第30話 八の試練/敵意 Ⅲ

 さて、今回のダンジョンの形式は持久戦という事でメンバーは認識しているが、ここまで来てそんな単純なトリックを仕掛けてくるだろうかと思う私もいる。


 ダンジョンという形式上、ゴールがあって、何かを隠しているのが設定の一つ。しかしここはそもそもなんの課題が出されている? 七の試練と同様に当て嵌めればアトランティスに連なる仕掛けが施されていると言っても過言ではない。

 ただ前に進むだけでは堂々巡りにされる気がしないでもない。



「みんな、気付かぬうちに敵の術中に嵌ってないかい?」



 ジキンさんがまた変なこと言い出しましたよこの人、と言いたげな目を向けてきた。目は口ほどに物を言うというが、この人の場合はそれが特に顕著だ。



「少年はどうしてそう思った?」



 探偵さんが興味深そうに訪ねてきた。



「だってここは試練の場だ。何かを試されている。そう思うのは当たり前のことじゃないですか」


「なるほど。しかしそれらが複数からの攻撃を凌ぐのが目的としたらどうだ? 辻褄が合うだろう?」



 探偵さんはあくまでも敵を撃破、或いはやり過ごす事がこの試練の課題だと信じて疑わない。そこで第三者が口を出す。妻だ。



「あなたは何を気が付いてしまったのですか?」



 相変わらず察しがいい。ここまで連戦連勝できているからこそ少し心に余裕ができているのかも知れないね。



「大した事じゃないよ。敵を倒して乗り越えてハイ、おしまいじゃあまりに味気ない。君達は知らないだろうけど、私達はそれはもう製作者の意地の悪い試練を乗り越えてきた。こんな短調な試練は欠伸が出る。数が増えて対処すればいい試練なんて別に天空に登ってきてまでやる事でもないだろう?」


「それは確かにそうですが、あまりにも身も蓋もない話じゃありませんか?」


「アキちゃん、この人はそういう人です。昔からずっと乗り越えた試練の先はより難易度が高くないと納得ができない人なんだ。ボーナスステージだという考えはないんだよ」



 そういう人を君は選んだのは君だぞ? と言外の言葉を匂わせる探偵さん。妻は呆れ返ったように目を細め、そうでしたと肩を竦めた。

 そしてジキンさんが確かに短調ですねとようやく私の言葉に賛同し始める。

 ただこれを単調と言ってしまえるのは単にレムリアの器ありきでの思考だ。正直別のルートに行ってればこの難易度はそれなりに骨が折れるだろう。

 ダンジョンそのものがエネミーとか補給路が立たれた籠城のようなものだ。



「じゃあ入り口まで戻ってみますか? 秋風さん、進路をメモしてましたよね?」



 オートマッピング機能はあまり当てにしていない。

 何せここは意志のあるダンジョンだ。入り口が封鎖されることくらいはしでかしてきそうではある。

 ある意味で腹の中。キルされる前提で動いているのでメモは必須だった。

 個人的に趣味で作った方位磁石を元に、メモ取りをしていた探偵さんは進路を逆に取って入り口に戻る。

 しかし……



「おかしいな、こんなところに壁なんてなかったはずだ」



 案の定、このトラップは生きていると確証が取れた。



「早速霊装の出番ですね。ガリガリっと削り出しちゃってください」


「少年、霊装の使用限界タイムはものによって違うんだよ? スクエアスローは活動限界を終えてスリープ中だ。こういう意味でも扱いにくとされてるんだよ」



 えー、そんなの知らないよ。

 確かにものすごい力がいつでも使い放題ではバランスブレイクもいいところだ。



「まぁ、普通に採掘するさ。アキちゃん、ランダさんお力添えをお願いします」



 探偵さんはレムリアの器を持ち上げて、片目でウインクした。

 そんな所まで少年探偵アキカゼらしく振る舞わなくてもいいのに。



 さて、あらかた採掘を終えるとやはり探偵さんのメモが記されていた通り、奥には道が続いていた。

 しかし発見はそれだけではない。

 それは新たな採掘資源との出会いだった。



[天鋼シルファー]


 みたことも聞いたこともない未知の鉱石。

 ウチの筆頭採掘師で錬金術師でもあるランダさん曰く、難易度が???で固定されている。

 また七の試練と同様に必要になるかも知れないと周囲の壁を採掘するも、残念なことに見つからなかった。

 そこでジキンさんが予測を立てる。



「もしかして、本来の道を塞ぐための真新しい壁にしかその鉱石が使われてないんじゃないの?」



 つまり破壊できる壁限定である、と憶測を述べる。

 この人はなんだかんだで直感が鋭い。

 動物特有の嗅覚で、普通の壁とは匂いが違うと言い出してきた時は引いたほどである。



「よし、探偵さん。道案内頼むよ?」

「任せたまえ!」



 そういうのは得意分野だと胸を張りながら答えた。

 さて、この鉱石の採掘が吉と出るか凶と出るか。

 探偵さんはメモを更新しながら、ジキンさんに壁の匂いを覚えてもらいながら指示出しをしていた。


 まるで扱いが盲導犬か何かのようだが、その種族を選んだのはジキンさんの責任なので見て見ぬフリをした。

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