Bloom

古弥 典洋

第1話「腰抜けリムラン」

 やぁ、みんな!突然だけど、約束していた時間に寝坊してまずいことになった!なんて経験ないかな?僕はここ11年くらいずっとまずいことになってるよ!

 僕の一人自分語り、聞いてくれるかな?僕は元軍人でさ、10年前に脱走して脱走兵としてお尋ね者になったんだ。ほーんと今まで逃げられたのが奇跡ってぐらい....あれ、良い子の皆は軍人を知らないかな?時代にもよるけど、僕等の場合餓鬼みたいに槍を振り回している連中の事を指すんだ。いやぁ、平和っていいねぇ。

 それで僕は今どこに居るでしょーか?あは♡豚箱なう☆


「誰か祝ってくれよぉ。今日で数える限りお尋ね者10周年なんだよ。クソが!」


 おぉ。夜中の地下の独房は静かで響くねぇ。普通はこんなことしても誰も来ないんだけどさ、今回は普通じゃないみたい。一つの足音がこっちに来てる。


「無様だな、お前。国から逃げられるわけないだろう。なぜ逃げた。」


 コイツは僕の幼馴染だ。根っからアタマが堅くてイケメンなんだよ。ガキんちょの頃はよく遊んだものなんだけど、いつからかこんな無愛想になっちゃって。ちなみに今はコイツはひなたぼっこ出来るほど暖かい昇進街道まっしぐらだよん。


「お?おぉ?てめー喧嘩を売って...ああ誰かと思えば一兵卒のションベン小僧じゃないかぁ。」


「阿呆。俺は准尉だ。残念だったな。」


 は、チョロすぎ。すぐ挑発に乗っかっちゃってまぁ可愛いでちゅね〜。ついでにここから僕を出せやコラ。


「ヘッ、ヘヘヘッ。」


 そういや、僕がなぜこんな豚みたいな仕打ちを受けてるのか言っていなかったね。脱走兵はまず、国では名誉なんて本当になくなる。そんでもって軍部に煮るなり焼くなりされるのよ。奴隷だったり、剣闘士にさせられたり、国から永久追放されたり、特に目的もなく拷問されたり。死んだら下水に捨てられるだろうネ。名付けて下水ルート。センスありすぎw


「その妙な笑いは昔から変わらないな。お前の住所もないから、手紙も届かんが、再会できたのは奇跡に近い。懐かしい。」


 へぇ、そうかい。僕はそんなつもりなんて無かったがな。こちとら命と尊厳賭けて逃げてんだ。戦争に圧勝したからって日向ぼっこしてる暇は無いんだ為政者め。


「生きてりゃ丸儲け。全ての行動は生きるためになくちゃならない。」


「相変わらず口を開けば歴史に名を残せそうなことしか言わないうるせぇ野郎だ。首狩りなんてやめて批評家にでもなったらどうなんだ。」


 じゃあ出せ。まずこっから僕を出せ。僕は賞金首の中でもちょっと高額な方なんだよ。軍議にかけられちゃ死ぬしかないだろクソ!

 おいおい、気でも狂ったのか。いきなり牢屋の鍵を出したぞコイツ。....わお、ホントに開けやがった。


「行け。」


 僕は礼を言う代わりにコイツのアタマに人差し指をねじ込んでやった。お前は本当にクレイジーだ。というメッセージなのだが、伝わっただろうか。

 豚箱に込められた人の手助けをするというのは、立場交代というのと同じだ。脱走兵と同じ扱いを受けるようになるんだ。だから僕はコイツの行動に理解が出来ない。

 全ての行動は生きるためになくちゃならないのに、コイツはただ一瞬の郷愁の思いで人生を棒に振った。


「これはお前が持ってた剣、槍やら武具一式だ。ほら、夜が明ける前に行け。」


「クソ。こんな恩、命を払ってまで返すシかないじゃないか。もしお前が捕まったら、僕は貴様ら軍を滅ぼす。分かったな!」


 僕は忍び足で草木に隠れてどんどん起床してゆくクソ野郎どもを出し抜く。やっとの思いで野営地を抜けて、独房の冷めた残飯とオサラバした。


「そりゃ大層なこった。それじゃブチ抜かれないように俺も気をつけなきゃな。」


「何を気をつけるんですかねぇ。私、彼を牢屋から出すところ見ちゃったんですけど。」


「......代わりに何をすればいい。」


「ふふ。話が早くて助かります。」





 僕は近くのパブに向かった。品のないパブは、夜明け後までやっていることもしばしば。皆は酒場といえば何を思い浮かべるかなー?喧嘩?賭博?無銭喰らい?そうだネ。全部正解。でも僕ら「首狩り」からすれば、それは違う。酒場は仕事場であり、更には情報交換の場になっているのねん。まぁ、大半は娼婦のクソをクソがクソみたいに食べたとか、そんな馬鹿な話しかないんだけどさ。たまに大きな情報が飛び交っていたりするのよ。

 首狩りっていうのはその名前の通り、人を殺す仕事をしているんだけど、ただの屠殺じゃないよ。むしろ国のためになってるんじゃないかな?賞金首を狩って、国から貰う報酬金で生計を立てている連中なんだー。すごいよね?国に腰抜けのレッテル貼られてるのに、まだ国の為に働く僕。いやーマジ社畜だわぁ。日本人エンジョイしてますわぁ。

 え?裏っぽい取引が、そこいらの酒場で行われてて兵士にしょっぴかれないのかって?大丈夫だよ。なぜだか知らないけど兵士は宅飲み派の集まりなの。ちゃんとした理由はメンドくて説明出来な....はいはい分かったよ。ちゃんと説明すりゃいいんだろ?メンドクセー。君らの世界には兵士の代わりに警察が居るんだよね?パトロールはするよね?じゃあ、パトロールする時に、店の一軒一軒は見て回らないよね?そういう事よ。しかもそれだけじゃなくて、酒場覗いていちいち独房にぶち込んでたらキリがないよね。むしろ国の中の指名手配者が影ながら殺してくれるから、入れようにも入れられないのよ。

 でも僕は、首狩りである上に狙われる側の人間でもあるわけ。もう時間が経てば経つほど僕の首にかかっているお金はどんどん多くなっていくんだァ。

 僕の賞金はいくらになっているかというのも確認するの意味も含めて、酒場には絶対寄るべきなんだ。


「はぁぁぁ酷い目にあったんだよ店主ー。運び屋に売られちゃった。」


 僕はふらふら酒場に入って、店主に1番近いカウンターに座る。外ではバレちゃダメだからフード被っていたけど、ここなら少し安心できる。フードは取っておこう。貼り紙がたくさんある掲示板に目を通すも僕の顔はなかったんだよね。つまりまだ国に僕が逃亡したのはバレてないみたい!良かったぜぇぇ。


「お前さん、腰抜けリムランか。生きてたのか。懸賞金495万ガルド.....いらっしゃい。そいつは災難だったな。」


 ちなみに運び屋というのは僕のよーなお尋ね者御用達の職者なんだよねー。なんでかって言うとね?賞金首が首狩りをして、それを国に運ぼうもんなら、僕らはここで生きてられない。でしょ?だから運び屋に依頼して、手数料を払って運んでもらうの。

 その運び屋に売られたっていうのは、つまり僕の居場所をチクられたの!ホントアタマにキちゃう!軍に情報提供すると、ちょっとだけお金くれるの。そのちょっとのお金のためだけに、僕の尊い命の灯火が犬の小便に消されるとこだったのよ!もうっ。


「で、この酒場じゃ何が名物なんだい?」


「あいつだ。」


 店主が指を指した。おっ?なんだ?豚の回転丸焼きでもやってんのか!僕はウキウキしながらそっちを見てみたら.....は?生娘?丸焼きにでもするのか?


「何?ここら辺は人を丸焼きにする文化でもあんの?変わってんな。残念だがそんなの食わねーよ?」


「バカ野郎ありゃ俺の娘だ。看板娘だよ。」


 取って食うんとちゃうんかい。いや、こちとら腹減ってんだよ!女とかマジ知らねぇよ!なんでも良いから早よ出せよ!イラつきすぎて口調変わっちまってるじゃねぇか!あとそこの娘はこっちを見て笑うな!とんだ恥晒しだ。


「夜が明けてるのに店開けてる癖に上品なこと言ってんじゃねぇよ!僕は女を可愛がる趣味はない!」


「はっ、だからお前は腰抜けなんだよ。」


 うぜー。殺したろかなw


「じゃあビーフとパンだ。あー、野菜は多めでな。ついでに蒸留酒をお願い。」


 しばらくして店主が作り終え、盛り付けも終えた。僕はそれを取ろうとするが、さっきの看板の女がビーフとパンを下ろした。


「はい♡どうぞー。」


「は?」


 呆気に取られてしかめっ面の僕。


「.....え?」


 妙な空気に顔をしかめる生娘。

 いや、普通この距離で間にサーバー挟むか?普通よォ。もういいですよ。食べます。だから僕に関わらないでくださいお願いしますから。

 硬いパンを熱い蒸留酒でやわこくしたら、赤身の肉と野菜を併せて咀嚼する。この黄金サイクル。最高だ。僕はこの瞬間のために生きてる!


「パンは自由におかわりしろ。どうせそんな粗悪なパンじゃマズすぎて単体じゃ食えねーから。」


 店主がそれでいいのかよ。まったく。だが、ありがたく頂く。ちょっと足りないと思ってたんだ。

 硬くて旨くないパンも、それはそれで旨い。噛むほど出てくる唾液がパンを消化させて、徐々にほんのり甘くなる。甘くなる前に酒でアツくしてもいいよな!僕は食べるため、寝るために生きている!


「お前、よく単体で食えるな。逞しいと思うぞ。」


「これはこれで旨いぞ!ものは何でも考えようだ。コイツの旨味だって、無限に出てくるってもんだよ。」


 僕は締めに蒸留酒をぐいっと。かーーっ!気持ち良い食事だった!


「牛の肉焼きと野菜多めで350、酒一杯で100だ。450ガルド頂戴するぜ。」


「500ゴルドからだ。余った50はアイツへのチップだ。ほらよォ。」


 こういう無償の支払いは多めにしとかないと、のちのちこの関係に亀裂が走るんだ。画面の前のみんなはこういうの怠らないようにしろよ!

 僕を狩って495万の収益になる。この一食が450ガルドで、全て飯に溶けるとして、1万1千食喰らえる。1日3食喰うとすれば3600日分だ。つまり僕を狩るだけで、向こう9年は人生安泰ってわけだ。もちろん、首狩りは強い武器や服が大量に必要になって、宿や運び屋手数料などの経費も合わせればもっと短いんだけどね。これで僕がどれだけ凄い人かわかったかな!?人生は甘くないね!


「さぁ、仕事だ。店主、パンを2つちょーだい?」





 ここで基本的に僕がする事は、盗み聞き。ただある程度耳が良くないと聞き分けることが出来ない。そんでもって興味深い情報が聞こえたら、ソイツの元に寄って詳しい情報を聞く。こうやって静かにやらないと、僕の所在情報が一人歩きして軍部に広まる。ちなみにパンを頼んだ理由はただの口直しでーす。


「なぁ、知ってるか?全面鋼鉄ハダの懸賞金、また上がったんだってよ。」


「は?またか?一体何をしでかしたんだよ。」


 お、興味深い内容のお話をしてる2人組を発見。「全面鋼鉄のハダ」は僕の持ってる古い情報では、懸賞金21万7千の上物だったな。全面鋼鉄のその名の通り肌がめちゃくちゃ堅い。とにかくデカいのが特徴だ。で、堅いハードが鈍ってハダになったんだ。アイツ、幼い頃に何かシでかしたんじゃないかな?とりあえず、しばらく会話を聞いてみようか。


「なんでも、追っ手の兵士を5人殺したらしいぞ。懸賞金は21万9千ガルドだ。」


「ふーん、またかなり跳ね上がったな。」


 マジか!そんだけあれば、少なく見積もってもここから1年は金が保つぞ。今がチャンスかな?フードを被って....よし、凸るぞ!気分は芸人を出待ちしているファンだ!


「へいへいそこのお兄さんたち。おう、勘違いしないでくれ?僕はナンパなんかじゃない。そこらへんの詳しい情報が欲しくてな。もっと教えてくれないか。」


「おぉ、こんなクソみたいな情報が欲しいだなんて、アンタは首狩りさんか?いいぜ、教えてやる。ハダはこの街からだいたい東に8マイルほど行った、丘の溶岩洞に隠れていたらしいんだが、兵士にバレちまったらしい。」


 へぇ、兵士らもよくそんなところが分かったよな。


「ハダが噂に聞く巨漢なのは知ってるだろう?きっと足跡かなんかで分かったんだろうよ。ハハハッ!間抜けな話だよなぁ!」


「ヘヘッ、そりゃ確かにwこれじゃ殺すのも容易だろうな。」


 おっと、急に客が神妙な顔つきになった。テンション間違えたか?いや、これで正解だろ?バカっぽいもん、コイツ。


「実はな、俺らはここら辺の兵士なんだが、ここに用があったのはパトロールなんかじゃない。殺された兵士の1人が俺のダチだったんだ。古くからのな。それで、お前さんに奴の殺害を依頼したい。この際お前さんが誰であろうと構わん!奴を一思いに殺してくれ!」


 へぇ、こりゃあ数奇な運命に恵まれたなぁ。コイツにも幼馴染がいて、兵士なんだ。僕達とほとんど変わらねェじゃないか。まぁ、こっちの場合逃亡なんだが。


「駄目か....?金なら弾むんだが....」


 この依頼はとても好都合だ。ハダが近くに居るなら狩るしかないし、それをすることで汚名返上と依頼達成分の金が手に入る。ついでに死体の回収も頼めば、運搬の手数料は浮く....!


「いや、僕は依頼されようと、そうでなかろうと、ハダの首を狩りに行っていた。ただここにクソほど重い死体を運ぶ用が出来ただけだよ。あと、依頼を受けるにはもう1つ条件がある。政府に死体を見せて、もらった報酬金を引き渡すのなら受けるよ!」


 この条件を付けるということはどういう意味を成すのか、アタマの回る子達なら分かるかなー?そうだよね、運び屋の依頼をするってことは、軍の人間とは会いたくないっていう事。つまり、彼は僕が賞金首の首狩りって事がバレちゃったよね。


「そうか....お前さん、投獄されたはずの腰抜けリムラン...よし、特別にこのことは言わないでおこう。頼む。俺は夜明け頃に毎日ここに訪れる。その時に死体を持ってきてくれ。」


 そっかそっか、良い子で待っててくれるんだね。そうしたら僕はそろそろ出かけよう。フードを再び深く被り直して、酒場を出る。ハダを探すために。

 しばらく大通りを東向きに歩いていると、路地裏に人影が見えた。アイツは...!「毒する者リサ」だ!男なんだけどひょろひょろなのが特徴的なんだよね。古い情報では、懸賞金は7千ガルド。僕は耳だけじゃなく目も良い。そうじゃないと人殺しなんてやってられないでしょ?それも殺すのは普通の人間じゃないんだからね!


「っとと、ここはイクのがイイでしょ!」


 行き交う馬に蹴られそうになったが、無傷なら問題ないだろ?やっぱこれがないとな。と腰に巻いてたロープをほどきまーす。じゃじゃーん、鉤爪付きロープ!これがあればどんな高い場所も登れるし降りられる!僕が作った便利な殺人道具の1つなのであるよ。ヘヘッ。

 鉤爪を建物の屋上へ投げて、これを伝って登る。高さにして3ヤードくらいかな?


「ひゅうう。3メートル弱登るだけで風の強さが全然違うね。ブルブル。」


 バカみたいな擬音を発したら、リサ探し。おっと、居たねぇ。大通りを抜けて2回右に曲がった所でナニかシてた。アイツめっちゃ息荒いやんww

 鉤爪を建物のへりにかけたら、静かに壁を伝ってすぐ後ろに降りる。ある程度まで行ったら首を掻き切りますよー。気をつけられたら困るので気をつけて気をつけないで下さいねー。

 1メートルくらい降りたところで、ロープを外して壁蹴り1発ジャンプ!その音でリサが気づいてこっちを向く。その間抜け面を引っ付けただけのガラ空き首を解体用ナイフで横に一閃!ザコい。このまま着地すると足を骨折するので、前転して衝撃を流しましょー。


「ひゅう〜!ヒョロガリの首は切断し易くてイイねぇ〜!久しぶりにこのナイフで切断できるザコに出会えて、お兄ちゃん嬉しいよ!」


 身体は筋弛緩剤を打ったかのように膝から崩れて、仰向けに倒れる。うわ、その体勢w太もも痛くないの?w......んあ?視線を感じる?あ、そうだったな。生首っていうのは切断されて数十秒くらい意識があるんだよ。首から出血させながらこっち見てる。笑かしにきてんの?それなら大ウケだよ。


「さーてと。リサの服に血が付く前に懐漁らないとなー。お?なんだこれ。どこでも作れる毒薬?ほえ、すごいな。ハートチョウの鱗粉を煮詰めるの?ハートチョウって何?」


 このノートは使うレシピかもしれないので、あとで目を通すために持っていくということで。あとは所持金2千ガルドを頂きます!これで僕の懐は潤いましたね。僕のお金はだいたい4千ガルド。あとは首を切られないように皮をつなげておくだけ!それも完了!


「.....ん?」


 薄暗い壁に目をやったときに見えたのは、太陽のように燃え盛る赤色が、波の形になって落ちていく血の壁画のようなもの。


「最っっ高.......」


 返り血がついたままじゃ大通りに出た時に騒ぎになる。鉤爪ロープを使って登って、立体起動しよう。そう思って僕は立ち上がったんだけどね。


「は...女?」


 そこには血を浴びた状態の女が泣きながらうずくまっていたのさ。首のない身体の向こう側にね。歳はちょうど20...無いくらい?ちょうど食べ頃の果物みたいに、そこにちょこんと居た。あぁ、リサの息が荒かったのってそういう......気色悪りぃなオイ。まぁ中々そそる奴なのは否定しないけどねー。あ、顔上げた。あ、僕を見てまた下げた。ていうか降りた時にフード取れてたし!やべぇ、この町にはもう居られなくなった!顔を覚えられたんだよ!?命が危ないよ!はいーささっと退散。ロープを伝って、それを腰のベルトにまた付けなおして、上へ参りマース。


「ねぇ、そこの女の子。返事しなくていいからちょっと聞いてね?」


 おぉ、律儀に顔を持ち上げた。もうフード被ってるから見られても平気なんだけどさ。


「そこにある気持ち悪い死体は放置してね、絶対に絶対に!」


 じゃないと僕の収益がなくなっちゃうから!......とは口に出して言わないけど。

 ははっ、必死に首を縦に振っちゃって可愛いヤツめ。いやいやいや、僕の命を脅かすヤツを甘く見て油断してはいけないぞ、リムラン。全ての行為は、生きるためにあるべきなんだ。


「うん、良い子だね。その派手に浴びた返り血を、身体をどこかで拭いてきな。乾くと取りにくくなるからね?」


「...!...!」


 .........いや、可愛いな。首を縦に振る女の子ってこういう小動物的な印象を受けるな。うさぎとか、リスとか...さ、ズラ刈るか。


「あの、名前だけでも.....お伺いしてよろしいでしょうか......?」


 名前を訊くってことは僕のことは「腰抜けリムラン」として知らないみたいだ...あー、なんかちょっと救われた気分。


「ハダ。ハダだよ。」


 くくくっ.....やべ、なんか偽名考えなきゃと思って出た名前が...ハダってwコラー!あんな巨漢と僕を一緒にするなー!www笑いが止まらん、ニヤけてしまうだろこんなのw


「ハダ...様...ありがとうございます。お救い頂きまして...あの...」


「あー、そういうのマジいいから。どうしても礼を言いたいなら酒場に行って、ハダさんの情報貰ってこい。」


 あとそのメスの顔をやめろ。マジでこういうの嫌いなんだよ。っていうか、良かったな「全面鋼鉄ハダ」さん。ファンが僕と、もう1人増えたぞぉぉぉwwwいかんwこれは笑いが止まりませんわ...


「くくく...じ、じゃあね。僕のことは誰にも話しちゃダメだよ...?分かったね?...よし偉い子だね。」


 ロープを伝って登ってゆく。あぁ、この白い外套はもう赤くなって使えないなぁ。ポイっと。


「.....ぎゃーっはっはははははは!お笑いだな!ハダ....様!?くっくっくっくwwこれは酒のツマミが出来たらぁ!」


 その後、僕は宿屋で水を買って、顔とか身体を入念に洗ったよ。え?顔はバレてなかったのかって?もちろん。だって外套の下にパーカー着てるからね。ダサイだと?うるせー。これも首狩りに襲われないための策なんだよ。全ての行動は、生きるためになくちゃならない。





「あ....ハダ様の外套.....」


 様々な人生で初めての出来事がこの一瞬でたくさんありました。犯されそうになった事、生首、人が死ぬところ、殺人の現場、あの高さから飛び降りる人間。そして、胸が焼けるような感じ。


「すんすん...ふんふん...や、やだっ!私、何してるんだろ...?!」


 な、なんで私今、匂いを嗅いだ?犬じゃないんだから!

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