消えた夏の日

第一章:殺意の萌芽

　嶺垣のわがままに巻き込まれた身分ではあるが、ここは礼儀として年長者である自分が頭を下げようと判断して、絵夢は男へ礼を言った。

「まぁ、構いませんよ。ただし、あまり歩き回ったり下手に物をいじるような行為は控えて下さいね。場合によっては、出ていってもらうことになるかもしれませんから」

「はい、それはもちろん」

　頷いて、絵夢は横目で嶺垣の様子を窺ってみる。

　一応話は聞いていたようで、目が合うと小さく首を縦に振った。

「それともし、何か困ったことや問題が起きるようなことがあったら、すぐ私に連絡をするようにお願いします。せっかくなので、一応名刺を」