650・巨人との戦い 後(ファリスside)
ユミストルの足に傷をつける事が出来た魔導砲は再チャージの為の充填を開始し、その間に魔導兵が再び攻撃を開始する。しかしその動きは散漫。ジンマの指示により魔導砲を優先していたのだ。
兵士の魔力を使ってチャージを早める性質が備わっている最新の兵器ではあるが、いかんせん数が少ないのと最大充填まで時間が掛かるのが難点である。故に最初の時のように兵士達に全力で攻撃させるような真似はせず、あくまで牽制する程度に留めておくことにしたのだ。
それでも攻撃したのは僅かでもユミストルの行動が阻害できれば二射目を阻止する事が出来るかもしれない。そのような判断だった。どれほどの効果があるかは不明ではあるが、しないよりマシといったところだ。
戦っている彼らを横目にファリス達は未だ動かず事態を静観していた。
「ファリス様、戦わないのですか?」
同じく戦いに加わっていないワーゼルはオルドとククオルが静観しているのを見て我慢できなくなってしまった。戦うと決意したはずなのに一向に行く気配がない事に彼もわずかながら不安を感じ始めていたころだった。
「安心しなさい。ちゃんと時期が来たら行くわ。ただ、今は味方の流れ弾に当たるかもしれないから動かないだけ」
(多分外からの破壊には限界がある。可能なら内部に潜り込んで……)
ファリスの目には今の状況はあまり良くないように映っていた。並の魔導は弾かれ、魔力を収束した魔導砲も大きなダメージを与えられない。いつかは倒せるだろうが、そのいつかが来る前に力尽きては意味がない。ならばより可能性の高いものに賭けるべきだと彼女は判断したのだ。
「ジンマ指揮官! ユミストルの様子が!」
ザンドの言葉に呼応するようにユミストルは再び砲台を構える。動作は緩慢としているものの。明らかに大砲に魔力が集まり、いつ発射してもおかしくない状況だった。
「防御陣形!! 」
放たれた伝令によって防御魔導が得意なものが前面に出て入念なイメージ構築を行う。はっきりとより深く行う事によって発動する魔導の威力は絶大だ。薬によって回復した彼らはこの国の未来。今後ろにいる愛する人達を救う為に己を賭していた。
「……オルド。ワーゼル。ククオル。ユヒト」
そんな彼らを見つめていたファリスは自分の配下の名前を呼ぶ。全員が彼女の方を向いた。
「ユミストルの攻撃が終わったと同時に飛び出すわよ」
「わかりました」
「私達五人で、ですか?」
ククオルの質問にファリスは頷く。
「彼らの行動に支障をきたす訳にはいかないしね。わたしたちはそもそも戦いに参加していないからいなくても問題ないでしょう」
悪戯好きの子供のような目で笑うファリスだったが、もちろん大丈夫ではない。……が、ファリスに文句や苦言を呈する者がいる訳もなく、結局作戦は決行される事となった。
ユミストルの攻撃が放たれたt同時に発動する数えきれないほどの防御魔導。分厚い壁となって立ちはだかるそれを打ち砕かんと光線が音を立てて迫りくる。ばりばりと結界や防御壁が壊れる音を聞きながら、兵士達は力を振り絞り全てを受け止め、中には気絶する者すら表れていた。
大きな爆発音と共に光線が止み、兵士達は魔力を使い果たし倒れる。圧倒的な破壊力も何千人の防御魔導を貫くには至らなかったが、その代償も大きかった。
兵士達が気絶し、陣形を整えている間にファリス達は行動に移す。
「準備はいい?」
「「はい!」」
「いつでも」
「行けます!」
ラントルオを道連れにするのは忍びないという訳でファリス達は駆け出した。誰も止める者もおらず、ユミストルは大砲を再チャージしている様子だった。既に歩くだけの人形は消え失せ、徹底的に軍勢を滅ぼす兵器と化していた。
「あいつまた……!」
「接近して魔導を叩きこんであげなさい」
「ええ!」
ようやく戦う事が出来るとワーゼルは自分の愛剣に手を掛けていた。同胞が傷つきながらも戦い、力を合わせている姿を見て自分も戦いたいと思っていたのだ。その機会が巡ってきた事に胸を躍らせるのも仕方がない事だろう。
「しかし大丈夫なのでしょうか? 今まで魔導砲以外まともに傷つけることすら叶わなかったのに……」
「問題はどれだけ正確にイメージ出来るか、よ。それにユミストルの注意がこちらに向けば彼らも攻撃しやすくなる。後はわたし達次第よ」
要はユミストルの気を引いて敵と味方の攻撃を掻い潜りながら戦えという訳だ。前と後ろを同時に警戒しなければいけない事は非常に難しい事だ。しかしやらなければ勝利はない。それもまた事実だった。
唯一の救いはユミストルの攻撃手段が所持している大砲か身体を使った攻撃だけしかない。ならば予測しやすい――ファリス以外がそう思っていた直後。ユミストルの両肩の装甲が上にずれ、中には砲台のようなものが展開されていた。
「……嘘だろ」
遠くではっきりと見えたわけではないワーゼルだが、大体何か想像がついていた。轟音と共に次々と細い線のようなものが放たれ、放物線を描きながら接近しているファリス達に襲い掛かる。何十もの光線が魔導砲のチャージをしている軍勢に一つも行くことなく、全てが彼女達に向けて。
それは明確にファリス達が脅威だと考えている証拠だった。
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