第47話
あたしは神様を見た。合わない一人称に、ちぐはぐな物語の構築。見向きもされない設定に、憤怒をまき散らす様はまるで子供だった。認められる事だけが物語の全てじゃない。物語は誰かに紡いで、送り届ける長文の手紙だ。
それなのに、彼は一向にそれを良しとはしなかった。抗う事を辞め、取り繕う事もしない。ただの傲慢を誰かになりふり構わず、押し付ける。
「そんなのは合ってはならない。あっちゃ行けないんだ」
「お、おいお前……」
だから、あたしは一つの賭けに出る事にした。それは、余りにも確率が低くて、少なくとも、昔のあたしなら絶対に選ばない方法。
それは、現実世界に物語を造る事だ。
そして、今ほんの少しの猶予がある。
あたしは、自らの手で死んだ事になっている筈だ。だが、そんなのは所詮、受け手次第に過ぎない。実際、あたしは繭の中へと、形を変えただけで、そう描かない限り、読み手である彼の元にはまるで『死んだ』ように映ってる事だろう。
「どうなってんだよ、なぁ!」
ミグリダが血相を変えて、あたしにそう言った。――無理も無いか。あたしの見た目は、俗に言う妖精の姿へと変えているのだから。
「話は後。勿論、貴方にも手伝って貰うわよ」
蝶に似た羽を悠々と広げながら、自分の机に置いてあった戒めのペンを握る。これで何万と言う世界を書き換えてきた。その事実は、苦痛の何物でも無い。でも、今は違う。
白紙に、あたしはこう綴った。
『世界は繋がる。全てに属し、名を連ねたG・trueの名を今正に、正史へと還元せん』
すると、どうだろうか。浮かび上がる数々の物語が連ねては絵画の展覧会の様に、辺り一帯に映し出される。文字に触れていく度に、彼らの記憶があたしの中へと文字として、呼び起こされていった。
シュリ・ジートリーの記憶
『私、本当は怖かったの。永久に独りぼっちだったかもしれない。でも、違ったんだよ。私は私である為に、自ら【埋葬】する未来を望んでた。誰にも気付かれず、誰にも迷惑を掛けない生き方を望んでた』
けど、違うんだよ。誰かを助け合って生きる事をあの男は教えてくれた。だから、私はこの未来のカタチを【信頼】と呼ぶ事にするんだ!……助けてくれた通の為にも――ね
エイヴ・ジートリーの記憶
『私は、憎くて憎くて仕方無かったわ。騙された事も、母さんに呪われた事も何もかもが自分のせいで。自分がだらしなかったから、悪かったってのに【狂気】に堕ちて、この手で母さんを殺した。ただの逆恨みだってのに』
でも、違った。私は母さんに愛されてた。助ける為に、自らを犠牲にしてでも、私を溺愛してくれた。私の未来のカタチは【抱擁】……灯が、人との繋がりの大切さを教えてくれたんだから、次は私が彼女達を守ってあげる番よ!
シトリア・ジートリーの記憶
『儂は、ただ子供達を守りたかっただけに過ぎぬ。……なのに、誰一人も守れず、何度も何度も目まぐるしく回った。何度、目の前で子供が殺され、夫が殺された事か。運命とは正に【永遠】なんだと思わされたよ』
じゃがな、ある時、子供を守る為に自身を犠牲する事にした事があった。それも言わば、狂った未来だったかもしれん。――けど、愛する子供の為に、身一つ捨てれず、何が母親と言えるじゃろうか。儂の未来のカタチは【慈愛】の心なんじゃろうて。……最後に会った彼女は、儂の話を最後まで聞いてくれた、なぁ。
でも、これだけじゃないでしょう?真っ白に広がる空間の中、あたしは、あたしの中でそう呟いた。そうもう一人居る。最後の一人だ。
彼女は自らの命を【放棄】した。未来を捨てた彼女、メルラド・ジートリー。
『そう、ね。……あはは、ニットちゃん。そんな顔しないでよ』
思い浮かぶは、彼女の微笑ましい笑顔。私は、問い掛ける。
「メルラド、貴方のお陰で、あたしは世界を変えようとしている。けど、貴方の記憶は彼に描かれてない」
それはつまり、メルラド本人が灯のお姉さんだろうと、それはあたしが勝手に書き換えたものであって、誰の記憶にも留まって居ない事になる。唯一、あたしだけが認識出来るだけで、彼女の物語は何れ――無くなってしまう。
『良いんだよ、私は貴方のお陰で救われた。貴方が、私を見守ってくれてたから、決心できた』
全身から響くように、心臓が鳴る。彼女達の記憶はあっても、彼が描いてない以上、修正も出来ない。彼女の物語が造られてない……所謂、白紙の物語だ。どう足掻いても、彼女の物語は消えていく。
『ニットちゃん、私は大丈夫だから、ね?』
優しく語り掛けてくる文字に、あたしは泣き崩れそうになりながらも、あたしは言い放った。頬に伝う涙に熱を込めて、一世一代の大勝負へと賭けに出る。
「さぁ、あの神様をぶっ叩きなさい! ミグリダ・ジートリー!」
chapter…light
『次は私の番。私の物語のカタチは――』
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