第28話 ゲーム内配信/ぶらり二人旅vs古代獣 Ⅴ

 ジキンさんが私の移送から卒業し、重力操作★+風操作★で自由に空を飛び回る。

 私はスワンプマン強化型/ホバーとボール強化型/マジックを同時召喚!

 自分のテイムエネミーに十全に重力無視が働くように『輸送』を施し、空を走り回るホバーの背と裏面にボールをセットし、多方面から攻撃を仕掛ける。

 その一方で先ほどのように風船みたいに飛ばすボールからも魔法の雨が降り注ぐ。



【なんだアレ、なんだアレ!?】

【アキカゼさんのエネミーの扱い方あたまおかしい】

【完全にホバーの弱点補ってるんだよな】

【足元弱点なんて普通気づかんだろ。何度轢き殺されたかわからんぞ?】

【背中は弱点ぽいが……】

【今やびっしりボール型がウヨウヨしてる】

【いやぁあああああ】


「ハッハッハ、流石ハヤテさんやりますね。なら僕もピッチング速度を上げていくとしましょうか。このボール、受け止めきれますか?」


【今まで全部デッドボールなのに何言ってんのこの人?】

【顔と胴体で受け止めてるだろ?】

【草】



 ざしゃぁあ、と空を切り足が高々と天を突く。

 そして振り下ろし気味に放たれたボールはヨルムンガンドとは明後日の方向にものすごい勢いで過ぎ去り、通り過ぎた先でグググッと曲がってヨルムンガンドの後頭部に直撃した。

 衝撃で目玉が飛び出るくらいに強かに打ち付けている。

 そのまま顔面から地面に衝突し、すぐに下手人を探そうと空を見渡すがそこにそれらしい姿はなく、風船のようなボール型から魔法の雨をお見舞いされた。

 物理そのものに耐性はあるが、魔法ダメージは通りやすいのを確認してる。



「ふふふ、どうですか僕のナックルボールは!」


【ナックルボールの曲がり方じゃねーぞ!】

【ブーメランもビックリの急カーブ!】

【ただのボークじゃねーか】

【この人本当に野球のルール知ってんの?】

【そもそも野球自体知ってるかも怪しくなってきたぞ】

【それ】


「昔やってた南海の星というアニメの受け売りでしょう。多分野球そのものは知らないと思うよ」


【だと思った!】

【今調べたけど熱血スポ根なんてそれこそ第一世代にしか通用しないようなアニメだろ】


「第一世代以前に一部の男子にしか流行ってないよ。一括りにしないで欲しいね」


「裏切るんですか!?」


「裏切るも何も、そもそも私は野球よりもサッカーの方が好きでした」


「初めて聞きましたよ!」


【突然の裏切り!】

【アキカゼさんサイテー】

【ただの趣味の違いやろ。裏切りも何もない】

【確かに第二世代の全員がラクロス好きかって言われたら別にって答えるしな】

【なぜにラクロス?】

【俺がラクロス部だった】

【お前の部活動なんて知らねーよ! 押し付けんな】

【ほら、こんなもん】

【知ってた】



 ジキンさんがバカやってる間にヨルムンガンドの耐久は40%を切り始めた。

 やはり魔法よりレーザーやビームの効きがいいのか、漸くだ。


<テイミング!>


<テイムに失敗しました>


 

 40%じゃ無理か。

 魔法の効きが悪いなら手を替えるか。

 タワーの耐久も回復してきた。

 


「ボール送還、タワー、出ておいで」



 タワーを生やした場所はホバーの背中。

 空を自由に飛べるホバーの機動力に、数メートル先の相手も絡めとる触手鞭の相性はバッチリだと踏んでいる。



【げぇーー、なんつータッグ組ませてんの!?】

【エグいにエグいを掛け合わせるな】

【爆走するホバーの背中に相乗りさせていい相手じゃない】

【本当に自由な組み方するよなぁ】

【設置型だからどこに生やすかなんだよな。エネミーの背中に生やすのは新しい】

【新しいか? さっきマジックでやったろ?】

【それはそれ】


「またヘンテコな組み合わせだね。何企んでるの?」


「畳み掛けようと思いまして」



 ここでレムリアの器を出す。



「なるほど。レーザーは?」


「そちらでお願いします。こちらは動きを封じて弱らせます。ジキンさんは耐久を削ることを念頭に」


「了解です。ちなみにテイムの進捗は?」


「40%では振られてしまいました」


「これ本当にテイムできるんですか?」


「できる!……と信じています」


「いつもの奴ですか。ダメで元々」


「そうそう。5%切ってダメだったら諦めましょう」


「なんだ。ハヤテさんのことだからあと1%、と粘るのかと思いましたよ」


「そこまで言うのなら1%まで粘ります」


「えー」


【墓穴掘りおった】

【こうやって言質取るんだろうなって】

【φ(*'д'* )メモメモ】


「良いフレンドに恵まれて私は幸せ者だね!」


【草】

【いつもこうやって脅してるのか】

【アキカゼさんニッコニコやん】

【お爺ちゃんが楽しそうで何よりです】

【反面サブマスはなんともいえない顔してるんだろうな】

【メカ越しに感情が伝わってくるのがなんとも】



 ◇



 30%<テイムに失敗しました>


 25%<テイムに失敗しました>


 20%<テイムに失敗しました>


 15%<テイムに失敗しました>


 10%<テイムに失敗しました>


  5%<テイムに失敗しました>


  4%<テイムに失敗しました>


  3%<テイムに失敗しました>


  2%<テイムに失敗しました>

  


 そしてようやく最後の、耐久が残るか残らないかの1%で、私は奇跡を引き当てた。



 <テイムに成功しました>


 <テイム枠がいっぱいです>


 <どのエネミーとお別れしますか?>


1.ボール:ボール強化型/マジック

2.ホバー:スワンプマン強化型/ホバー

3.タワー:シャドウ強化型/タワー

_.???:ヨルムンガンド


 

 瞬間先ほどまで苦戦していたレイドボスはその場から姿をかき消し、私の胸にかけられたネックレスへと吸い込まれる。

 これはテイマーになった時に授かった装飾品で、ランクに応じて色合いが変わると言うものだ。

 私のランクはⅢ。

 アトランティス言語でⅢに該当する文字が刻まれている。

 私は活躍の場が少なかったホバーと別れを告げて、新しく仲間になったヨルムンガンドに「ヘビー」と名付けた。

 蛇だし重いのでどちらとも取れる。



【おっ】

【あれ?】

【やったか!?】

【おいフラグ立てんな】


「お疲れ様でした。今回の検証は私の目論見通り。テイマーの皆さんに朗報です。古代獣はテイム可能です」


【えっ?】

【おつかれーって討伐じゃなくて?】

【ちょ、テイム成功ってマジ?】


「証拠が必要ですか? おいで、ヘビー」


「キシャァアアアアアアア!」


【げぇーー!?】

【ホンマや、テイム成功しとるやん!】


「結局耐久は何%まで減らしたんです?」


「ジキンさんが根気強く付き合ってくれた1%でゲット出来たよ」


「それ、失敗したらもう一度やるんです?」


「そう言う意味では私は運が良かったね!」


「付き合わされる方のみにもなりなさい!」


【当事者は語る】

【誰でもは出来ないなぁ】

【これに付き合えるサブマスも十分おかしいよ】


「やめてくださいよ。僕はここまで非常識じゃないです。普通ですよ、普通!」


【なんて?】

【さっきまでインチキ野球で暴れてた人がなんか言ってるぞ】

【普通ってなんだっけ?】



 諦めの悪いジキンさんの肩をポンと叩き、私はかぶりを振る。



「なんですか?」


「アレだけ暴れておいて、常識人面するのはやめましょうよ。もう手遅れです。あなたもこっち側の住人ですよ。あきらめましょう」


「違いますよ! 僕はあなたに巻き込まれただけだ! 断固拒否する!」


【あ、この人もしかして自分がどれだけ常識の外にいるか自覚してないな?】

【アキカゼさんもそう言うとこあるし?】

【相変わらず濃いメンバーだなぁくらいにしか思わなくなってきた】

【なんだかんだでアキカゼさんに張り合えてる時点で非常識だよなと思う】


「だ、そうですよ?」


「僕は被害者だぁあああ!」



 今更になって一人だけ逃げようとしても遅いんだよね。

 既に200万人以上の目撃者がジキンという人物がどれだけ滅茶苦茶やる人間かを目撃してしまっているし。

 まぁ巻き込んだのは私ですから、楽しい旅にはしたいですね。



「ほら、次の挑戦者の迷惑になるから次に行きますよ?」


「次? そういえば次の予定は決めてあるんですか?」


「次は二つ目はまだ出てないから三つ目のヒュプノに行く。アトランティスプレイヤーが攻略済みだし、きっと私たちでも大丈夫だろう」


「ねぇ、それ絶対勝てる見込みなしで突っ込むつもりでしょう?」


「それは私の口からはなんとも……」


「降ります! 急用を思い出しました! 他の人を呼んでください!」


「だーめ。あんな格好つけて奥さんに別れを告げてきたんだから土産話持って帰りましょうよ」


「二人でヨルムンガンド討伐しただけでも十分でしょ!?」


【充分な戦果なんだよなぁ】

【それ】

【メカニックで通常スキルが使える以上、ソロでも討伐するやつ出てくるかも?】


「ほら、二人でなんて別に珍しくもないみたいですし」


「ちょ、引っ張らないでください。僕は帰るんだぁあああ!」

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