第53話 ゲーム内配信/秘境探検隊 Ⅳ

 探索は難航した。

 そもそも私の集めた情報網ではなく、他人が拾った情報網のお手伝いなので私が集めてきたフレーバーは一切反応しなかったのだ。

 そして出てくる古代文字は今のところアトランティス言語が表面的に使われてるぐらいで、それ以降はムーのものばかりだった。


 一度情報を纏めよう。

 散開していたメンバーを集め、憶測混じりの妄想発表会を開催する。

 現在集めた情報は遺物の祀られていた配置場所。


 頭の部分には力の実。


 右腕の部分には大いなる目。


 左手の部分には災いの種。


 心臓部にはピョン吉のオブジェが飾られており、そこはイベントトリガーになっていた。


 そしてカレイド氏の見つけた黄金の棒は頭の部分の抜け道に隠されていた。


 今回私はなるべく翻訳だけに努め、ナビゲートフェアリーはおろか、天空に関わる全てのスキルを封印して参加した。

 天空関連は陣営も含む。

 さっきのレイドボスは自分の犯した過ちなので処理したが、現状私の持つ戦力でもなんとか対処できたが、それのおかげでどうにも今回の配信内容が今までの様な無茶をする様なものと同系統に取られてしまった節がある。

 それを払拭する為にはそれぐらいの縛りが必要だろうなと思っていた。

 しかし天空関連といってもレムリアの器は使わせてもらう。

 一応翻訳を請け負ってる手前、それを果たせなければ意味がないからね。

 武器としての使用は禁ずればいいだろうと自分に言い聞かせて望んでいた。



「さて、今ある情報から自分の妄想を出す時間がやってきたよ。こう言うのは全員参加が望ましい。とは言え、手詰まり感があるのは無理もない。私から語ろうと思う。みんなは私の話を聞いた後で何か思いついたことが有れば語ってくれればいい。先程のカレイド氏の様に、思いつきはとても大事な原動力になる」


「でも楽器に絞ってから手がかりは全然見つかんないっすけどねー」


「ふふふ。諦めるのは気が早いよ? さてせっかく配信をしているんだ。視聴者も意見をバンバン出してくれたまえ。ちょっとしたアイディアでも良い。思いついたらコメントよろしくね?」



 一応前振りをしておく。

 彼らは別に私と一緒に考察をする為にこの動画を視聴しにきたのではないと分かっている。

 けれどそんな視聴者の手を借りたい程の手詰まり感があるのは確かだ。



【|◉〻◉)僕的には遺物の配置場所を変えてみるとか、そう言う系統しかわからないですけどねー】



 スズキさんが私の意図を汲んで早速書き込んでくれていた。

 他の視聴者も次第に自分の思いついた行動を書き込んでくれていた。

 だからといってその行動の全てを私達が取れるわけではない。

 でもそれだと思ったアイディアはどんどん取り入れた。


 それはまるで魔法の様だった。

 自分の打ったコメントで私達が行動し、何かを発見したら?


 きっとそのコメントを書き込んだ視聴者は得意になるだろう。

 もしかしたら周囲に自慢するかもしれない。

 その手の反応に聡い第三世代は当てずっぽうの意見でコメントをくれた。



「先程の視聴者のアイディアはお見事でした。良い感じに道が切り開けましたよ」



 拾ったコメントに感謝を忘れてはならない。

 コメントをくれてありがとうと言うだけで、繋がりが持てるからだ。一人一人のプレイヤーネームは拾えないけど、見知ったプレイヤーだからと特別扱いはしない。

 視聴者は平等に扱うつもりだった。

 そしていの一番に情報を出してくれたスズキさんの意見も役に立っていた。



「スズキさんの思惑はビンゴだったね。遺物の配置場所がバラバラになっていた可能性、それはもっともな見解だ。イベントトリガーが集めて心臓に捧げるのなら、正しい配置場所もまたあるのだろう。それが知れたのは大きいよ。また一歩真実に近づけたね」


【|◉〻◉)あざーす】

【おい、せっかくアキカゼさんが褒めてくれてんのに】


「いつもの事さ。この人恥ずかしがり屋だから」


【|′〻')ふひひ、サーモン】

【身内公認なのは流石だな】

【でも身内贔屓はされてないのな】



 こんな風に茶化してくるのはいつもの事だ。

 身内贔屓と揶揄されない為の偽装だろう。


 対応がジキンさんに対するそれではあるが、周囲の目があるので今のキャラを貫くつもりかもしれないね。


 彼女は普段から奇行に走っているから、周りからすればいつ元同じの様に受け取られる。

 彼女なりの気遣いか。

 微妙にわかりにくいのがまたなんとも彼女らしいが。


 合図は地響きが教えてくれた。

 適切な場所に置くと、何かのギミックが発動する様だ。

 後は二分の一。

 右手と左手の祭壇にそれぞれの遺物を一回ずつ置く。

 しかし大いなる瞳の時の様な反応は得られなかった。



【さっきの音はどこで鳴ったのかな?】



 そのコメントに導かれる様に、ホークアイ氏が羽ばたいて空撮した。

 すぐに空撮した画像が送られてくる。

 一枚目は地響きが鳴る前、二枚目は地響きが鳴った後である。



「今ホークアイ氏が私達に映像を送ってくれた。これによって差が大きく出た部分がある。それは心臓部。さっきピョン吉の生き別れの弟が出てきたところだね」


【その弟の下手人が目の前にいるんですが】


「それよりも今は事件解決に意識を向けよう」


【お、話すり替えたぞ】

【いつの間にか事件になってる】

【犯人が探偵とか頭こんがらがるで】



 正論は嫌いだよ。

 冗談はさておき、私達は心臓部、ヒュプノのオブジェが祀られた湖へと駆けつけた。



「ふむ、こう来たか」



 先程の湖から水が抜け、地下に続く階段が現れていた。



「アキカゼさん!」


「降りてみるしかないようですね。ホークアイ氏に地上へ降りてくる様に頼んでも?」


「既にこちらに向かって貰っている」


「流石隊長殿。カンテラはお持ちですか?」


「必需品さ」


「ですよね。では先陣はお譲りします」


「良いのか?」


「私は今回お手伝いですので」


「恩に着る」



 着せるほどの恩でもないけど、未到の地というのは探索者に取っての特別だ。

 私はたくさん踏んできたけど、今回の主役は彼らなので譲ってやるのは当たり前だった。

 少しばかり私が悪目立ちしすぎて萎縮してしまっているが、これを機に自信を取り戻して欲しいところだ。



「アキカゼさん、ここから先はエネミーがいる様だ。さっきのアレを見て大丈夫だと思うが、一応用心はしておいてくれ」


「はい。お心遣い感謝します。戦闘に関しては門外漢ですので」


「よく言う」



 苦笑され、私達は戦闘フィールドへと入り込んだ。

 即座にスクリーンショットをパシャリ。



「ふーむ。スワンプマンの強化型ですか。特効は音らしいです」



 現れたのは一体だけ。

 しかしその佇まいから強敵のオーラを醸し出している。



「音、か。ホークアイ、超音波は出せるか?」


「隊長、ワシを蝙蝠か何かと勘違いしていやいないか?」


「じゃあカレイド、金切声とか出せるだろうか?」


「無理っす。あたしがヒス女に見えるっすか?」


「冗談だ。でも音か、どうしたものか?」


【さっき拾った金の棒は?】


「じゃあそれ使って音を出してみましょう。金属なので金属で叩いてみましょう。丁度手元に謎の金属塊がありますし」


【それ、レムリアの器www】

【まーた突拍子な行動に出たぞこの人!】



 今更ですよ。むしろ私にそれを求めてるのは誰なのやら。

 能力の幾つかを封印したところで私の行動原理が変わるわけないんですから。



「ではそれで頼む。オレ達はいつも通りやるぞ!」



 リズベット氏が腰に下げたサーベルを抜き放った。

 カレイド氏は短銃を構え、ホークアイ氏に至ってはその場で飛び上がって足で器用にボウガンを扱っている。

 陣形は前衛がリズベット氏。他二人が遠距離という珍しいもの。



「ちぃ、硬い!」



 リズベット氏がすれ違い様にスワンプマン強化型の胴を薙ぎ払うも、大して耐久は削れている様には見えなかった。


 そこで私がショートワープでスワンプマン強化型の背後に周り、ミョワァーーンと奇妙な音を鳴らした。

 それを聞いたスワンプマン強化型の動きがピタリと止まる。



「隙ありっす」



 ドウンッドウンッと重い音を響かせてカレイド氏の短銃が火を吹いた。

 耐久は大きく減り、しかし耐久消費後にすぐに動き出すスワンプマン強化型。

 狙いは短銃の反動で動けなくなっていたカレイド氏だ。



「危ない!」



 再び奇妙な音を鳴らして動きを止め、そこへリズベット氏のサーベルの一撃がスワンプマン強化型の耐久を散らした。



「お見事です」


「いや、アキカゼさんのご助力があってこそです。助かりました。ほら、カレイド立てるか?」


「面目ねっす」



 因みにホークアイ氏はその間どうしていたかと言うと、スワンプマン強化型と同じ様にピタッと動きを止めて、困惑した様な表情でこっちをみていた。



「済まない、此度の戦闘で役に立てなんだ」


「人にはそれぞれ得て不得手があります。今回は運が悪かったと諦めましょう。そのかわり、空撮は頼みますよ?」



 ポンと肩に手を置いて励ましてやれば、面目ないと頭を下げられた。

 私も空を飛べるけど、それをしたら彼の種族を貶めることになっちゃうからね。

 それはしちゃいけないことだ。

 空では私以外にやれる人がいないからしたけど、ここで出しゃばるのは違うからね。



「さて、今のモンスターが通路を開くキーになっていた様だ。開けた場所に出るよ」



 それは大きな壁画だった。

 ヤマタノオロチ討伐の際に現れたメッセージと同じ様に、ヒュプノに立ち向かう現地人の絵が書かれている。

 頭には瞳を象った兜を被り、右手には棒を持っている。左手には何も持っていない。



「これは何かのメッセージでしょうか?」


「頭に大いなる目と書かれた遺物を置いたら出てきた階段の先には右手に棒を持つ絵。これはつまり私の妄想が正しければ、次に置く場所の位置とものを示しているのでは?」


「つまりこの壁画には続きがある……という事ですか?」



【|◉〻◉)あ、これ僕とハヤテさんがファストリアの用水路の奥で見つけたやつと同じ系統の奴ですか? 古代人壁画好きっすねwww】


「ファストリア……確か半年前に発掘したイベントでしたか」


「うん。スズキさんはその時の私の協力者でね。一緒に探検に付き合ってくれたんだ。当時は私は戦闘できなかったでしたから」


【マジか、魚の人ってただのクラメンじゃなかったのか】

【|ー〻ー)今更僕の凄さに気づいても遅いよチミ】


「すぐ調子に乗るのも昔からですね。さて、配信の都合上仕切ってしまいましたが、行動の決定権はリズベット氏が決めてください。私はあくまでも翻訳者なんで」


「何を仰る。既に我々はアキカゼさんの実力を認めていますよ。その上で勉強させて貰っている」


「それでは私が横取りしてしまうみたいで悪いです。そもそもの趣旨からずれてしまいますし、次に繋げるためにもあくまでお手伝いとして扱ってくれると嬉しいです」


「むぅ、そこまで言われるのでしたら分かった。では一応この壁画から古代語が出てこないか確認したのち、金の棒を右手の位置に収めに行こう」


「「「了解」」」



 リズベット氏の言葉に私と他二人が元気よく返事をした。

 やはりずっとリーダーをやっていただけあって堂々としている。判断も的確で素早い。

 私たちの足取りは軽やかだった。

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