355・複製体の戦い(ローランside)
雷を宿して突進するライニーに対し、盾で防御したと同時に攻撃に転ずる……。
オーソドックスだが、確実性のある戦法を取る事にしたのだ。
確かにそれは有効な手段だろう。だが――
「甘いよ! 【モード:ウィップ】!」
纏った雷が片手に集まり、鞭状に形成され、しなるように盾を超えて腕を捉える。
「なっ……!」
唐突に纏っていた雷が鞭になって変幻自在の攻撃を繰り出す――。
驚愕に染まった感情をすぐさま整えたローランは、すぐに意識を切り替える。
「【ソイルウェポンズ】!」
地面から次々と槍や斧などの武器が出現し、ライニーへと一直線に向かっていく。
それをひらひらと華麗にかわしながら、避け切れないと判断した攻撃を鞭で相殺していく。
「【モード:ブーメラン】!」
ローランの【ソイルウェポンズ】を避け切ったライニーが次に発動させたのは、再び雷の形状を変える魔導だった。それは六つの刃を集め円状に構築したような形をしており、見るからに斬り裂くことに特化していた。
(今度は飛び道具か。さっきまでは鞭だった。ここまで雷の魔導を自在に扱う事が出来るなんて……)
以前のライニーには考えられない事だった。エールティアとの戦いを経て、ただ魔導を放つだけでは勝てない敵がいると知った。
一年前に敗北を知った者と、つい最近知った者の差が出た結果だった。
投げ放たれた雷のブーメランは、素早い動きでローランへと襲いかかる。盾で防ぎ、後ろに弾いて戻らせないようにしても、ライニーの方へと戻っていく。魔力で作られた物なのだから、操作する事など造作もないと言っているかのように。
「【シャドーステーク】!」
ライニーの影を魔導の杭で固定して動きを封じる。
短い時間ではあるものの、ローランにとってはそれで十分だった。
「このっ……! 【フィンブル・ネーヴェ】!」
身動きが取れず、動作を必要とする魔導が使えない現状。ならば、それらが必要ない魔導を放てば良い――そう結論づけたライニーは、自らの最大魔導を解き放つ。
ローランの周辺に白く凍てつく冬が訪れ、全てを染め上げていく。
そこから始まるのは惨劇。狼が群れをなして現れ、剣の冬が辺りを覆い尽くす。
「ライニー……!」
彼女は本気でローランを殺そうとしている。それが肌で伝わってくる程の冷たさ。
いくら防御が得意な彼であっても、寒さの中では動きが鈍る。
狼の動きによってはここで跡形もなく消え去ってしまうであろう。
だが――
「【バーンシュート】!」
全力で魔力を込めて放たれたそれは、襲い掛かる冬の狼の軍勢を薙ぎ払う。
二度、三度と立て続けに発動し、焼き払いながら前に進む。襲い掛かる小さな雪の剣を防ぎ、躱し、【バーンシュート】で打ち消していく。
(以前よりもずっと威力が上がっている……! だが――!)
魔力を込めて押し切ろうとするローランは、頭の中で急いでイメージを構築する。
ライニーの【フィンブル・ネーヴェ】を押し切る程の圧倒的な火力。熱量。その全てを宿した物。
「【リッセレートン】!」
発動した魔導は白い太陽。空に出現し、ゆっくりと下へと下がっていく様は、かつてエールティアが全く同じ状況で放った【フレアフォールン】と酷似していた。しかしあの赤い太陽とは違い、彼の太陽はどこか温かみのある優しささえ宿していた。
ライニーの驚いた表情と共に【リッセレートン】は緩やかに地面へと落ちて行って――【フィンブル・ネーヴェ】もろとも巻き込んで地表を焼き放ってしまう。避難が完了していなければ、確実に死者が出ていたであろう火力が大地を包み込んだ。
「はあ……はあ……」
想像以上の魔力の消費。極度の集中による精神の低下。あらゆる疲れがローランに圧し掛かってくるが、それでも決して倒れる事はなかった。彼の意地とも言えるそれに倒れ伏すように、ライニーは満身創痍で地面に座り込んでいた。
「な……なんで……」
あのまま【リッセレートン】を解放し続けていれば、ライニーに止めを刺すことが出来たはずだ。なんで自分を生かすような真似を? そんな疑問が彼女の視線から伝わってくる。それにはどこか期待と怯えが混じっていた。
「……ライニー。俺達はやり直せる。どんなに真っ暗闇の中にいても……どんなに夜が深くても。朝は必ずやってくる。俺がお前をそこまで連れて行ってやる。明るい世界の眩さを教えてやる」
「どうして……そこまで……?」
「決まってるだろう。俺とお前は共に地獄を生き残った仲間だ。お前と一緒に光を浴びたい。輝かしい道を歩いて行きたい。だから……俺がお前を守ってやる。例え何が襲ってきてもな」
まっすぐな瞳。そこには寸分の曇りもない。汚泥の中で生きていてなお穢れの無いまっさらな魂。ライニーが憧れ、心を奪われたそれに、彼女は再び魅せられていた。
……ただ一つ残念な事があるとするならば、ローランが抱いているものとライニーが秘めているものには違いがある。という相違点だった。
あれだけの戦いをしても止めを刺さず、手を伸ばした彼の姿は、彼女にとって正に――太陽そのものなのだった。
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