第26話 ゲーム内配信/ぶらり二人旅vs古代獣 Ⅲ
発狂状態は程なくして終わったが、これを完全に回避し切るシェリル達は一体どれほど検証を積んだのだろう?
彼女のことだから寝ずに検証をするくらい普通だろうからね。
それでもまだ詰めれると確信が持てるのだからすごいとしか言いようがない。
私達は現在「スワンプマン強化型/ホバー」に乗って爆走している。ただでさえヨルムンガンドが暴れ回って足場が捲れ上がっていて、地上は迷路みたいになっていた。
ジキンさんはもう一度メカに転身する為にも命大事に状態なので、じゃあ機動力のあるホバーに捕まって移動しようかと言うことになってそうしている。
タワーはビームに弱いのか、さっきの発狂の巻き添えで耐久を5割近く持って行かれていたので回収して自己回復させている。
強化型でも足止めすらできないとかやばいよね。
まあダメージは与えてるんだ。
どうもビーム兵器の通りがいいみたいだね。
特効武器は銀装備だったような気がするけど、ここにスズキさんが居たらどのような活躍をするだろうかと思い描く。
軽く想像したら炬燵に入ってみかんの皮を剥く彼女の姿が浮かび上がって、苦笑する。
出てくるたびに笑わせにくるのやめてもらえます?
彼女は私の中ですっかりお笑い担当のような立ち位置になっていた。
【この絵面と来たら】
【お爺ちゃん達が楽しそうで何よりです】
【それ移動用の乗り物じゃねーから!】
【えっ?】
【あ、ちょまっ!】
今までビームは上から来ていたが、発狂後は真横から来るらしい。
風操作と重力操作を同時に使ってホバーを強制的に浮上!
大縄跳びをするように、その場で一回、2回とビームの縄をやり過ごした。
【クッソ笑った】
【あれを回避しおったwww】
【ホバーってあんな動きできたっけ?】
【出来ねーよ! ホバーをなんだと思ってるんだ!】
だいたいわかってきたぞ。
あくまで行動にはパターンがあるのだ。
一番最初の真上からレーザービームは様子見状態。
きっと耐久がある程度回復したらあの状態に戻るのかもしれない。
耐久が三割削れると一度発狂し、真横からビームが飛んでくるようになる。
それが終わると尻尾での薙ぎ払いと丸呑み攻撃がくる。
一通り終わると様子見状態に戻る。
攻撃チャンスは耐久を回復してるであろう、様子見形態の時。
実際それ以外では動き回るのもあって何処に頭があるのかわからない状態だ。
「ビームが横から来るときは逃げに徹して、上から来たらメカ呼んで」
「何か掴んだんですか?」
「多分だけど、このモンスターは一定のパターンで行動している。まるで動かないときは耐久を回復させてるんじゃないかと思う。だからあそこまでサンドバックになってたんだ」
「なるほど。発狂したのを見たからわかりますが、普段はそんなにおとなしくないですもんね、っと。耐久回復中は他の行動ができないと?」
「そう睨んでます」
真横からくるビームを条件反射で大縄跳びを飛ぶようにジャンプ。
これはホバーに乗ってるから対応できることであり、普通に歩いてたら対処不可能だと思う。
モンスターそのものの大きさもあるけど、ビームの範囲も結構大きい。
ジキンさんクラスの巨大ロボとタメを張る時点でそれはわかっていたことだけどさ。
人間がどうにか出来る相手じゃないよ。
そう思えば金狼君はよくぞこれに立ち向かえたなと思う。
【ビーム見てから回避余裕でしたー】
【当たり前のようにビーム避けてるのなんなん?】
【普通はあれで大体死ぬんだよな】
【ムーは巨大化するとビームの集中砲火喰らうんだぞ?】
【そりゃ(的がでかけりゃ)そうよ】
【古代獣君、ムーにだけ厳しすぎない?】
【これを当時プレイヤーのみだけで倒したってんだから大したもんだよ】
【そうなの?】
【記念すべきアキカゼさんの発掘イベントだぞ?】
【開催期間めちゃ短くて参加できなかった話をしてやろうか?】
【ほぼ身内で解決したんだよな】
【身内にそこそこ大きいクランのマスターが居たからな】
【羨ましい限りだよ】
【羨ましいってどっちが?】
【そりゃ、身内のクランがだよ!】
【あれを振られたのが小規模クランだったらきっと詰んでたぞ?】
【ほぼ丸投げだったしな】
【ノーヒントだぞ? 涙拭けよ状態。それでも立ち上がった精錬の騎士と漆黒の帝はすごいよ。拍手喝采】
コメント欄では随分と懐かしい話をしているね。
「さて、動きも散漫になってきたね。そろそろかな?」
ミ゛ョウン!
真上からビームが飛んでくるのを合図に、ジキンさんがそこへ突っ込んだ。
一度自殺しないと転身出来ないのはとても面倒だけど、生身でメカを操作できるメリットはでかい。
精神体の場合、メカが大破するとアトランティスの格納庫に戻されてしまうからだ。
しかしミラージュによる幽体離脱状態なら、肉体が復活するまで。肉体をその場に残さず、メカを操り、転送で送り返すと肉体が生えると言う裏技だ。
が、ジキンさんのフォームはまた変わっていた。
バットは持たず、グローブをつけている。
どうもピッチャーの様だ。
犬であることは変わらないんだけど、どうも野球のユニフォームのような衣装を身に纏っていた。
本当、変なところに拘るんですから。
「バッターはもう良いんですか?」
「もう少し変則的に行こうかと思いまして。殴るよりビームの方が効くのなら、こっちかな、と」
ジキンさんが振りかぶり、第一球!
流れるようなフォームから繰り出されたのは、七つに分裂した揺れる球だった。
それは本当に七つに分裂しているのか、7回のダメージを与え、チェインアタック扱いになっていた。
えっぐ。エグい攻撃だなぁ。
【なんぞ! ボールが七つに分裂したwww】
【本当に分裂して7ヒットしてるのは草】
【チェインアタックまでついてるぞ】
【アキカゼさんの番ですよー】
コメント欄もジキンさんへのツッコミが追いつかないのか、私に無茶振りを要求してくる。
それに応えるようにジキンさんの肩へショートワープ。
その直後にビーム攻撃。
ジキンさんはグローブを構えてビームを受け止めていた。
「あ、それって電磁バリア?」
「ちょっと違いますね。これはビームを吸収してボールを作る魔法のグローブです。結構燃費いいんですよ」
【ビーム吸収するとかマ?】
【でもお高いんでしょう?】
【それは電装系全部死ぬ諸刃の刃だぞ】
【ビーム吸収できる代わりにビーム打てなくなるガラクタだ、騙されるな!】
【そんなにいいものじゃなかった!】
「良いものですよ。貯めたビームは手元でボール状になる。射出せずに投げる分には有効だっ!」
【くっそ正論で返ってきた】
【ビーム兵装捨ててまで野球にこだわるこの人はなんなの?】
【この世代はリアル優先だからしょうがない】
「草野球で鍛えた魔球を喰らえっ!」
【今度は炎がボールを包んで巨大化した!?】
【めちゃくちゃで草】
【この人も大概おかしいな!】
【今回アキカゼさんずっと大人しくない?】
【大人しくはないぞ。サブマスが暴れてるだけ】
「今回の目標は古代獣のテイムですからね。倒すのは二の次です。私は弱らせてテイムできるか何回か挑戦してますが、結果は芳しくないですね」
【古代獣ってテイム出来るの?】
【あれってエネミー限定じゃないんだ?】
「現状はエネミーが対象というだけで、説明文にはこうあります。敵対対象を使役すると。使役種族を使役するのは当たり前ですが、本来はエネミーだけではなく、こういった種族も含まれるんだと思うんですよ」
【それってただの言いがかりでしょ?】
【また無茶苦茶言い出したよ】
【言ったもん勝ちとか思ってそう】
【誰もやろうとしないから出来るかどうか試してるだけでしょ?】
「その通りだ。最終目標はファイべリオンのヤマタノオロチをテイムする事だからね。ここはその練習さ」
【未検証で練習って言い張る人がおるぞ】
【言い出したら聞かないからな】
【それで実績出してるんだから、誰も止められないでしょ】
「失敗しても諦めなければそのうちなんとかなる。私はそう思ってるよ?」
【アキカゼさん、がんばえー】
【誰だよ、今回アキカゼさんが大人しいとか言った奴】
【事後承諾の無茶振りの初戦でこんなところに連れてくる人が大人しいはずないんだよなぁ……】
散々な言われようだけど、ジキンさんにも話してないからね。
私は彼の暴れる舞台を用意してあげるだけ。
結果は彼が勝手に出してくれるとそう踏んでいるよ。
しかしこの古代獣……どうもエネミーと体質が似てるんだよね。まるでアトランティスと因縁がありそうな……そんな気がするんだ。
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