第37話 ゲーム内配信/vs古代獣ヤマタノオロチ Ⅳ

「ムササビ君、君どうやってマシンと肉体維持してんの?」


「そりゃ簡単なトリックだぜアキカゼさん。俺っちのメカは単純に乗り物系。変形はするけど乗組員の安全は守られる安全設計なんですわ。アウルみたいに変形メインで攻撃主体じゃなければこれくらいできるんすよ」



 へぇ、メカと言っても色々できるんだ。

 探偵さんがハマるわけだ。



「じゃあどうしてジキンさんはパイロット搭乗型にしてないんだろ?」


「大方そっちに頭が回ってだけじゃないっすかね? 案外見落とされること多いんすよ、この機構」


「理解した。初めからそのように想定する必要があったわけだ」


「くまー、それでくまを運んでくれるくま?」


「おうよ。俺っちのマシンはステルス付きの複座型。そしてアウルとの合体は見栄え重視で、見栄えを重視しなけりゃあいつのメカは頭なしでも戦える。なんせ本人が操ってるからな。けどちょっとお前さんデカいな。人間サイズしか想定してないからちょい狭かもな」


「くまー。小さくなることも可能くまよ」


「お、良いね。じゃあそれで乗り込んでくれ」


「了解くま」



 ムササビ君のメカにくま君が乗り込むのを確認してから見送り、ブルートライダーはその機体を景色と完全に同化させた。

 同時に離陸するジェットオンが聞こえ、行ってくるくまーの声がどんどんと遠ざかっていった。



「さて、目下の憂いは晴れましたね」


「そうですな」


「これからはタッグを組んで攻略に当たるということでよろしいか?」


「でしょうね。生身組の私達。お酒死守組のムササビ君達。そしてメカ組。これらでタッグを組むでしょう」


【大丈夫? 事後報告で】

【流石にそれくらいの臨機応変くらいできるだろ】

【だなー、ヤマタノオロチは初心者向けじゃねーもん】

【各陣営でランクⅢ超えてる時点で初心者じゃない件】


「大丈夫ですよ。みんな自分のやれることは弁えてる。なんとも出来なくなったら頼ってくるでしょうし、そういう未来は早々に訪れないことでしょう」


【そりゃそうだ】

【サブマスさんも諦め悪いしな】

【ムササビチームが今からどのように場を掻き乱してくれるのか期待】

【あいつにこのフィールドは狭いんじゃないか?】

【それよりくまが小さくなれる方がびっくりだよ】

【何言ってんだ。ムーは任意で大きくも小さくもなれるぞ?】

【えっ】

【多分だけど巨大化できる事しか他の陣営には知られてない件】

【あー、分からんでもない】

【巨大化してもミニマム化しても強さ変わらないもんな】

【小さくなれば小回りが利くし、大きくなればスキルの範囲が変わるだろ?】

【ミニマム化は緊急脱出には良いぞ】

【分かる。ムーの利点だよな】



 コメントでは各陣営トークが繰り広げられている。

 良い傾向だ。陣営が増えれば増えるほど、お互いの強みも増えてきて、見てるだけの視聴者にアトランティス以外の魅力が伝わるからね。

 ただし分散したからかどうか分からないけど、私たちの方に首が二つ集中する。


【あー、よりによって茶色来た!】

【鉄壁の茶!】

【看破の灰は真っ先にメタルトライダーが処理してくれてるのでまだ平気】

【灰首絶対切るマン? 何それ怖い】

【って、えぇえええええ!? 師父さんすれ違いざまに茶首ぶった斬ったーー!?】

【ジョブブラスターに見せかけた銃剣使いで草】


「今のはレムリアの器のビームソードモードじゃよ。存外、知られておらぬがな」


「へぇ、良いですね。私にも出来ますか?」


「生憎とレムリア陣営限定の隠し設定みたいで。しかしアキカゼさんのレムリアの器は少々特殊だ。少し拝見しても?」


「ええどうぞ」



 懐からレムリアの器を取り出し、師父氏に見せているその時、もう一つの黒い首が空気を吸い込む動作から紫色のブレスを吐き出し、それを見もせずにレムリアの器でビームを打ち出し対処する師父氏。撃退まではいかないけど、スキルを込めたのか紫色のブレスはその場で霧散してしまう。



【師父さんつえええええ!】

【今見ずに撃ったぞ?】

【レムリアの頭はセンサーだから、器に自動ロックオンして撃つことが可能】

【えっ?】

【意外と知られてないよな】

【忘れてるかもだけど、レムリア勢は全員がメカニックと同じプロセスで肉体動かしてるからな?】

【側が人間サイズなだけであれもロボット類だぞ】


「ふむ、どうやら可能なようじゃな。ただし出力はワシらほど出せんじゃろう。これはデバイスでもありスペースシップでもある。機能を十全に理解せねば使いこなすのも難しいじゃろうて」


「できるのだとわかりさえすれば多くは望みませんよ。そもそも陣営が違うわけですし」


「結構。そら、おかわりが来たぞ?」


「あれって霧ですよね?」


「センサーからの情報じゃ麻痺毒と猛毒が含有されているので人体には毒じゃろうな。ワシらには効かんが」


「まぁ避けるのは楽なのですが」


【でた、ショートワープ!】

【これ生身組じゃなくてワープ組じゃね?】

【それな。二人ともスキルでそれを実現してるし】

【当たり前のように空も飛ぶしな】


「こう、かな? あ、出来た」


【ぶっつけ本番で首を切るな!】


「いや、できるとは思わなかったので。でも結構難しいよ? ただでさえ攻撃系スキルを持ってないしね」


「お見事。ぶっつけ本番でそれだけできれば、あとは実践あるのみじゃな」


【この人はこの人でスパルタだし】

【本人はそう思ってなさそう】

【瞬歩で10メートルを一万回こなす人だしな】


「ええ、ビームは打つだけではなくその場に止めることもできるのですね? そして切断する内側に置くイメージで」


「ホホホ、それだけ理解してれば十分じゃて」


【本人達にしか分からない会話しないで】

【これ放送事故では?】

【アキカゼさんは見せてくれてるだけで配信ガチ勢じゃないから。暇な時だけしか相手してくれないぞ】

【それなー】

【むしろヤマタノオロチ相手にここまで余裕保てる方が稀】

【分かる。もっと手一杯になるもん】

【視聴者側はそれを理解した上で観にこなきゃだ】

【ここまでで結構な回数の情報拾えてる件】

【分かる。雑談レベルで出て良い内容じゃない】

【雑談枠でイベント発掘する人だから】

【そうだった】







 私がレムリアの器で茶色い首を落としてる頃。上空では、



「ヒャッホォオオオオウ! 滑空サイコーーーー!」


「待つくま、これ滑空って速度じゃ……」



 ブルートライダーに乗り込んだ森のくまが悲鳴をあげていた。

 


「ビビってんじゃねぇよくま助。俺っちのスピードはこんなもんじゃないぜ! ここからフルスロットルだぜッッ!!」


「くーーーまーーー、乗る飛行機間違えたくまーーー」



 乗り物に乗った途端豹変するムササビの運転は中に人が乗ってる状態でするものではなかった。


 それはさながらホーミングするミサイルのようで、空中で上を向きながら縦軸で回転しつつ、急にきりもみ回転しながら落下、からの後方宙返りとやりたい放題だった。


 危険運転なんてものではない。

 ただしここにスピードが乗れば……勘のいい読者ならお分かりいただけるだろう。


 そこは安全装置が働く遊園地ではない。

 墜落すれば死を免れない戦場なのだ。


 なのにムササビはスピードの向こう側に行くべくアクセルを踏み込んだ。

 ここは減速をするべきだろうと打診するくまの言葉など聞こえてないように、デバフを撒く緑の首とブレスを撒く赤の首を振り切る。



「オラくま助、お前もただ乗ってるだけじゃ暇だろう? 横に腕出せるスペース開けたからついでに攻撃しろ。言っとくがこの飛行機に武装の類はついてねぇ」


「ええええええ!? なのになんでその余裕くま!?」


「バッカお前。攻撃なんて当たらなければ良いんだよ。回避特化だ馬鹿野郎。避ければどんな攻撃も無意味だって赤い人も言ってたろ?」


「どこのアニメくま!? 知らない人くまよー」



 渋々と空いたスペースから手を出す森のくま。

 しかし一度攻撃に集中すれば、野生の血が騒ぐのか先程までの臆病さは抜けてノリノリで腕を巨大化させて攻撃し始める。


 突如生えたクマの腕はヘイトを稼ぐも、その粗い運転で狙いはつけられず、破れかぶれで放たれたスキルはクマの爪によって大蛇の首に致命傷に近いダメージを与えていた。

 それを見てムササビもテンションを上げていく。

 ちょうど良い攻撃手段を得て気分が上がってしまったようだ。



「おっしゃ! ナイス引っ掻き攻撃だぜくま助!」


「くまー! もうこうなったらヤケクソくま!!」



 案外、この二人の相性は良いのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る