420・一方その頃の三人(ヴァティグside)
エールティアと分かれたヴァティグ、ベアル、レイアの三人は、見張りの兵士の二人を倒して侵入していた。
上の兵士はレイアが。扉の兵士は残った二人が倒したが、その際の音を不審がって他の兵士達が集まり出した。
幸いにも時間があった為、物陰に倒した敵を隠す余裕があった。……が、見つかるのは時間の問題であり、完全に退路を絶たれてしまった。
「どうですか? そちらは何かありますか?」
「いいえ。こちらは何も……」
なんとか潜入した三人は、注意深く周囲の様子を窺いながら探索を続ける。
……が、扉を開ける時に必要以上に音を立ててしまったり、小声であっても頻繁に声を交わすなど、エールティア達と比べると未熟さが目立つ。
そんな彼らが辿り着いたのはならされた地面に広い部屋。兵士達の訓練室だった。
ハズレを引いてしまったという気持ちを強める一行だったが――奥に鎮座している人物に気付いて警戒心を一気に強めた。
今まで気配すら感じなかったらはずなのに急激に存在感を放った彼は、見定めるようにレイアを見ていた。
「な、なに? 私に何かついてる?」
「いいや。ただ待っている奴がいるんだが……どうやら違ったみたいだからな」
「もしかして、ヒューというのは……?」
頷いた男性――ヒューと実際に会うとは思わなかったレイア達は今にも剣を抜いて襲いかかりそうなのに対し、ヒューはまるで攻撃の姿勢を取る事はない。最初から相手にしていないかのようでもあった。
「……なんで戦おうとしないのですか? 私達とは戦えない、と?」
「なんだ。戦いに来たのなら相手になってもいいぞ。だが、違うのだろう?」
不敵な笑みを浮かべるヒューの言葉に、レイアは自然と頷いていた。
「ならば何故ここにいる? 私達を倒すのが目的ではないのか?」
「いいや。俺は雪風と戦うためにここに来た。他の事なんか知った事じゃない」
これからダークエルフ族と戦争になるというのに、全く興味がないと言わんばかりの表情と返答に、ヴァティグは心底驚いていた。
(雪風……あの鬼人族の娘か。彼女と戦う為……たったそれだけのこと以外興味がない? それが許される状況じゃない事くらい、彼らが良く知っていると思うのだが)
なんの意味もない行動だと思っているヴァティグには、ヒューが理解できなかった。
「それで、奴は何処にいる?」
「雪風はティアちゃ――エールティア様と一緒よ」
「……そうか。ここに来ているのならいい」
嬉しさと残念さがない混ぜになったような感情を浮かべたヒューは、訓練室の外へとゆっくりと歩き出した。
「ど、何処に行くの?」
「ここにいても仕方がないからな。雪風と合流したら伝えてくれ。俺はこの森にある開けた場所にいるってな」
「彼女はここにいるのだから待ってれば会えると思うけど……」
「どうにも会えない予感がする。それに時間が掛かればお前達が見つかる確率は高くなる。そうなる前に事を起こす」
なんでわざわざ場所を移すのかわからなかったレイアの質問に、ヒューはさも当然のような顔をしていた。
まるで未来を予知でもしているかのような発言に呆然としているレイア達を尻目に、そのままヒューは去って行ってしまった。
「……なんだったんだろう?」
「さあな。だけど、戦わなくてよかったのか? 奴を倒すという事は、ダークエルフ族達の戦力ダウンにつながるのだろう?」
不思議な体験をしたとでも言いたげなベアルの疑問にレイアは即に返事をする事は出来なかった。
「そう言うなベアル。もし戦いになったら、お前が死んでいた可能性が高い。もちろん私や彼女も無事では済まなかっただろう」
「そ、そうなのですか?」
ヴァティグやレイアのようにある程度実力を兼ね備えている者だからこそ気付けたのだ。この中で恐らく一般兵よりは強い程度に収まっているベアルでは、その判断が出来かねなかった。だからこそ攻撃をした方が良かったのでは? という質問が飛んできたのだ。
「……そう、ですね。彼の実力は私では推し量れない領域にいました。下手に手を出したら、むしろこちらの方が痛い目に遭っていたと思います」
この国としては不穏因子を野放しにしておきたくない。そういう気持ちから出ていた言葉だからこそ、安易に否定する訳にはいかなかった。言い辛そうに俯くレイアの気遣いにたいし、ベアルは申し訳ない気持ちが湧き上がってきた。
「……そうか。済まなかった」
「いえ。それより、早く別の場所を探しましょう。ここでじっとしていて他の兵士に見つかっては意味がないでしょうから」
「わかった」
訓練室でヒューと出会った一行は、その後も探索し続けていたのだが――その後も有益なものを見つける事は叶わず、エールティア達が入った後の作戦室で手に入れた悪魔族についての本だけを片手に拠点から出る事にした。
見張りの兵士が二人少なくなった事に気付いた他の見張り達の警戒は予想以上だったが、三人はなんとか監視の目を欺き、掻い潜り、見つからずに無事拠点を脱出する事が出来たのだった。
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