第52話 九の試練/追憶 Ⅶ

 射線を合わせてアトランティスの民へと撃つ。

 最初は一発のみ。もしライフゲージが増えようものなら溜まったものじゃない。

 しかし想定を大きく上回ってライフゲージが減少した。

 ツルハシでの攻撃が1/1000とするなら、ビームソードのそれは1/100。残弾が10発なので全部当てれば実質一割だ。



「あれ? 今めちゃくちゃゲージ減りませんでした?」



 アトランティスの民に順番にツルハシを打ち込んでたスズキさんがLPの減り具合に気付いて声を上げる。



「何やったの、少年?」



 探偵さんは下手人を私だと特定しながら聞いてくる。



「ビームソードをレムリアの器に取り込んで放ちました」


「ああ、なるほど。取り込めば質量は消えるもんね。でも本人の手元に帰った時の実験用に本体で攻撃するのも忘れないで」


「わかりました」



 念には念を。

 ダメージソースになり得る情報の他に、何が回復の原因になるか分からないのもあるので慎重になるのも無理からぬことか。

 

 妻からトレードして貰ったビームソードをえいや! とアトランティスの民に投げつけると、ビームの刃の部分が当たったにも関わらずライフゲージが1割回復した。


 やっぱり罠だったか!


 それに伴って「何してくれるんですか!?」や「ああ、せっかくの苦労が水の泡だぁ」など番犬が飼い主の手に噛み付く勢いで吠え始めた。

 確認しろと言ったのは探偵さんなのに、全部私のせいなんだ。

 あの人にも参ったものだよ。



「やっぱり回復しましたね」


「いや、やりようによっては使えるよ」



 事実確認を済ませると、被せる様にして探偵さんが答える。



「どういう事ですか?」


「アトランティスの民はライフゲージの減り具合で攻撃パターンを変えてくる。今の回復で15%まで戻ったが、20%を切ると攻撃手段が増えるんだ。バリア張ってた時の海水攻撃を仕掛けてくる。現状は三人で抑えられてるけど、これ以上減ると三人じゃ厳しいかも。状況を確認しつつきつくなったら回復させて状況を整えよう」



 へぇ。相変わらずよく見てる。

 そして機転も利く。

 減らす方に夢中になりがちだが、あえて増やすことで安全マージンを取ると言うのか。



「なるほど。じゃあ一人がノックバックさせてる時に他の三人でレムリアの器で撃つのはどうです?」


「減りすぎて攻撃回数が増えたらどうするんだい」


「その時は安全域までビームソードを投げて回復させる、ですよね? 探偵さんはライフゲージの減り具合で攻撃パターンの検証をしてほしい。生産組は一段落したらこっちに合流すると言っているし」


「まぁここじゃ僕の役割としてはそこらが最適か」


「いつも役に立ってますよ」


「初めてお礼を言われた気がするなぁ」


「そうでしたっけ? 普段から感謝し通しですよ」


「ありがたく受け取っておくよ。少年からの感謝の言葉は滅多に聞けるもんじゃないし」



 えぇ、なんですか。

 まるで私が周囲に感謝しない人みたいに言われてる。

 もしかしてそんな目で見られてるの?

 嫌だなぁ、私なんてただの年寄りだよ?


 



 そのあと妻達と合流してビームソードを各10個づつ分配。

 回復は一番近い人が投げ込み、探偵さんを除く他5人で攻撃に回る。そこで発見した情報はこんな感じだ。



 100%……近接攻撃

  80%……海流攻撃

  50%……中近距離3回攻撃

  30%……遠中近距離5回攻撃

  10%……バリアモード(戻り草で解除可)



 0%は言うまでもなく勝利である。

 それで実際戦ってみた感想は、「種が明かされれば雑魚だったね」だ。

 ひどい言われ様である。

 間違いなく強敵だったはずなのにこの扱い。


 レムリアの民ほどの理不尽さがないのはある意味で救いだった。

 ワンチャン、レムリアの民にも採掘チャンスがあったかもしれないが……歓迎ムードの彼らにツルハシを打ち込むのは気が引けた。


 アトランティスの民には良いのかって?

 キルされたお返しだよ。

 あんなに友好的に接したのに攻撃して来たんだから。

 そうこうしてるうちにアトランティスの民専用バトルフィールドは解除され、新しいフィールドが形成される。



「さて、はじめての三戦目ですね」


「ムーの民がどう出てくるかですが」


「確か全盛期でしたっけ?」


「なんかフィールド広くありません?」


「それにやけに暑いです。マグマフィールドほどじゃないですけど……」


「何か音が聞こえない? それもたくさん」



 地平線の向こう側、こちらに向けて地平線の向こうから砂埃が立ち上がっている。



「ねぇ、もしかしてあの地平線に見える全部が敵とかないよね?」


「ははは、まっさかぁ……」



 思わず乾いた笑いが出る。

 何せライフゲージの横に×2000と書かれていたのだ。



「龍神の民もいるし、見たこともない種族も率いているよ?」


「これ……全盛期どころか軍隊規模じゃないの?」


「勝たせる気ないでしょ、これ。多勢に無勢だ!」


「戦いは数ですよ、兄貴! を地で行ってますね!」



 その日、私達は何故ムーの民がレムリアの民やアトランティスの民に恐れられてるかを思い知る。


 単体で強い龍神の民の他に、ケンタウロスの様な弓の名手。他にも獣人の祖の様な二足歩行する獣達の群勢に圧倒されてそのまま踏み潰された。


 その上でムーの民は5体いた。

 あんなに広いフィールドで狭く感じるほどの威圧を誇り、その隙間を縫うように縦横無尽に獣人が暴れ回るフィールドは地獄か何かの様相を呈していた。


 

 一度リアイアしようと全員可決でログアウトを選択し、また集まる。

 今回は動画を撮って編集しようと言う試みだ。

 どの部分をNGにするかで揉めた。


 それを発信したあと、家族……主に娘達から大きな反応があった。



『お父さん、配信見たよー』



 最初に反応をくれたのは末娘のパープルだった。



『オクトさんがアトランティス鋼について詳しく知りたいとうるさいくらいよ』


『残念だが勝ち越さないと素材は持って帰れないんだ。連戦だから途中退場はできなくてね。ビームソードもその縛りを受けているよ』


『そうなのね。でもツルハシで攻撃してるのには笑っちゃった』



 そう、結局全部そのまま載せて配信した。

 一部レムリアの民のシーンはカットを入れたけど、それ以外は全部ありのままだ。



『私はレムリアの民と友好的になってしまったので攻撃されないが、もしレムリアの民へ採掘の挑戦をするなら協力するよ』


『あー、どうだろ。そこまでして欲しいかと言われればそうでもないかも』



 パープルは自分に正直だからなぁ。

 リスクが高くなるほど相場が上がると判断しているのだろう。

 それを入手した先を考えたのだろう。



『父さん、また無茶してる』



 次に次女のフィール。



『やだなぁ、やれる事をやってるだけだよ』


『だからって普通は人相手に採掘はしないでしょ』


『それ、母さんにも言われたなぁ』


『母さんが居て引き止めないのはつまり、それが有効打だったわけだ』


『それ以前に私たちの行動は全てダメで元々だからね。次に活かせればそれでOKなんだよ。そもそも私達はそこまで戦闘が得意ではないし』


『それ、姉さんの前で言わない方がいいわよ。姉さん完璧主義だから』


『実際に戦ってみればわかるけど、アトランティス人は運ゲーだよ?』


『レムリア人よりは救いがあっても、よ。あの速さでバリアの構成見抜けるのは多分父さん達ぐらいよ。凄いのね、父さんの友達も』


『私は何もしてないけどね。本当に凄いのは彼らなんだよ。私がクランマスターだからって矢面に立たされてるだけなのさ。本当はもっと目立っててもおかしくない粒揃いなメンバーなはずなんだ』


『だって父さん一番目立つもの。だからクラメンの居心地がいいのかもね。ね、父さん? まだ枠は余ってる?』


『なんの枠かな?』


『傘下クランの枠』


『ああ、シェリルが勝手に入って来たぐらいで他はさっぱりだ。そもそも募集自体してないからね』


『そう、ならウチも入るから』


『どうぞどうぞ。小さいクランなのに好きだね、君たちも』


『今はまだ小さいだけよ、すぐに大きくなるわ。それとお気に入り登録200万人達成おめでとう!』



 早くない?

 まだ配信二回目だよ?



『配信てすぐに人気でるんだねぇ』


『それだけ父さん達が物珍しいのよ。普通はもっとコツコツ積み上げるものなんだけどね。それと現状父さん達以外そこに到達できてないと言うのもあるわ』


『ならシェリル達も配信して公開したら私と同じぐらい行くんじゃないか? 彼女は有名人なのだろう?』


『既にしてるわ。でも多くて50万人よ。父さんほどの人気はないわ。それに姉さん達の動きが意味わからなすぎて目で追うのがやっとなの。それに比べて父さん達は自分でもやれそうだから多くの視聴者から人気があるのよ』


『へぇ』



 褒められてるのか、貶されてるのかどちらともわからないが前者と受け取っておこう。

 こうして私達の攻略は中盤に差し掛かる。

 あとはムー→アトランティス→レムリアの順番で出るのをお祈りするだけだ。

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