第13話 影の大地 Ⅰ

 娘の件が片付き、赤の禁忌に上ったところでリーガル氏から連絡を貰った。

 何やら進展があったそうだ。そこで私は単独で調査に協力しに行くことに。本当はいつものメンツで赴きたかったのだけど、向こう側からの要求で一人で来てくださいとの事。

 基本的に一本通行で情報以外の出土品もないのでログイン権を浪費するのは避けたいとの事だった。

 私は出かけてくることをメンバーに伝え、四の試練から直接降り立った。


 フレンド一覧から直接コールをかけて合流する。

 リーガル氏は常に周囲に目を配りながら私をある場所へと連れて行ってくれた。その場所とは遺跡だ。

 どうも赤の禁忌と似たようなものであり、それだけで古代関連だとわかった。



「見てもらいたいのはこれだ」


「古代文字か。しかし途切れている様だが」


「ああ、ただある程度解析が進めばアキカゼさんに頼らずとも翻訳は可能だと思う。もちろんそれらの情報は解読し次第クランの名前を出して公開していくつもりだ」


「ほう、その為の知恵を私が貸せばいいわけだ。お安い御用だよ。ずっと頼りきりでは私がログイン出来ない時に困るだろうからね」


「そうならない為にうちのクランではクラメンや傘下クランが閲覧できるデータベースを所有している。書き込み権限があるのは俺やサブマスターぐらいだが。情報提供などは誰でも送れる様になっている。アキカゼさんにはそこへ画像データを送って欲しいんだ。もちろん、ここ関連の情報に限るが」


「へぇ、そんなのあるんだ」


「ランクをAAまで上げたマスターならいつでも開設できるぞ」


「ランクCの私には遠い道のりだな」


「人が増えることによって連絡系統も強化されていくのさ。アキカゼさんのところが真似をする必要はない様に思うが」


「それはその通りだ。ただ、手に入れたい人が増えたら、同意を取った上で増やすつもりではいるがね」



 リーガル氏はどんな人材が増えるか楽しみにしていると会話を切り、私は案内された壁画のデータを指定された画像添付場所に送る作業を続けた。



「戦闘態勢! 大型4 小型6 来ます!」


「周囲を警戒! 連携を心がけ消耗を最小限に抑えろ!」


『ハッ』



 遺跡内ではあちこちから反響する声が上がる。

 戦闘に入る描写は相変わらずされないが、索敵班が優秀なのだろう、呼びかけを徹底して戦闘に当たるメンバーの動きも金狼氏並みに洗練されていた。これが上位クランの統率力か。

 リーガル氏はどこかとコールしながら額に汗を流している。

 どうしたんだろうか?



「何かありました?」


「どうやらこちらに向けてエネミーが集結しつつある」


「今までこんな事は?」


「初めてだ」


「つまり私の存在が、この遺跡となんらかの関わりがあると」


「そう考えるのが自然だな。このまま戦闘に入るがアキカゼさんは別に攻撃に参加しなくても構わない」


「ありがとうございます。どのみち私ではそちらの連携についていけそうもないんで助かります」


「適材適所と言うやつだ。アキカゼさんの仕事は戦闘ではなく解析だからな。そのほかのことはこちらに任せてもらいたい」



 むしろ解析の方が手間取ってて、頼みにきたと言う感じだものね。ならば任された仕事をこなすのが彼のためか。



「それは助かるよ。そして足場のない天井付近もこちらで調査しよう」


「そうしてくれたら助かる。しかし天井付近は影が濃い。今は常に発光し続ける魔導ランタンがあるから影響は少ないが、そちらの方はこちらの領域から外れてしまう。それでも構わないか?」


「光を出すのなら丁度いいスキルを手に入れてますので平気です」


「称号スキルか」


「ええ、便利ですよ?」


「らしいな」



 リーガル氏は決して欲しいとはねだらない。

 必要だったら取りに行く程度の考えしかないのだろう。

 上位クランのマスターともなると個人の能力よりも総合的にクランに必要かそうでないかを瞬時に判別するのが必須スキルになっているようだね。

 シェリルほど不条理って感じではないけど、通ずるものがあるのだろうね。



「では解析の方、任せても平気だろうか? 一応参加しているメンバーにはすぐに対応できる様に通達しておくが」


「分かりました私も無理はしない主義ですので、そこは任せてくださいとしか言いようがありませんが」


「いや、頼りにしているさ」



 振り返り様に剣を横に引く様に払った。

 影が伸びる様にして消失する。

 気配なんてなかったのによくわかったね。

 そして一撃で処理するのは流石としか言いようがない。


 

「さて、期待されてるみたいだし頑張りますかね」



 トン、と軽く遺跡の足場を蹴り上げる。

 重力無視で体重が0になっている体は浮き上がり、陽光操作で昼間の様な明るさが遺跡内の通路を照らす。



「少し眩しすぎたか。メンバーさんが何事だとこちらを見て来ているね」



 重力操作と同じ感覚でピントを調整し、程よい光源を作り出す。不意に足元に感触があった。

 偶然影踏みで踏んでいたみたいだ。



「なんだろうかこれは?」



 宙に浮く四角い薄ぼんやりとした影は、そこに佇む様に存在していた。

 薄暗い元の光源では見えなかったことだろう。

 手元で光源を調整し、影の箱を写してリーガル氏のデータベースへと投下する。



「おっと、忘れるところだった」



 一度普通の状態で写した画像の他に、ナビゲートフェアリーを搭載した状態で再度撮影。

 するとその場所には誘蛾灯に誘われた虫の如くフェアリーの影がビッシリと写り込んでいた。



「古代関連じゃなく、妖精関連だったか」



 先が思いやられるな。

 どこかに謎を解くヒントがあれば良いが。

 どこか問題をリーガル氏のところへ丸投げしつつ、私は私で次の場所へと動き出した。

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