673・盛大なる式典

 女王陛下との謁見も無事に終了して中央都市リティアは大勢の人でにぎわいを見せていた。

 色々と準備をしていた戦勝の式典――それが今日だからだ。

 普段以上に気合を入れた商人たちの声掛け。賑わう人々。中には迷子が現れて、兵士の言取りが側に付き添って泣きべそかいている子供を慰めている。館から鳥車に乗って登城している途中でもここまで活気が伝わってくる。


「すごい活気……というか熱気だよね」


 感心するようにぽーっと賑わう人々を眺めながらぽつりとファリスは呟いていた。いつものリティアとは比べ物にならない。下手をしたら私達もはぐれて迷子になりかねない。


「見て回りたいのは山々だけど……今回は諦めるしかないわね」


 今回の主役は私達と言っても過言ではない。そんな人物が呑気に町を見学している場合ではないだろう。

 本来なら鳥車を降りてじっくり見て回りたいのをぐっとこらえつつ、私達は王城へと向かうのだった。


 ――


 王城では慌ただしく準備をしている人達でこれまた騒がしい。兵士達の一糸乱れぬ行動と式典の警護の確認など別の意味で色んな事を話している。


「エールティア様! お待ちしておりました!」


 速足でこちらに向かってきたのは壮年の男性。警備隊の服を着ているところからすると町の治安維持を担当している人のようだ。そんな人まで城に駆り出されているなんて余程忙しいのだろう。


「もうすぐ式典が始まります。城の広場で執り行われる予定ですのでそちらの方に向かってください」

「ええ。ありがとう」


 指示に従って広場の方に向かうと既に会場は出来上がっていて、多種多様な種族の者達が一様に介していた。しかもそのままパーティーが行えるようにテーブルの上には料理が所狭しと並べられていって、取り皿が数多く積まれている。


「これは本当に大掛かりね……」


 広場には上下段に分かれていて、植えの方にはガンドルグ王やマンヒュルド王もいる。他国の王族も呼ぶなんて全く聞いていない。だけど、それだけ大掛かりにしたいって事なのだろう。


「エールティア・リシュファス様! 並びにファリス様がいらっしゃいました!!」


 大きな声で名前を呼ばれた途端視線がこっちに集中する。羨望や賞賛。様々な感情が混じった視線を一身に浴びて、とりあえず堂々と振舞う事にした。


「エールティア。待っていたぞ」

「お父様」


 その中でも一番最初に出迎えてくれたのはやっぱりお父様だった。タキシード姿がしっかりと決まっていてよく似合っている。


「さあ、こちらへ来なさい。直に女王陛下もいらっしゃる」

「はい」


 お父様に言われるままに案内され、上へと向かう。各国の王族達が一堂に会する場所。視線が一気にこちらに向いてくるせいでオルド達はかなり緊張しているようだ。それもそうだ。いくら護衛といえどこんなに位の高い人たちに囲まれるなんてそうそうない。しかも現場で戦っていた者からすれば尚の事。緊張するのも仕方のない事だった。


 ファリスはまだそういうのに疎いからか特に何も感じていないようだ。私が各国の代表とも言うべき人達と話している時も特に興味を示すことがなかった。話しかけられても事前に誰かと打ち合わせていたのか最低限の失礼にならないように返事をする程度に留まっていた。


「ルティエル女王陛下、ご来場なさいました!!!」


 大きな声が響き渡り、下段の扉が開く。全員がそちらの方に視線を移すと、女王陛下が厳かに入場していた。まさかわざわざそこからやってくるなんて思わなかったけれど、しんと静まった空間にたった一人上段への道を歩いて行く。誰もが見惚れていて、女王陛下が奥まって広い空間までいって振り向くまで静まり返っていた。


「此度はダークエルフ族に対し勝利を収め、戦いに幕を降ろした事を記念した式典を始めようと思って居る。思えば唐突に襲撃を仕掛けてきた彼らは数多くのゴーレムを扱い、我々を制圧しようと画策してきていた。幾つもの町が焼かれ、国が疲弊し、混沌と化した。しかしそれも終わりを迎えた。我が国の次期女王と名高き者――エールティア・リシュファスの手によって!!」


 力説されたと同時に視線が私の方に集中する。いきなり一斉に見られることにあまり慣れてはいないものの、出来るだけ平静を装う事に努める。


「彼女の功績は非常に大きい。少数精鋭でダークエルフ族の本拠点に乗り込み、彼らがも古代兵器を破壊する偉業を成しえた。そして……」


 私に向けられた視線はそのままファリスに。自分も同じようになるだろうと予想していたのか一瞬動揺した態度を取ったけどすぐに平静に戻った。


「このファリスこそ、シルケットにて目覚めた古の巨人の討伐に最も貢献した者だ。彼女なくしては今事各国の兵士達は蹂躙され、ダークエルフ族の支配下に陥る事になった国も出ていただろう。ファリス……そして彼女が率いる全ての者達もまた、偉業を成しえた素晴らしき人材だ。彼女達と今この時まで命を賭けて戦い抜いた全ての兵士に賞賛を!! そしてエールティア、ファリスの両名には聖魔勲章を授与する!!」


 その瞬間に響き渡る拍手と喝采。私やファリスの名前が叫ばれる。なんだか恥ずかしいけれど……悪くない気分だ。

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