311・準決勝の幕開け

 ローランと公園で話をした翌日。私は決闘の為に闘技場に赴いていた。準決勝は私達が先で、ファリスと雪風ゆきかぜが後になったらしい。

 ――というのも、ファリスは常に瞬殺に近い状態で決闘を制してきた。確かにそれは、爽快感の溢れる物ではあっただろう。だが、人というのはより刺激的でスリリングな『過程』が必要な事もあるのだ。


 圧倒的強さで勝ち上がってきた……という点では私も同じだろう。

 だけど、私は決闘で相手の実力を測る。それまでの間、善戦したり、ギリギリの戦いになる事もある。

 だからこそ、私とローランの決闘で会場を大いに盛り上げて、その勢いで準決勝を終えて、あわよくば決勝も押し切ろうという作戦らしい。


 なんというか……そんな事の為に私達を先にするなんてくだらない理由だと思う。

 まあ、観客の事とか決闘の順番だとか……そんな事は別にどうでもいい。私達は戦って勝ち上がって、勝利を掴む。それだけが守られているのであれば、十分だ。


 ――


『さあ、いよいよ準決勝の始まりだよ! いやー、今回の魔王祭も長かったね。波乱もあったし、色んな事が起こったよねー』

『くふふ、前回以上に優秀な学生達が出場してくれたおかげ、ですね。二年生の学生が多かったですから、来年にも期待がもてそうです』

『だね! それじゃ、早速選手入場といってみようか! 今回の決闘は……エールティア選手とローラン選手だよ!』


 わああああ、と大きな歓声が周囲にを包み込む。ここまで来るのに長かった。様々な事があった。そして、今、ここにいる。私が気になって仕方がなかったローランと向かい合っている。


「エールティア姫様。今日は本気で戦いますよ」

「ええ、来なさい。返り討ちにしてあげる」


『おおっと、いきなり激しい睨み合い! まるで浅からぬ因縁がそこにあるかのようです!』


 私とローランの応酬に興奮するかのようにまくしたてるシューリア。それ以上に色々と盛り上げる言葉を言ってるみたいだけど、ローランはほとんど耳に入っていないみたいだ。

 余程集中しているのだろう。ここまで真剣に向かい合われると、若干気恥ずかしさが出てくる。


 だけど……それだけ、彼は『本気』なのだろう。私を全力で打ち負かそうとしている。

 今まで戦ってきた敵もそうだったけれど、ローラン程の真剣に向き合ってくる人は中々いなかった。


『ガルちゃん、準備はいい?』

『当たり前だ。決闘具の準備は滞りなく終わっている。いつでも始められるぞ』

『さっすがガルちゃんです! 常に準備を怠らない姿勢、最後まで変わりそうにないね』


 一応褒めているのだろうけれど、煽っているようにも聞こえる。思わず苦笑いが出そうになるけれど……そんな事をしたら目の前の彼が隙が出来たと勘違いして襲ってきそうな気さえする。


『それじゃあ……ガルちゃん、お願い!』

『結界具を発動する。両者共に最大限の力を発揮し、勝利を掴み取れ。決闘――開始』


 準決勝の開始を告げられたと同時に仕掛けてきたのはローランの方だった。


「【マルチプルランス】!」


 剣を抜いて襲い掛かってくるローランの魔導は、空中に円を描くように十数本の槍が浮かび上がっていた。

 それが頂点からまず一つ。避けたところを時計が回るように更に一つと順々に飛んでくる。一斉に襲い掛かってこないところを見ると、少しずつ追い詰めていく魂胆だろう。


 一つ避けて、襲いかかってくる剣をかわし、足を掬うように水面蹴りを繰り出す。それを後ろに飛んで避けると同時に【マルチプルランス】の槍が更に襲いかかる。回避し、攻撃に移ったタイミング――常人には防ぐことすら叶わないだろう。


「【シルドアームズ】!」


 腕に盾を作り出す魔導で魔力の槍を防ぎ、次の行動に思考を巡らせる。


「【ウィンドート】」


 それを先読みするように動いたローランの次の魔導は、黒い風が吹き荒れ、大小様々な刃が飛んでくるものだった。

 それに加えて【マルチプルランス】で発生した魔力の槍は未だ健在。下手な動きをすれば、速やかに放たれるであろうそれは、私にとって邪魔以外のなにものでもなかった。


「っ……【プロトンサンダー】!!」


 結局、火力で押し切り、一気に道を開く事にした。

 黒い風と大きな雷線。二つがぶつかって、激しく互いを削りあう。視界一杯に広がるそれを見ながらも、私は冷静に戦いの展開を読む。


「【イグニアンクス】!」


 私の周囲に炎が燃え広がり、それが集まって一つの形となる。

 ――人形。


 通常なら相手のすぐ近くに発動させるものだけれど、敢えて私のすぐそばで魔導を発動させた。

 その理由は――


「……っ!?」


 こうして自ら飛び込んで来てくれるのだから。

 人型の炎はローランに接近して彼を焼き尽くそうとするのだけれど……元々動きが遅いからか、あっさりとかわされてしまう――が甘い。


「弾けなさい!」


 命令したと同時に【イグニアンクス】が弾け飛び、ローランの背後を襲うコースを取る。横切った直後の一撃。防ぎようがないと確信を得たほどの一撃だったけれど――


「【神偽絶鎧『イミテート・イノセンシア』】」


 ローランの発動した魔導によって具現化した鎧よって、それは全て遮られてしまった。

 人造命具にも見えるけれど、それにしては発動キーワードが全然違う。これは……一体……?

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