからね。格好からして女を捨ててるというか……』


『照れます』


『褒めてないよ?』


『それでもこうして寄り添ってくれました。僕はそれが嬉しいんです』



 スズキさんとだべりながら状況を見守る。

 サイクラノーシュさんの苛烈なまでな一方的な攻撃で、三尾は一切手を出すことなく四尾形態へと移行した。


 通常攻撃、狐火、行動不能にしてくる恐怖の魔眼。

 そして四つ目は自然を操る能力だった。

 尻尾が揺れるたび空の雲が晴れ、大地が鳴動する。

 まるで指揮棒のように振られた尻尾が四つ。


 一本づつ込められた力が違うのか、四回同時攻撃でもするようにフィールドが悲鳴を上げた。



「( ´Д`)y━・~~おう、移動するぞお前ら。アキカゼさんは自力で回避任せた」



 言うだけ言って、( ´Д`)y━・~~氏が( ^ω^ )氏、( ͡° ͜ʖ ͡°)氏、( ゜д゜)氏、サイクラノーシュを連れて私達の前から姿をくらます。


 いくらこちらがカメラマンだとはいえ、それはあまりにも酷いと思った。まぁ戦闘しないだけマシかもと思った私が馬鹿だったのだ。騙されたわけではない。9の街の古代獣がヤマタノオロチより弱いわけがないと知っているのに油断していた私が悪い。



「ちょっ」


【草】

【囮にされてますやん】


「変身、いあ、いあ! くとぅるー!」



 決めポーズを取る暇もなく、変身と同時に私の体は地割れに飲まれた。



【アキカゼさーーーん】

【やったか!?】

【おいバカやめろ】

【勝手に殺すな】

【ショートワープがあるから脱出は可能だろ】

【そうそうたかが災害程度】

【普通なら死ぬんだよなぁ】


「ふぅ、死ぬかと思いました」


【良かった生きてた】


「どうやら地面に九尾の意思が乗り移って攻撃してくるようです」


【は?】

【つまり操られてる間は空間そのものが九尾ってことかよ】

【四尾でこれなの? 無理ゲーじゃん】


「だと思います。でも海に耐性は無いようなので、数発殴って引き摺り込んだところ、無事拘束から逃げ出すことができました」


【確か殴ったパーセンテージだけ領域に引き込むんだっけ?】


「それ、私もよくわかってないんですよね。でもスズキさんがいうにはそうっぽいです」


【そもそもなんで魚の人はそれを知ってるの?】

【中身美少女だし、もしかして魔導書だったり?】

【魔導書がアイドルしたり、華麗にレスバ返してくるのか】

【解釈違いだよなぁ】

【セラエちゃんは俺達とかどうでも良さげだったし】

【魔術師に恋するタイプだから人間には見向きもしないぞ】

【じゃあ魚の人は物知りなだけか】

【普通に邪教崇拝者なだけじゃ無いのか?】

【サハギンて要はインスマスだろ?】

【成る程、クトゥルフ崇拝するだけあるわ】



 コメント欄でほぼ正解が出てるのにも関わらず、彼女の正体が明るみになる事はなかった。

 皆が皆、普段の振る舞いを見ているからこそ答えに辿り着けずにいる。



『バレずに済みましたね』


『バレてもシラを通せるでしょ、君なら』


『照れます』



 褒めてないんだけどねぇ。

 本人が気にして無いならそれでもいいか。

 まだヘイトが私に残っているのか、しつこく狙われた。

 ええい、鬱陶しい!



『ハヤテさん、魔術使いましょう』


『初耳ですけど。どんなのがあるんです?』


『思考誘導の魔術があります。これは味方のいない空間に自らの気配を映り込ませてスタミナを一方的に奪う魔術ですね。約十分間死に物狂いでその場所を攻撃し続けます。術が切れるまで相手が感づく事はありません』


『強いね』


『成功確率は30%です』


『急に頼りなくなってきた』


『判定に失敗すると十分間行動不能に陥ります』


『ダメじゃない!』


『魔術とは、便利なものじゃないですからね。強力な分、リスクが大きいんですよ』


『自分が行動不能になるか、相手の行動を制限するか、か』


『ですです』


『ウチの孫にかけた術もそれ?』


『ですねー。五回連続で成功したので強めにかかってますよ』


『そこまでして気に入られたかったの?』


『そりゃもう。これを逃したら次の機会はないと思ってましたので。因みに成功率は断片の枚数に応じて10%上昇します』


『そりゃ大変だ』



 ただでさえ図書館への道は隠されている。

 通常ルートの街の中、旨みの少ないクエストからの派生。

 なおかつランダム要素が強く、当たりにたどり着くのに時間を要する。一日棒に振ることもあり得るのだ。



『でも10枚集めると判定なしで不定の狂気に陥ります』


『ねぇえええ、集めさせる気ないでしょ、それ!』



 とんでもないトラップじゃない。魔術の成功率を取るか、魔に魅入られるかの二択を常に要求されるのか。

 しかもその本を開いたら強制的に入手させられるおまけ付きときた。


 一旦念話を打ち切り、ショートワープで九尾(四尾モード)と相対する。向こうさんは神経を逆撫でしながら総毛立つ体を微動打にさせず、尻尾だけを揺らして攻撃してくる。

 まるでその場所から自然に神経を通すような細心の注意を払ってるように思えた。



『ところで九尾、あの状態になってから一歩も動いてませんよね?』


『そういえばそうですね。それ以前に僕たちが逃げ回ってますけど』


『危なくなったら私の影に逃げてくださいね。不本意ですけど許可します』


『あ、本体は影の中に居るので安心してください。今の僕は遠隔操作なので』


『じゃあ見殺しにするね』


『そこはわかってても助けてくださいよー』


『冗談です。飛びますよ、手を』


『でへへへ』



 やたら嬉しそうに手をとるスズキさんアバター。

 彼女はそういう願望が強めなのか、女性への対応をすると舞い上がるように喜んだ。だったら普段からリリーになってればいいのに。


 そんな華麗な回避劇を見せる私たちに、視聴者達は適当なことで盛り上がっていた。



【初見で回避し続けられるアキカゼさんがおかしいのか、それともそのスペックを知ってて囮にした6ch連合がおかしいのか】

【単純にこのモードは持久戦を選んだんだろ、どうせアレだけ動き回るんだ。著しくスタミナ消耗するし、疲れてから殴る方針じゃね?】

【じゃあまともに撃ち合うアキカゼさんがおかしいのか】

【無理するなカメラマン】

【無理させてるのは事前打ち合わせしない6ch連合の方なんだよなぁ】

【俺たちの実力を見せてやる(キリッ)】

【言ってやるな】

【正直天災レベルの環境破壊だぞ、アレ。相手にしなくて正解】

【時間かかるけど倒せるという話が急に胡散臭くなってきたな】

【お、攻撃が止んだか?】

【尻尾が揺れてる……上だ!】

【上からくるぞ、気をつけろ】



 コメント欄で思考誘導してくるのはやめてほしい。

 なお攻撃は下から私の体を突き上げるように放たれた。



【アキカゼさーーーん!!】

【フォーエバーアキカゼ・ハヤテ】

【勝手に殺すな】

【草】

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