第45話 飛空挺、発進!


 では職人の紹介と行こうかと思ったところでコール音。

 誰かと思って出てみれば、さっき噂していた山本氏であった。

 丁度良い。どんな話か気になるところだけど、会う前提で話を進めてみようか。今までは粗探しを前提に突っぱねていたからね。その度に散々煽りあったからこそ、向こうの技術躍進は著しい。画像を送ってくる度にこちらを驚かせてしようと悪意が乗るんだ。まぁそうなるように仕向けたのは私だけど。

 コールを受け取りながら話を進めていく。

 向こうの要求は『飛行船の完成』一択だった。

 都合四度目の、と付け加えさせて頂くが。



「さて、諸君。丁度良いことに今話題にあげていた職人から連絡が来てね、アポイントメントを取り付けた。一緒に来るかい?」



 一同の目が見開き、同行しても良いのか? と訴えかけてくる。

 良いも何もどうせ紹介しようと思ってたんで丁度良い。

 そう告げたら3人とも乗り気で付き合ってくれた。



 ファイベリオンの噴水で登録し、サードウィルまでワープ。

 その足で工場区へとお邪魔する。

 そこは街の復興に向けて開けた大地に巨大な複数の工場が所狭しと並ぶ場所だった。

 その殆どが趣味を再現することに特化した実用性のないものばかりで、しかしロマンに富んでいる。

 今回は山本氏とのご紹介に預かって来てみたが、個人的に提携したいプレイヤーは結構いたりする。


 それは一旦横に置いといて。



「やぁ、山本氏。完成したって?」


「おうよ! いくらでもダメ出ししやがれってんだ。今回はお前さんを唸らせるために心血注いだからよ! 飛行運転も兼ねて満足させて見せるぜ!」


「ついでにワシも立ち会うことになった。やぁ、ハヤテ君、随分と久しぶりじゃな」


「あぁ、ダグラスさんも居たんですか」


「流石に派遣しておいてその言い草は酷くないか?」


「ははは。なんのことやら」



 ダグラスさんはそれでも気にしてない風に顎髭をさする。

 特に語り合わずとも通じる幼なじみゆえのやり取りだ。



「まぁ、新しい環境に放り込まれて得られた事の方が多かったし、結果オーライじゃ」


「半分以上はこの御仁のおかげだがな?」



 山本氏はクイッと親指をダグラスさんに向けて口角を上げる。

 それを見てダグラスさんも肩を揺らして謙遜する。



「なんのなんの。こちらも良い勉強になった。実際にそれを加工して使うことで出てくる惰弱性も見えた。お互いに知識の出し惜しみなく語れる機会は少ない。良い刺激をもらえたわい」



 彼にとっても良い刺激になってたようで何よりだ。

 さて、後は実際に乗って見るだけだ。

 案内された飛空挺は12人乗り。

 室内には操舵室があり、全部で12の席がある。

 操縦方法は音声入力である程度賄うことができ、ほぼ自動操作だと言う。聞いたことないよ? そんな飛空挺。


 ここだけ技術革命起こしすぎてるんじゃない?

 そんなことは無いとすぐに否定されたが、ここまで大掛かりな乗り物は海を渡る帆船の次くらいだろうと山本氏は胸を張って答えた。

 まったく、自分の成し遂げた事をこれでもかと自慢してくる。

 でもだからと言って辛口評価はやめないんだけどね。

 彼にはここで止まって欲しくないし、満足して欲しくない。

 さらなる飛躍のために私は敢えて心の中を鬼にする。



「まずはお見事と言っておきますか。ええ」



 周囲から「何言ってんだこの人」と言う視線が突き刺さる。

 先ほどから連れてきた三人が本物の飛空挺を見て興奮状態なのに対し、私が勤めて冷静にダメ出しをしたからだ。そのあまりにも上から目線にジキンさんすら引いてるのは気にくわないけど。

 良いんです。今の私は鬼ですからね! どんどん揚げ足取りをして行きますよー。



「あんたの事だからそう言うと思ってたぜ。だがな、目ん玉飛び出るのはこっからだぜ? ダグラスさん、例のシステムを作動させる」


「了解。ハヤテ君、とその他がこれから見るのは他言無用で頼むぞ?」



 しかし一度や二度どころじゃないダメ出しを受けてきた山本氏は打たれ強い。だったら更に驚かしてやると言わんばかりの挑戦的な目を向けてきた。

 ダグラスさんもまた、悪戯っ子の顔で釘を刺す。

 


「ゲートオープン、魔導船リフトオフ!」



 魔導船? この人は一体何を言ってるんだろうか。

 グオングオンと工場区の天井が左右に開閉、更にレールの様に伸ばされた道が縦方向に伸びて天井とくっついた。


 フォン、フォンプロペラの回る音が耳に心地い。これですよこれ。この空を飛んでるという環境音は絶対に必要不可欠です。

 ただ浮くだけならAP使えば誰でもできますし。


 と、何故か室内から光源が消える。

 客席の窓からの景色も真っ暗で、これでは外の景色も見えない。これは文句の付け所と嬉しそうに私は立ち上がる。

 それを見越していた山本氏がまぁ焦るなと言わんばかりに特定のワードを唱えた。



「メインスクリーンオープン!」



 ブォン……という電子音が響き、窓どころか壁や床までが透けて足元を映し出した。これには流石に私もうろたえざるを得ない。これ、高所恐怖症の人からしたら絶望以外の何者でもありませんよ? 私は特に何も思いませんが。



「さぁ、空の旅と行こうか! 魔導船、マナの大木までオートフライトだ」


『了解しました。目的地をマナの大木に設定。オートフライトモードに移行します』


「キェエエエアアアアアア、シャベッタァアアアアア!」


「意志の疎通が取れるのか、この船は!」



 大袈裟に喚くスズキさんに、簡単とする探偵さん。

 あ、この人。自分専用の船を欲しがってしまった様ですね。

 残念ですけどあげませんよ? これはクランの買い物ですから。乗せてはあげますけど、自分使いしたいなら別途注文してくださいね!




 船に乗る事数分。

 本当にマナの大木の頂上にまで来てますよ。やばい性能してますよね、これ。

 なまじ下の景色が見えるもんですからプレイヤーがこっちを指差し確認してるのが非常によく目立ちます。

 キャッキャとはしゃぐスズキさん外ウチのクランメンバーを他所に、連れてきた三人組は居心地悪そうにしていた。

 透明でこちらから見えたって目が合うわけでもないでしょうに。それにこの飛空挺の持ち物は私です。乗組員全員の名が知れ渡るなんてことはないでしょう。

 用は気にしすぎなんですよね。


 まぁ室内に出るときは鯨さんから大きく逸れる様に停泊しましたが。



「お義父さん!? なんなんですかあれは!」



 ただ、オクト君が目を丸くしてワタワタしてる姿は面白かった。なんですかと聞かれてもね。私だって知りたいよそんなの。

 それと今回のクラン協定に至っては君たちの仕掛けだよ?

 だったら自ずと答えに行き着くはずだ。

 どこと提携すれば手に入れられるのか。



「そうだねぇ。この度私達が協力要請を仰いだクランは何処だったか考えれば分かるよね?」


「AWO飛行部!」


「その通り。うちの職人を紹介して発破をかけた。もし君たちの環境が整ったら何を作りたいか。それを提示しつつ、私は博打を打ったんだ」


「その結果がアレなんですね。これはまいった。でもこれができたのはお義父さんのクランだからですよね?」


「どうだろう、やる気のある職人をくっつけただけだよ、私は。あとは本人達同士が勝手に作った。もちろん散々ダメ出しを入れたからね、なにくそと思わせてここまでの物ができたんだ。君も参考にすると良い」


「はぁ、お義父さんには何を言っても通用しませんね。まずその人脈の広さはなんなんですか!?」


「偶然だよ。私も趣味人だから分かるがね、そういう人達って妥協するのが大嫌いなんだ」


「それは僕にだってわかります。改良に改良を重ねてより良いアイテム作りを心がけてますから」


「ならば自ずと君の道は切り開かれていくだろうね。あとは部屋に閉じこもってばかりいないで積極的に外に飛び出して見る事だ。私の出会いは特殊でもなんでもない。たまたま出会った人がその道のベテランだった。それには君も含まれてたりするんだよ? オクト君」


「お義父さんには敵いませんね。それで、ご相談なんですが」


「うん、いくらでも聞くよ。丁度今耐久テストをやってるところだ。ついでに乗っていくといい」


「ありがとうございます!」



 オクト君という乗組員を巻き込み、私たちの船はマナの大木を飛び立った。航路は真っ直ぐと三の試練に向けて。

 事前に天空ルートのマップを読み込ませているのでいつでも試練に参加可能だと。

 

 これはプレイヤーに喜ばれるぞぉ。

 問題はお値段ですけどね。

 ただでさえ問題児のダグラスさんが一緒ですから、ちょっとそれを聞くのが今から怖いんですよね。ある程度融通してくれれば良いんですが……気を紛わすために空の景色でも見てましょうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る