第15話 娘からの支援

「ある意味で、ここが最序盤の街であったことが不幸中の幸いだったわね」


 パープルに言われてハッとする。

 たしかにそうだ、起こしてしまったイベントは今更撤回できないが、今から人を呼んでどれだけ集まるかもわからない状態。

 そんな時に敵が弱いと言うのは随分と気持ちが楽になる。

 私に気を遣っての発言だろう。

 この子は昔から私にべったりだった。


「お母さん、敵のレベルはどれくらいだと思う?」


 孫と娘が語り合う。

 緊迫した面持ちでありながらどこか緊張感はない。普通の食卓での会話風景と酷似していたよ。


「今のマリンにはちょっと厳しいわね。特に今回は大型レイド。このレイドの特徴はね、単独での撃破がまず難しい類なの。例えばそうね、今回のイベント発生では特にログイン時間の制限解除が解かれていないわよね?」

「うん……あっ! 私がログインできない時間もあるってことだね?」

「そうよ。その間に倒されちゃうかもしれないし、街に被害が出るかもしれないの。だからたくさんの人員が必要なのよ。戦闘力が高いだけでは勝利に導けないわ。それを後ろから支える補給部隊も大切なの」


 なるほどなと思う。

 大型レイドと聞くとHPゲージが軒並み高いか特攻武器が必須なイメージはあったが、向こう側から襲撃してきて街に被害が出る防衛戦の可能性もあるわけか。


「特に何かが復活する系列は強い意志を持って前回封印処置をした場所へ復讐しに行く。つまりその原因がどこにあるかを探さねばならない。この場合は近隣に分かりやすいこのファストリアがある事から、十中八九ここが狙われるわ。お父さんのブログ曰く、物見の塔なんてものがある時点で確定ね」


 大問題じゃないか。

 しかも森から突き出るほどの卵の時点で嫌な予感しかしない。

 ああ、だからそれを想定してあの石の砦なのか?

 孫から聞く通常モンスターのサイズはそれほどでもないと聞く。

 だから違和感はあったんだ。

 あの石壁はなんのために設計されていたのかわかった気がする。


「じゃあ街の防衛もしないとだ」

「一応まだ敵さんは復活はしてないようだからお父さんとマリンは普通に遊んでていいわよ。あとはうちのクランでなんとかするから」

「おう、任せとけって。互いに力は認めてるが、今まで組むことはなかったクランが今回は手を取り合うんだ。最序盤のレイドボスなんて返り討ちにしてやるさ」


 ここでギン君が割って入る。

 ジキンさんの前とでは態度が違うのが気になるが、悪い感情は漂っていない。

 そこでジキンさんから情報をいただく。

 なんと先月娘が誕生したばかりなのだとか。だからだろうか、マリンを励ますような意気込みを感じたのは。


「うぅ、お母さん達が仲間外れにするよ〜」


 それでも孫は仲間外れにされたと嘆く。

 イベント参加権を得たのに参加できなければそう思ってしまうのも仕方ないだろう。


「マリン、蛮勇と勇気は違うのよ? 以前第三の街サードウィルが半壊になったイベントがあったのを知ってると思うけど……」

「うん……あ、あれって大型レイドだったの?」

「そう、どこかのクラン連合が情報開示を秘匿した結果があれ。復興するのに大変だったんだから。うちのクランも復興に関わったのよ? 大型レイドってそれだけ大変なの。街が崩壊してもボスを倒さない限り終わりは来ないの」

「済まない、そんな大規模なイベントだなんて知らずに……」


 本当に私は愚かだな。

 それでもこうして支えてくれる者達が居る幸せを噛み締めることしかできない。

 そんな自分が情けない。


「今回に限ってはお父さんに落ち度はないとは言わないけど、運は悪かったわね」

「……うん。反省はしている」

「でもお父さんとジキンさんが仲良くなってくれたおかげでこうして深まった縁もあるわ。だから安心して、今回はキチッと勝ってくるから」


 腕をまくって娘がやる気を漲らせている。

 ギン君も、ジキンさんも。

 若干一名不満顔を漏らす者もいるが、親としては子が心配なのだ。

 娘の気持ちもわかってしまう。


 孫が可愛いと思う反面、彼女を後押しする力が今の自分にはないことを痛感する。それでも何かしたいと思ってしまうのはこのイベントを発生させてしまった私の責任からだろうか?


「そうか。私にも何かできることがあれば言ってくれ」

「取り敢えずはそうね、ブログのURLを公の場に公開をするから閲覧数が一気に上昇するけど気にしないでくれると助かるわ」

「それと知名度はまず間違いなく上がるだろうな。不特定多数の人物から見られる覚悟もしておいた方がいい。有名税ってやつだ」


 それはなんとも覚悟を強いられる。

 けどそれ以上に自分は始めたばかりの初心者で顔も広くないのだということを教えられた気がした。

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