353・仲間との戦い

 大きな音のする方向へ歩みを進める。しばらくすると爆発音や何かが飛ぶような音が次々と聞こえてくる。

 察するに、誰かが戦っているようだ。


「魔導戦……あの妖精かもね」

「妖精?」

「ティアちゃんも一度魔王祭で戦ったことあるはずだよ。黄色い妖精族の」

「ええっと……もしかしてライニーって子?」

「そうだよ」


 確か……そう、去年の魔王祭に出てきた妖精族の女の子だ。彼女は小柄の方で、接近戦には向いていない。攻撃をするなら間違いなく魔導による攻撃を中心にするだろう。


「わたしがあのスライムに取り込まれた時、目くらましをしてきたからね。ここで行動を起こすなら、間違いなくあの子だと思った」

「やっぱり彼女も複製体の……?」

「うん。遠い昔の【契約】したスライム族の一人が元になってるの。多分、妖精族の国に残ってる本に同じ名前が載ってると思うよ。リアニットって王様のスライムだったから」

「リアニット……」


 心の片隅で引っかかる。前にライニーの時も同じことを感じた。彼女自身の事は全く知らない。だけど、昔どこかで同じ名前を知ったような気がする。


「初代魔王のティファリスも彼女には会ってるよ。確か……そう、『夜会』に呼ばれた時だよ」


 えっと……『夜会』というのは知っている。中央セントラルの王達が初代魔王様を呼び出した王達の宴の事だ。それが――!


 ――お、思い出した。確か、その時に出会った妖精族の王。それがリアニットだ。そして、そこで出会ったスライム族の子がライニーだった!


「……なるほどね」


 そこからはかちりと心の中で欠落していたピースがはまった音がした。

 ティリアースの図書館で読んだ本の一冊に書かれていた。どうりでどこかで知ったような名前だと思った。

 なるほど。弱い人や全く歴史に名を残していない者の複製体を作っても仕方がない。どれだけの費用がかかるかは知らないけれど、私達が知らない技術――決して安いものではないだろう。それに様々な場所で行動させるのに、無名の人では強さが判別できない。能力や強さがわかりやすく、歴史に名を遺している者が一番いい。


 ファリスの例もあって、複製体と元の人物の名前が合っていない事も多いけれど……ライニーは例外の一人のようだ。


 ……という事は、他の複製体も歴史に名を遺した偉人達なのだろう。なるほど。だから技術と経験に違いがあったのだ。

 ファリスやローランは過去の記憶も持っているからある程度は対応出来たけれど、それは例外中の例外と言っても良いだろう。


「つまり、これから襲ってくるのは過去の王や戦士たち……そういうことね」

「複製体だから、本物程の強さはないけどね。だけど――」


 経験を積めば話が変わってくる。私が戦ったのは一年前。それだけの時間があれば十分成長する事が出来るはずだ。

 問題はどこまで……なんて考えながら走っていると、激しい火花が散っているのが見える。


 何か言い合っているような気がするけれど、爆発や暴風のような音で上手く聞き取れない。


「見えてくる……!」


 一体誰が戦っているのだろう? そう思って戦場になっている場所に辿り着くと……そこにいたのはローランとライニーと思しき小柄の妖精族の姿だった。


「ローラン!?」


 既に激しい戦闘を繰り広げていたのだろう。盾を構えながら魔導を放つ彼は、剣を持っていないように見える。

 二人ともこちらには気付いていないようで、次々と新しい魔導を放っている。

 だけどここは――


「不味いわね」

「え?」

「多くの人がまだ避難しきれていない。この場所はまずい」


 ここは広場になっていて、周囲にはまだ逃げ遅れた人がいる。ローランもそれに気付いているのか、ライニーが放つ魔導の拡散を防いで、人々に被害が及ぼうとしているのを防いでいる。

 他人を守りながら戦う方が不利になのは当然だけれど……肝心なのはローラン自身がライニーを倒そうとしていないという事だ。


 余裕があるようには見えるけれど、それもいつまで続くかはわからない。今すぐ助けに行く必要がある。


「何やってるのよ……!」

「待ってティアちゃん!」


 加勢しようと走ろうとしたけれど、ファリスに大声で止められてしまった。

 急に止めたファリスに向かって戸惑いを感じるけれど、それを隠して彼女の方を振り向いた。


「大丈夫。あの子は彼に任せて。わたし達は向こうで暴れている奴を止めに行こう」


 ファリスの指さした方向。そこにも暴れているような音と土煙が聞こえている。だけどここでみすみすライニーを逃せば……。


「ローランなら、あの子を説得する事が出来るよ。元々、すっごく懐いていたから。だから……大丈夫。絶対」


 念押しして私に訴えかけてくるファリスの視線にはローランが必ずライニーを説得するという確固たる自信があった。どこからそれが湧き上がっているのかは知らないけれど……あまりにも真っ直ぐに向けてくるファリスのその視線に、私はどこか納得してしまった。

 現状、人の避難は進んでいるし、ローランもまだ問題なく防げている。余裕もある。


 なら、ここは彼に任せても良いだろう。まだ戦火は広がっている。今はそれを食い止める事に集中しないといけない。

 ライニーを惹きつけてくれている以上、ここはローランに任せた方が良いだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る