第8話 六の試練/極光 Ⅲ

 ようやく次のフロアへの足掛かりを見つけたと思ったら、それは足元の氷の真下にあった。

 暑い層に閉ざされた底に階段を見つけたのである。

 一応一面をプール状にして暑さは凌げているが、これを解除して太陽の熱でと足すとなった場合、私達はここで全員がリタイアすることを余儀なくさせるだろう



「どうする?」


「一度二手に分かれて水操作をグループ分けしましょう。そして降り階段のところにピンポイントで穴を開けるんです」


「どうやって?」


「まぁ、見てて。スズキ君はこっち来て」


「はーい」



 つい水中で泳いでしまいそうになるのをグッと堪えてスズキさんはすり足で探偵さんのところまで行く。



「サブマスターは今のまま制御を続けててください」


「分かりました」



 制御も何も、ただ上から水を落としてるだけでなんの操作もしてないけどねこの人。



「何か言いたげですね?」


「いえ、別に。そら、探偵さんが動くぞ」



 探偵さんは氷作成で私達側と向こう側を隔てる壁を作り、ついでに再度に構築した壁の上部分を削って側面に流した。

 お湯になりかけた水が流れ落ち、ゆるく作った氷の壁に穴が開く。



「さて、ここからです。少年は氷作成で手前に氷の壁を作ってくれ」



 なるほど。初めからジキンさんの制御などあてにしてないというわけか。しかし見せ場を用意しておかないと後でごねる。

 それを見越して制御とは名ばかりの仕事を与えていた訳だ。



「任された」



 私と探偵さんの氷作成で出来上がった壁が太陽光に直接晒され、みるみる溶けていく。

 が、こちらのプールから流れた水に触れた途端、再生が始まっていく。

 みるみる元の状態に戻り、振り出しに戻った。



「これ、明らかに熱量が足りませんよね」



 全員がそうだねと頷く。



「だからってこれ以上高度を上げると全員揃って茹で上がってしまうよ?」


「僕、まだ煮魚になりたくないです」


「私だって嫌だよ。それじゃあここは五の試練のおさらいといきましょう」


「五の試練? あ……氷のレンズか!」



 探偵さんが少し考えて、すぐにピンと来たようだ。

 手を叩いて納得してくれた。



「そうです。ただし一つじゃ不足かもしれないので他の皆さんも協力してください」



 全員を見廻し、お手本を見せてレンズを形成する。

 ただの氷の塊を作るだけではなく、緩やかな曲線を作る必要がある。細やかな仕事だ。

 凝り性の探偵さんはともかく、上手く作れるかの懸念対象は二人いた。

 スズキさんとジキンさんである。



「難しいですね」


「ふふん、こういうのは経験則がものを言うんですよ」


「あ、じぃじ上手ー」


「ふふん、そうでしょう?」



 これまた意外に一番綺麗にレンズを仕上げたのはジキンさんだった。スズキさんの皮肉に対しても得意気にしている。

 見た目の割にこの人意外と器用なんですよね。

 見た目パワーファイターなのに。

 


「なんですか、その不服そうな顔は」


「いや、別に? 何も言ってないじゃないですか」


「僕はこういう細かい仕事、結構好きですよ?」


「そういえばパズルとか得意でしたもんね。ではサブマスターには栄誉ある一番大きいレンズを任せます。二番目はスズキさん。私は三番目私。探偵さんは最も重要な一番最後のを任せるよ」


「いや、二番目も三番目も重要だからね? 手を抜いて良い理由にはならないから! ねぇ、聞いてる? 少年、おーい!」



 探偵さんの言葉をまるっと無視して私はスズキさんとあーだこーだ言いながらそれなりのものを水中内で作り上げた。

 正直外に出して作ったら一瞬で溶けそうな気配すらあったからだ。



「いくよ、一斉に……それ!」



 いちにのさんで水の中からレンズを階段に向けて置く。

 氷の壁と壁の間で固定して……



「溶けた!」



 喜びにを上げる声を上げる私達に、



「まだだ!」



 探偵さんが水操作で再生しようとする氷の壁を覆う様にして水操作を滑らせた。



「詰めが甘いよ、諸君?」


「四の試練での経験が行きましたね、秋風さん」


「ああ、あの再生する壁ですね」


「あのテーマパークみたいな仕掛けのトラップを乗り越えてなければここは乗り越えられないと……」


「偶然かも知れませんが、ここはある意味で今までの集大成な試練かも知れません」


「だろうね。そりゃ初見で来れば詰む訳だよ。ここは一〜五の試練のクリア者、称号取得者でしか乗り越えられない仕組みであると考えるべきだ。一筋縄でいかない訳だ」


「ここから先は称号持ってる前提の試練しかないと思って良いかも知れませんね」


「ああ、だからこそ、ここのクリア報酬は必須だ。是非持ち帰るぞ!」


「ああ!」「はい」「ですね」



 4つ目のフロアは人が一人乗れる氷の足場が特定の流れによって流れていく場所だった。

 私達が階段を下り切った瞬間に氷が再度塞がるのを感じた。

 もう後戻りはできないということか。



「一旦休憩を入れるとして、ここはどうしますか? 見る限りでは氷の足場は太陽光で完全に溶けてしまうように見えますが」


「四人一緒に行動しましょう」


「やはりそれが最善ですか」


「当たり前じゃないですか。ここでバラバラになったら意味がない。それに……」


「それに?」


「この四人ならあらゆる難関も乗り越えられるって信じてますから」



 ジキンさんがどの口がそんな事を言うんだかと肩を竦めた。

 フロアとフロアをつなぐ通路は唯一のセーフティエリアとして稼働している。

 しかし私達が通り過ぎれば溶けてなくなる不思議なつくりをしていた。



「よし、まずは足場をくっつけるところから始めようか」



 体感で満腹状態、しっかり休憩した私達は流れている足場を水操作でくっつけ、氷作成で凝固させて大きめなイカダを作った。

 ここから先のアトラクションはこの足場が私達の運命を左右する。氷作成で作ったオールを手に、私達の航海が始まった。

 

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