第44話 八の試練/敵意 Ⅸ


 イベントの甲斐あって、だいたい情報は絞れた。

 龍神族=ムー人ではないが近からず遠からず。


 そもそも生き物としての系統が明らかに違う。

 レムリアの映像で見たムー人は頭にツノはつけてなかったし、多分使役種族の一つだったのだろうと言う憶測は面白いと思った。

 後からポンポンポイントあげないでください!とカネミツ君に怒られたけど情報の価値は私が判断するよと事前に言ってあるのにひどいんだ。確かに振り分けは向こうにお願いしたけどね。


 後こうもいっていたかな?

 振り分けられる幅が狭すぎるとも。

 10~50~100~500。

 たったの4つしかない。


 こういうのはあまり高く設定しすぎてもダメな気がするからね。

 それとこれは私の履歴証明のお披露目の機会でもある。

 ちょっと頑張ればみんなにも勝ち取ることができるチャンスを分かち合えるのはだいたい10ポイントに入ってる。


 50ポイントはシークレットクエストの入り口。あとは称号クエストの報酬など、知ってる限りのネタバレを含んだ。これはクリア出来る人が限られてるこそのネタバレだ。報酬を知って、やる気を出してくれれば良しと言うものだ。


 100ポイントはシークレットクエストの結果、あるいはそれに準じた報酬。ダグラスさんのところへの一日見学会や、うちの妻やランダさんとのお料理研修会、あとは残念賞に飛空艇の優先購入権なども入れたよ。

 これはカネミツ君も困ってたな。


 そして500ポイントは私の所感を込めた手記を捧げた。

 ファストリア防衛戦のスタート~終わりまで。

 妖精との邂逅~妖精の国発見まで。

 天空ルート発見~赤の禁忌開拓まで。

 そして飛空艇開発の苦労話。

 あとは取り敢えず気になったら調べる癖をつける、そしてその結果得られた情報を並べた。


 一見してフレーバー要素の入れないエリアも用途がある。それを諦めて欲しくないと、他で手に入る情報とかもまとめた。

 500ポイントの中のハズレ枠だけど、10ポイントの情報が所感込みでそれなりに入っているからハズレとも言い難いかな?


 ただ、検証班ほど上手くまとめられてる自信がないのでそこは向き不向きもあるだろうけど、それよりも……



「何やってるの、スズキさん。浜に打ち上げられた魚のフリして」



 目の前で床に転がってる魚人プレイヤーに困惑していた。

 ビチビチと揺れて、活きの良さをアピールしている。



「あ、おかえりなさいハヤテさん。実は今死んだふりからスキルが派生しないか検証中でして。そのまま踏んで貰えませんか?」


「え、やだよ」


「そこをなんとか」



 今の私は重力操作を切って0になっている。

 だから足を乗せても彼女に体重はかからない。

 それはそれとして、絵面は非常に悪い。

 これが頼まれたものだとしても、クラン内での私の立ち位置は非常に悪くなってしまうだろう。



「誰にそんなデマ吹聴されたんですか?」

 

「実は地下に行った日、死んだふりのスキルが生えたんです」


「え、ああ……おめでとう、って言っていいのかなそれ?」


「実はこのスキル、仮死状態で侵入禁止エリアを乗り越えられると言うもので、生存系スキルから生えたんです。あのあと連続して地下に突っ込んだら無事ゲットできましてね。まぁ、仮死状態から復帰する方法が無いので、死んだふり中に何かアクションあれば生えるかなって」


「うん、まぁそういう検証は大事だよ。でも誰がくるかわからないクランハウスの通路でやることじゃないよね? 危うく踏み潰すところだったよ?」


「実は半分それ狙いでした」



 だろうねそう思ったよ。

 そのあと彼女は動けない体を揺らし続けていた。

 どうにも魚としての機能はあるものの、魚人用の手足が一切使えなくなるスキルらしい。それ死んだフリじゃなくて、

魚のフリじゃないの?



「風操作★や水操作★で身体浮かして動けばいいじゃない。スズキさんも出来るでしょ?」


「おお! その手があった」



 本当に気づかなかったのかな?

 ふよふよと上昇気流に吹かれて浮くスズキさん。

 でもどこか目は死んでる。



「その状態で動かないのって手足だけなんですか?」


「どうでしょう、なにぶんスキルが生えたの今日なので」


「ああ、試してみたはいいけど急に何もできなくなって困惑していたと?」


「あとワンチャン新しいスキル生えないかなって」


「逞しいですね」


「それが取り柄なので」



 口をパクパクして気概を見せてくるけど、目は死んでるんだよなぁ。

 そんなスズキさんを引き連れてクラン用の応接間へとやってくると既に集まっていたメンバーへと挨拶をしていく。

 その内の二人がおかしな賭け事をしていたのだけが気になった。



「おや、スズキ君は無傷だ。賭けは僕の勝ちだねサブマスター」


「ええ、マスターならクラメンのお願いは断らないと思ったのに!」


「朝からなんの賭け事をしてるんですか」


「どうもスズちゃんのお願いを聞くかどうかで賭けをしていたみたいよ?」



 妻に言われて表情を顰める。君達知っててスズキさんをスルーしてたの?



「僕がお構いなくって言ったんです。ただし一切動けなかったんですけどねー」



 ハハハハと笑ってみせるスズキさんに、笑い事じゃないでしょと私は眉間の皺を揉んだ。

 そこへ孫達が久しぶりに顔をみせる。



「お爺ちゃーん!」


「おお、マリン。こっちでは久しぶりだな。元気だったか?」


「家で毎日あってるんでしょ? 元気も何も無いじゃない」


「お婆ちゃんもおはよう!」


「はい、おはよう。マリンは元気でいいわね。内のところは親に似て大人しいと言うか、何考えてるのかわからないのよね。シェリルに似て自己完結型だから、結果しか言わないのよ。もう少し相談してくれてもいいのにね」


「そういえばそっちの子達はこのゲーム来てるの?」


「来てないわ。お母さんと張り合うだけ無駄だって違うゲームで遊んでるわよ。仲良く、と言うよりはいかに効率よくトップを取れるかが勝利への鍵だって言って、お婆ちゃん全然話についていけないわ」



 そっちはそっちで苦労してるんだ。



「マリンはここ数日ゲームでの活躍はどうだ?」


「実は、最近ルリちゃんと一緒に遊ぶこと多くなったんだ!」


「へぇ、フィールのところの末っ子だね。どうだ、仲良く遊べてるか?」


「うん、私じゃ気づけないところもバンバン気づいてくれて、すっごい頼りになる。ユーノも負けてられないって気合い入れてるよ。スキルも用途も違うのに変なのーって」


「ユーノ君なりに考えがあるんだよ」


「どちらがマリン君の横にいるのかがふさわしいかで争ってる感じかな?」


「えー、そういうのって男女でやるものじゃないの?」


「別に恋人になりたいってわけじゃなくて、友情の延長戦だね。自分が一番の友達じゃなきゃ我慢できないっていうのかな?」


「そうなんだ。仲良くしてくれればそれが一番いいな」


「心ではそう思ってても、感情的になっちゃう人もいるんだよ。ユーノ君がそうだとは限らないけどね」


「うーん、よくわかんない」



 孫娘はわからないことばかりの世の中に頭を悩まされていた。

 読解力が低い訳ではない。きっと頭の中で割り切れてないだけだ。けれどまだ13歳。これからいろんなことを覚えていく年齢だ。焦らず、自分で最善を見つけていきなさい。



「お、揃ってるね?」



 最後のメンバーであるランダさんが応接室に入ってくる。



「良し、それじゃあ揃ったし行こうか」


「行ってらっしゃい! お土産話待ってるね?」


「そうだなぁ、ブログを楽しみにしていてくれ」


「分かった!」



 こういう物分かりだけは良いんだよなぁ。




 ◇



 そして私達は再びアトランティス人の彼と対峙する。



■■■■■■■答えは出たかな?」



 まるで質問内容を知っているかの態度に、私達の行動は手のひらの上かと思い知る。



「もしかしてあなたは──────ですか?」


■■■■■■■■ああ、その通りだ



 私の質問にアトランティス人の彼は満足そうに椅子に体重をかけ、私たちに次の道を示してくれた。


 薄々勘づいていた。

 もしかしたらというのもあった。

 彼がもし■■・・だったというなら過激派のアトランティス人が敗北した結果も、穏健派が暗躍していた理由も、ムー人とレムリア人が争っていた理由も全て説明がつく。


 私は彼の話に耳を傾けながら、それでも最後の鍵を探しに九の試練へと向かうことにした。


 彼のいう答え合わせをする為にも、最後の鍵が必要だと感じたから。

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