第62話 五の試練/浮遊 Ⅰ


 負けられない相手ができた。それだけで不思議と気分が高揚し、思考はクールダウンする。メンバーのやる気も十分だ。さて、私達は攻略するぞと身を乗り出す。

 眼前には氷の宮殿。しかし真反対に照りつける太陽があるため、光が乱反射して所々に蜃気楼が乱立する!

 その上でエネミーとの戦闘も避けて通れない。

 今までの総力を持ってしても圧倒的に速度が足りなかった。


「この際戦闘は捨てていくか」


「それもそうですけど、なまじ頑丈なこの足場の違和感がずっと拭えないままだ。今まで足場なんてどこにも無かったよね?」



 探偵さんは速度を早める提案を繰り出し、ジキンさんは全く別の観点からこのフィールドの仕組みをとらえた。



「大体にして氷だから溶けるのであって、水ならば太陽光で溶けないはずなんです」


「まぁ、そうだね。蒸発するかどうかはともかく、熱湯になるぐらいだ」


「じゃあ僕たちでフィールドの氷を水操作でカバーしたらどうです?」



 ジキンさんは逆転の発想ですと、論点を根本的に捉えた発言をした。氷が溶ける前にゴールを目指す、から氷を溶かさないようにするにはどうすればいいのかを考えたのだ。

 けれどそれだと根本的な解決にはならない。



「一度試練に挑む前に何処にゴールがあるか調べる必要があると思います。今なら全員が風操作と水操作の使い手な訳ですから」


「それ、私と距離が離れると全員落下するやつですよ? 尚、落ちたら距離を考えても即死ですよ。だからこうやってくっついているのに」


「いつまでもおんぶに抱っこってわけにもいかないんですよね、こっちも」


「と言うと?」


「新しいスキルが生えました。もうマスターの輸送の恩恵に縋らなくとも僕は空を飛べますし、水に浮きます」


「いつの間に?」


「やはり称号の恩恵が大きかった。すでに空を自在に飛べたマスターにとっては雀の涙でしたでしょうが、それが出来ない僕たちにはそっちのスキルが生えやすい恩恵があったんです」


「ちなみに僕は遊泳系だ。水操作があれば生きていけるよ」


「みんな……」



 ジキンさんの報告に驚いたが、探偵さんの報告にも驚きを隠せない。



「ありがとう。心の何処かで無理やり連れてきてしまった手前、最後までついていてやらなければダメだと思っていた。けれど違うんだね。君たちは独自の進化を果たした」


「あ、いや、僕はまだ……」



 スズキさんが申し訳なさそうにシュンと肩を落とした。

 あなたは最初から泳げるじゃないですか。それに人間や獣人よりずっと体重が軽い。風にのれなくとも水操作で泳いで見せた。だから心配はしていませんよ。



「なら一度輸送を切ります。ここはちょうど足場がある。どうなるかはまだわかりません。空の試練で全員に重力をかけることは今までご法度でしたから」



 全員が私の言葉に頷き、ゴクリと喉を鳴らした。

 

 輸送のスキルを解いた。解いたのに何も起きない。フィールドの足場は未だ硬いままである。



「どうなりました?」


「スキルは解いたよ。けれど恐ろしいくらいに何も起きないね」


「いえ、なんか雲がいっぱい上に上がって行ってます」


「えっ?」



 太陽が遠ざかり、分厚い雲がフィールドとの間にどんどんと膨らみ上がる。

 まって、まって! ストップ!

 しかし気持ちの中でどれだけ叫んでも勢いは止まらず、堪らず輸送のスキルで全員の体重をゼロにした。

 ゆっくりとだが、雲が下に降りていく。フィールドが天へと帰っていく。

 分厚い雲の層を抜けると、そこには極光に輝く太陽が私たちを照らした。


 そういうことか……ここは重力を支配したものが次へ進めるんだ。そうと分かれば話は早い。

 もう極光を浴びて半分近くが溶け落ちてしまったが、概ね攻略法は理解した。

 あとは最適解を探るだけだ。


 私達は溶けかけたフィールドごとセブンスフィールの街へ降り立ち、そこそこの注目を浴びながら一路サードウィルへと帰還した。

 すぐさまオクト君へ連絡を取り、迎えに来て欲しいと飛行部の格納庫へ回収作業も兼ねて乗り込む。


 皆が皆、手応えを感じていたのだ。

 私が何も言わずとも、メンバー全員が攻略法を理解していた。

 あとは誰の重さが重要かによる。

 ゼロで上に上がり、三人分の体重で急下降したフィールド。

 それを安定させたらようやく攻略が始まる。

 誰を支え役にするかで攻略難易度がグッと上がる仕様に、誰が囮になっても構わないと全員が意気込んでいた。

 

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