670・改めて再会
城から離れた私達は寄り道せずにまっすぐお父様が過ごしているであろう別邸へと向かった。相変わらず大勢の使用人が忙しそうに仕事をしている。
「エールティア様、お待ちしておりました」
魔人族の執事長が私の事を出迎えてくれた。以前に訪れた時も同じように迎えてくれたっけ。
「話は聞いていると思うけど、しばらく滞在する事にしたからよろしくね」
「それはそれは。旦那様もお喜びになられるでしょう。料理長もより一層腕を振るわれる事でしょう」
大袈裟に喜んでいる執事長と同じように嬉しそうなメイド達が荷物を次々と運んでいく。鮮やかな手際に感心する程だ。
「それで、お父様は今どこに?」
「旦那様はお城にいらっしゃるはずですが……お会いになられませんでしたか?」
「あー……城に入ってすぐに女王陛下が式典の準備をされていると教えられたから……そのまま、ね」
元々は城の中で会えれば……と思っていたんだけど、女王陛下の一件ですっかり忘れていた。
「そうですか。忙しい御方ですからもしかしたらこちらでお会いした方が正解なのかもしれませんね。今すぐにお部屋にご案内いたしましょうか?」
「お願い」
「かしこまりました。では彼女が案内いたしますのでどうぞごゆっくりと」
メイドの一人が先導してくれるようで、執事長である彼は見送ってくれるようだ。案内された部屋はいつもどおり綺麗に片付けられていて、私がよく使うものが幾つか用意されているくらいだ。
雪風を始めとした他の人達は来賓用の客室を宛がわれていて、今はそれぞれ部屋を確かめている最中だ。
なんとなくベッドに腰掛けると身体が沈み込んでいく感覚が結構癖になる。このまま身体を預けて夢の中へと旅立ってしまいたくなる気持ちに駆られてしまいそうになる。
なんとか誘惑を振り払っているとこんこんと部屋の扉が叩かれる。
「どうぞ」
ファリスだったらもうちょっと遠慮なしに入ってくるから単純に他の誰かだろうと思っていると……入ってきたのはククオルだった。
「あら、どうしたの?」
もじもじとしている彼女は何か言いたそうに悩んでいる様子だった。
「ええっと、ですね。ファリス様からよくエールティア様のお話を聞いていましたので少しお話をしたいな……と思いまして」
はにかむ彼女はかなり緊張している事が伝わった。それもそうか。私の人となりを聞いていても実際話しかけるのには勇気がいる。彼女もそれを十分に出している……という事だろう。
「ええ。せっかくだから一緒にお話ししましょう。ここでいい?」
「――! はい!」
断られる可能性も考えていたのか、快諾した途端すごく嬉しそうな笑顔を浮かべてこちらに駆け寄ってきた。ちょうどよい話し相手も見つかったし、しばらくは退屈せずに済みそうだ。
――
ククオルと色々話している内にすっかり陽が傾いて夕方を迎えていた。最初はぎこちなく話していた彼女だったけど、今は結構打ち解けてくれたのか素の表情を見せてくれるようになっていた。
もう少し話したい気持ちもあったけれど、扉のノックと共に入ってきた使用人からお父様の帰宅を告げられた。
「それじゃあ、私も行かないとね」
部屋から去っていった使用人を見送った私は軽く身だしなみを整える。あの叱られた時を除けば久しぶりに会うのだから、少しでも綺麗にして会いたいのだ。
「あの、私もお供してもよろしいですか?」
「ええ。お父様は優しいから大丈夫。一緒に行きましょう」
ぱぁっと笑顔が華やぐククオルを連れて部屋の外に出て入り口に向かうと、既に執事長が待機していた。
「あの方だけが出迎えるのでしょうか?」
「中には大勢にそうさせる人もいるみたいだけど、お父様はそういうのを嫌うから」
「ですが誰も出迎える者がいない……というのはあの方の立場を考えればあってはならない事です。なので私がこの屋敷で働く者達を代表してお出迎えさせていただいているのですよ」
私達の話し声がばっちり聞こえたのだろう。執事長である彼はにこやかな笑みで答えてくれた。
ククオルがなるほど……と頷いている間に雪風やファリス達もやってきて、みんなでお父様を待つ事になった。
もうすぐ帰ってくる――そう思って待っている時に鳥車を引いているラントルオの鳴き声と足音が聞こえてきた。
それが止んでしばらく時間が過ぎて、ようやく扉が開かれる。
「旦那様。お帰りなさいませ」
待っている間も微動だにせず佇んでいた執事長が真っ先に動いてお父様を出迎える。流石長年仕事をしてきたものだけある。一切の無駄が感じとれない洗練された動きだ。
「ああ。何か変わったことは――」
いつも通りの言葉を紡ごうとしていたのだと思うお父様は私を見つけて動きが止まった。
改めて久しぶりに会ったお父様は優しく微笑み、嬉しそうな顔を返してくれた。
「ただいま。エールティア」
「お父様、お帰りなさいませ」
淑女としてのマナーで丁寧な挨拶を返した私だったけど、胸の内には暖かいものが溢れていた。家族とこうして会える。それはとても幸せなことなのだと感じていたからだった。
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