第74話 ゲーム内配信/図書館巡りツアー Ⅰ
「こんにちは、アキカゼです。今回で特別枠も5個目。ようやく折り返し地点まできましたね」
【今まで振り返っても全部何かしら騒動起こしてて草なんだよなぁ】
「すべての配信に目を通してくれてる猛者がいてくれてる事が非常に有難いですね。ですがすべての枠が面白くなると言う可能性は低いと断言しましょう。特に今回は面白くなりようがないと思うよ。今から心配だね」
【どんなプレイヤー選んだんだよ】
【今までの登場人物が奇人変人展覧会みたいになってて草】
【最初は普通だったろ?】
【最初からどこか常識を捨ててる感じしてたろ?】
【一般的でないのは確かだな】
【一般枠扱いされてないみくるちゃん可哀想】
【可哀想が可愛い子だから】
【辛辣すぎんよ】
【愛の鞭なんだよなぁ】
「今回紹介しますのはこの御二方です。自己紹介をよろしくお願いします」
「うむ。ようやく我らの出番が来たか。待ちくたびれたぞ。なぁ、ドーター?」
「プロフェッサー、あまり自分よがりは他者からの関心を失います。ほどほどに」
【自己紹介しろっつってんのに自分語りから始まったぞ?】
【今回も濃ゆいメンツですね】
「失礼。二人でいる時間が多くてな。あまり大勢の前で振る舞うのは慣れてないので許して欲しい」
【しょうがない】
【ゆっくりでどうぞ】
「では改めて、私はアンブロシウス。探検家をしている。今はある蔵書を探して図書館を巡っている。そして彼女が」
「セラエと申します。どうぞご贔屓に」
「アンブロシウスさんとセラエ君ですね、こちらこそよろしくお願いします。しかしそのお揃いの黄色いマントはなんとも目立ちますね。何か思い出のエピソードとかあるんでしょうか?」
「これは彼女のシンボルのようなものでね。あまり詮索しないで貰えると助かる」
「おっと、これは失礼。どうもお節介が過ぎたようですね。さて今回はこのお二人と一緒に図書館巡りをしていきたいと思います。きっとそこまで面白くはならないと思いますが、それでもよければお付き合いください」
【待て黄色とセラエ……あっ! え、そんなんあるの?】
【まんま黄衣の王やんけ】
【図書館巡りってそう言う?】
【引き返して、アキカゼさーん】
何やら察してしまった人が居ますね。
ですが今回はそこまでではないと思うんです。
今回のオファーは釣りの回が終わった直後に来たのでそれ関連とは思ってましたが、図書館巡りですしねぇ?
ちょっと解読して終わりですよ。
その前にまず見つかるかどうかもわからないんですが。
まずはファストリアに赴く。
「こんなところに図書館があったんですねぇ。知らなかった」
【住民でさえ知らなさそう】
【壁の中はNPCしか知らんでしょ】
【ここってヘビー討伐イベントの時の共有ルートの一つだっけ?】
【確かそのはず】
場所はファストリアの街〝壁内〟。
通常では入場禁止のそのエリアに、アンブロシウス氏は門番を前に顔パスで通って中へと侵入。
かつて私とジキンさんが時間切れでクリアできなかったパズルを解いて奥に侵入すると、そこは隠し通路になっていた。
カンテラに火を灯し、歩く事数分。
そこは古の書物がいくつもならぶ図書館となっていた。
アンブロシウス氏は迷うことなく一冊の書物をめくり、あるページで止めて私の前に出してくる。
「ここから先がどうにも解読できないんだ。アキカゼさんなら読めると思って今回協力いただいた」
「少しお待ちください。チャンネルを合わせます」
まずこの書物以外には目を通したのか聞いてみると、読む必要がないものだと判断したらしい。
判断基準はセラエ君が欲しいかどうかが解るんだって。
それを聞いてから解析し、彼らはフレーバーを貯蔵しているようだ。アンブロシウス氏にとってセラエ君は娘か孫のような存在らしい。NPCと聞くが、ここまで懐かれていたらそのような情愛を傾けるのもわかる気がした。
そんな微笑ましい二人がより仲良くなるための手助けになると言うのだから協力しがいがあると言うものだ。
「解読できました。ムー言語ですね。今から読みときます」
「頼む」
いあ いあ はすたあ はすたあ
くふあやく ぶるぐとむ ぶぐとらぐるん
ぶるぐとむ あい あい はすたあ
「んー、全てがひらがなですね。どう言う意味でしょうか?」
【召喚呪文やんけ】
【アウトー】
【でも呪文だけじゃ召喚できなくね?】
【それ】
【召喚するには魔力と特定のアイテムが必要。なお成功率】
「これ、懐かしい音色」
「どうやらビンゴのようだ。彼女も喜んでくれている。ありがとうアキカゼ氏」
「いえいえ。これぐらいどうってことありませんよ。それよりもセラエ君は記憶喪失なんでしたっけ?」
「ええ、この古い書物でしか彼女の記憶を取り戻せない。私はね、彼女と出会って救われたんです。なら後は彼女のために何かをしてやりたい。その一心で粉骨砕身の思いで彼女のページを埋めている」
「ページを埋める、ですか?」
「はい。彼女は魔導書ですから。記憶は断片として古代遺跡の図書館に封印されているのでしょう。もしかしたらここには他の魔導書の断片が隠されているのかもしれませんね」
「ははぁ、女性を本に喩えるなんてなかなか出来ませんよ。意外にアンブロシウスさんはロマンチストですね」
【会心のボケ発動】
【このゲームの魔導書は美少女になるんか】
【ちょっと用事を思い出したぜ】
【魔導書の時点で碌な目に合わなさそう】
【うるせーっ側が女の子だったら性悪でもばっちこいなんだよ】
【彼女いない歴を更新し続けてるやつは言う事が違うわ】
【誰が年齢イコール彼女いない歴やねん!】
【そこまで言ってないんだよなぁ】
「さて、ファストリアでの解読は終わったかな? 次はどこ行きます?」
その時だ。セラエ君の体が一瞬膨らんだ気がしたのは。
マントに包まれたその体が大きく膨らみ、破裂するように内側から何本もの触腕を生やした。
それを恥ずかしそうにしまう姿に、なんだか微笑ましいものを感じているのだろう。
「あの、怖がらないのですか?」
「どうも私はそういう耐性が強いようだ。もしかしなくても深きものの称号を持ってるからかな?」
【おいwww】
【いつの間にとったんですかそれ】
「竜宮城に行って帰ってきたらついてたんだよ。不思議」
【一度サハギンにされたからそん時じゃね?】
【あー、納得】
「ふふ。プロフェッサー以外で初めて怖がらないでいてくれた。うれしい」
セラエ君は何故か頬を染めて照れていた。
背格好はマリンと同じくらい。
ブロンドの髪に黄金の瞳。人形のように白い手足。
そしてうねる触腕は奇怪そのもの。
でもそんな仕草をする彼女は年頃の少女と差異はない。
そしてすぐ近くから敵意を込めた視線が私を貫く。
「早くも私はアキカゼ氏をライバルとして認めなければいけないようだ。断言しよう、君は近い将来魔導書を手に入れる。ウチのセラエに負けないほどに強大な魔導書を」
「え、嫌です。なんで断言されなくちゃいけないんです?」
【即答するな】
【この人嫌なことは嫌ってはっきり言うもんな】
【むしろ素質ありって言ってるだけだからね?】
【確かにアキカゼさんなら魔導書の方から来そうではあるけど】
「アキカゼ氏が望まざるとも、あなたはこの戦いに巻き込まれる。いや、すでに片足を突っ込んでいるのにも関わらず我関せずと知らんぷりを決め込んでいるに過ぎないよ」
「怖いこと言わないでくださいよ。私は家族に見守られながら大往生する慎ましやかな夢があるんですから」
「さて、それが叶うかどうかはあなた次第だ。だろう、ドーター?」
「うん。きっと他の子達が放っておかないと思う」
放っておいてよ、私なんて。
【類は友を呼ぶって奴だな】
【魔導書に好かれるなんて可哀想】
【絶対碌なことにならないぞ】
【言うてアキカゼさんが絡んで普通に終わった回があったか?】
【あっ……察し】
【トラブルを呼び込む男だし】
【残当】
【古代獣以外にも厄介なエネミー残ってるのが今からワクワクしてきた】
【それな】
【陣営に汲みする前に知ってたら発狂もんだったぜ】
【陣営あればワンチャン勝てそうなのがまた】
【むしろ古代獣は前哨戦だった?】
【それは草】
【まだ全てクリアしてないのにそう言う情報チラ見させるのやめてくれませんかね?】
私の気持ちを無視してコメント欄は加速する。
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