第41話 ちょっと寄り道 Ⅳ

 やってきました龍神の郷。

 今回は観光気分とは違い、探索メインで行くつもりだ。

 地脈石を触ってから一切レムリアの器に触らず、来た。

 しかし一度あの利便性を知ると、どうにも頼ってしまいがちだ。手にして間もない物だけど、こうも環境が厳しいところだとついつい手が伸びる。何ともいやらしいギミックだね、此処は。



「しかし此処は何もないね。集落あり、龍神族は暮らせど遺跡は在らず。何かを信仰してたりはしないのかな?」


「精霊の契りを大切にしてるみたいですし、どざえもん君も、契った回数で聞ける話が変わると聞いた。けれど同じ属性で揃えないと話が進行しないことから、人の手を頼って全員で総当たり戦やってる様だよ。誰がいた時に話が進んだかをメモしておいて、それで信仰チャートを組んでるようだ。適当に契ると痛い目見るとも言っている」


「いつ聞いたんですか、それ」



 探偵さんがしたり顔で答える。



「うちのクランの部報にあるよ。クランマスターなのに目を通してないの?」


「えー、教えてくださいよそういう情報! 私のところに来てませんよ!?」


「僕が独断で止めてました。この人情報獲得するとそればっかりに構って天空ルート投げ捨てますからね。シークレットクエスト中だろうと気になったら一直線ですよ。僕より犬じゃないかと思う時ありますよ。今からでもキャラメイクし直しませんか? 歓迎しますよ」



 嫌に決まってるでしょ! どうせなったらなったで獣人の先輩としてマウント取るに決まってるんだ。そうに違いない!



「ははは、それが賢明ですね。少年は探索力は凄いけど場当たり的すぎる」


「はいはい、悪いのは全部私ですよ」



 口喧嘩を始めると、大抵私の所為になる。

 こういう時、社交辞令でもなんでも良いから味方についてくれるスズキさんの存在がないのが辛い。

 ちなみにパーティーチャットでログを読んでるはずなのに返事はない。クランルームで誰かとお話し中なのかな?



「ほら、いつまでも馬鹿やってないで行きますよ」



 女性陣に一喝され、私たちは後に続く。



「それにしても熱いね、地下は。天空は寒いくらいだってーのに、こっちは灼熱風呂だよ。流れた汗も一瞬のうちに乾いて溜まったもんじゃない」


「地脈、龍脈と生命エネルギーを回しているからでしょう。そしてこの土地もマグマが固まった物らしいですね。植物の気配一つ見当たらないです」


「水も氷も溶けちまうだろ。摂氏何度だい、此処は。喉が渇いて仕方ないったらありゃしない」


「この環境で調理は厳しいですね。素材は全部炭になってしまうでしょうし、どうやって衣類を残しているのかも気になりますね」


「だね、ますます興味が尽きないよ龍神族は!」



 うちの女性陣は生活スタイルから突き詰めていくタイプだ。

 食事と衣類、それらの成り立ちで私たちの考察を手助けしてくれようとしていてくれるのだ。



 龍神の里レギデデンガ。

 この独特のイントネーションに濁点の多さが、独自の文化体系を匂わせると探偵さんが食いついていた。



「今日はよろしくお願いします」


「うむ。どざえもんと同じ郷のものならば我らの仲間だ。もてなそう」



 取り敢えずは郷に行って郷に従う。

 彼女達巫女は精霊信仰種族ゆえ、首に小さな色のついた石を下げている。


 精霊魔法と呼ばれるものを発現させ、適した環境に作り替えてるらしい。それでもマグマが迫れば転々と移動する遊牧民。

 道理で遺跡が見当たらないと思ったらそういう事か。

 どこかのマグマの海に浸ってるのかもしれないな。


 

 そして精霊の契りには明確なシステムがある。


 まずは同時に契れる属性の数。これは限界がない。

 しかし3段階に至れる契りは3種類まで。

 6段階に至れる契り回数は2種類のみ。

 そして最終段階である9段階は1種類のみらしい。



 シェリルがストーリーチャートの他に精霊の分布図と攻略を続けているのは此処らが肝になっている。


 龍神の民は首から下げた石の色に応じて聞ける内容が違う。

 これはどざえもんさんが纏めた記録にあった。


 

    火

 ↗︎  ↑ ↘︎

水 ← 音 → 風

 ↖︎  ↓ ↙︎

    土


 四属性はこんな感じで得意分野と苦手分野が分かれている。

 反対に音は全ての属性に影響を与えるようだ。


 精霊の巫女と呼ばれる色石を持つ存在は一つの属性を9まで伸ばした人を指す。


 なので得意属性や同属性を伸ばしてる人と会話してる時は調子良く話してくれるが、苦手属性を伸ばしすぎた人が近くにいると急に気分が悪くなったりするらしい。

 逆に音は高ければ高いほど良いというのだからよく分からない。どこに正解があるんだろう?

 あのシェリルでさえ手探りで何も掴めてないあたり、本当に難易度が高いのだろう。情報のすり合わせをしたくとも、肝心のどざえもんさんが居ないのではままならない、か。


 本当に天空と何もかも違うんだなぁ。

 これじゃあ探索どころじゃない。出てきた情報も曖昧で、その情報は概ね大精霊の住処を指し示すらしい。


 つまり契りを交わさない限り大した情報も得られずに堂々巡りだと言われているようなものだ。

 今にして思えばそんな時にムーの話題を振られても彼女には迷惑か。やはりこちらで欲しい情報はこちらで探すしかない。

 



 因みに契りで得られる能力は以下の通り。


 土:視覚強化

 水:妖精誘引

 火:マグマ耐性

 風:スキル威力上昇

 音:聴覚強化


 ◎土精霊の契りは不可視種族が視認できる。


 ◎水精霊の契りは妖精を引っ張り込めるけど、周囲に妖精がいる場所じゃないと使えない。


 ◎火精霊の契りは単純にこのエリアに適応する為のものだ。3契っておくだけでもだいぶ違うと聞いている。


 ◎風精霊の契りは攻撃スキル持ちには有用。


 ◎音精霊の契りは普段聞こえない音、精霊の言葉を聞き取ることができるらしい。

 


 シェリルは土と音を6まで育てたらしいが、これがあるとないとでは戦闘で有利に立てないと言っていたな。

 だが9に至るまでの上級精霊の捜索が難航しているそうだ。

 何度でも戦うことができる精霊だけど、契りを重ねられる回数は1度のみ。

 

 1~3までは下級精霊でも上がるが、4~6は一度でも上級精霊を倒していることが必要で、7~9は上級精霊以外では契りを重ねる事はできないことが判明している。

 序盤に上級精霊と相対した私は非常にもったいない成長をしていると指摘されたものだ。


 しかしそれを勿体無いだなんて思わない。そのお陰で相手の攻撃をよく見ることができる視覚強化を6まで鍛えられた。

 みんなは敢えて2で止めている。

 ただでさえ3に上げる能力は三つしか選べないというのもあって、慎重に選んでいた。

 私はマグマ耐性と聴覚強化を5段階まで伸ばしたよ。


 誰か妖精誘引を伸ばしてくれないかなーと思っていたら、探偵さんがこちらの意図を汲んで取ってくれた。


 女性陣は火、風、土を5段階まで上げていた。

 見えなきゃそもそも戦闘にならないからね。

 それと下級精霊の攻撃は上級精霊に比べて色々と優しい。

 空を自由に飛べると難易度はガクッと下がる。

 ただし天空の試練を進めすぎると、もれなく敵認定されるので注意が必要だが。


 精霊バトルは基本的に時間耐久型。

 私のようなサポーターはショートワープを使って回避が可能だが、事前に試練でミラージュ★を切らしていたジキンさんと探偵さんが脱落したりとそれなりの苦戦を強いられた。


 ちなみに人数を減らした方が私は楽だった。

 精霊の攻撃が見える上に、私はショートワープが使えます。

 そして女性陣に『移送』で重力を0にして怒られながら風操作で身体を引っ張って無理やり回避させてました。


 不思議と私は狙われなかったんですが……これってやっぱりレムリアの器がβになったから? 

 よく分からないけど、その日は可能な限り契りを交わしてログアウトした。


 翌日ログインした時に、火の契りを5まで育てた甲斐があり、女性陣への負担が減ったので前回のようなポカもせずに私達は各種分野を6段階まで進めた。


 そしていよいよ巫女と対峙する。今回の巫女は音の巫女を選択しました。

 さて、どんなお言葉が出てくるのやら、今から楽しみです。

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