299・全てが白に染まりゆく
カイゼルの生み出した如何にも死を振りまきそうな黒い炎の鳥は、けたたましい声を上げながら、私に向かって飛んでくる。
「【アグレッシブ・スピード】」
相手は大型とはいえ、圧倒的なスピードを誇るであろう鳥に関係する魔導生物だ。
なら、私も同じように……いや、それ以上に動かなければならない。この炎の鳥以外にも何かを呼び出すかもしれないし、カイゼルの銃弾も一緒に避けなければならない。
とりあえず――
「【フレアライズ】!」
まずは炎系の魔導がどこまで通用するかやってみよう。
地面から現れる大きな炎の球体が、鳥を包み込んで――何事もなかったかのように一体化してしまった。
「ふふ、ははは! 【フェニックス・テネブル】に炎は通用しない」
余程この魔導に絶大な信頼を持っているのだろう。カイゼルの自信に満ちた表情と共に放たれる銃撃には一切の迷いがない。更に魔導で産み出した炎の鳥が襲い掛かってくる。
雨のような銃弾を掻い潜りながら、突進してくる炎の鳥を避ける。中々えげつないタイミングで撃ってくるものだから避けるのも一苦労だ。
「【ショットミラージュ】! 【チェイサーシェル】!」
立て続けに放たれた魔導の弾。なるほど、先程より圧倒的に難しくなってきた。カイゼルの方も遠慮がない。追跡に幻影。あらゆる魔弾が私に襲い掛かってくる。
「ふふ、どう? 楽しんでる?」
「……そうだな。強い奴と戦うのは楽しい。特に聖黒族のあんたに、本気で力をぶつけて勝利を収めるのはな!」
この戦いの熱に浮かされているのか、カイゼルは好戦的な笑みを浮かべて
やはり、冷静さの中に炎のような感情を秘めていたみたいだ。私も彼の考えには同感だ。
確かに強者を降すのは楽しいものだ。それがとびっきりの敵なら尚更。
「残念ね。その楽しさは絶頂を迎える事はない。そのまま終わるのよ」
「強気だな。人造命具をまだ出していないからか?」
「そうね。それもあるわ。私も切り札を持っている。だけど――」
今回、私は人造命具を使わない。あの時は雪風に使ったのは彼女の行動に敬意を表しての事だ。
カイゼルには悪いけれど、一瞬で終わらせてしまっては可哀想だろう。
「【プロトンサンダー】!」
慣れ親しんだ雷の魔導で追跡してきたり、見えなくなっていたりする弾丸を全て消し去る。
一瞬驚いた表情を浮かべたカイゼルだったけれど、すぐさま顔を引き締めて、私に狙いを定めて射撃を行ってくる。
先程の自信満々の笑みを消して、敵を倒すべく、真剣な表情をしていた。
そこで余裕を見せないところがカイゼルの良いところだろう。
「【コキュートス・プリズン】」
会場の全てが氷の牢獄に包み込まれる。炎の鳥がいくら熱を発していても、この極寒の世界では無意味に近い。
じわじわと暑くなってきたところを一気に冷やす。観客席の方までは影響が及んでいないみたいだけど、見ている人達は少し寒そうにしているみたいだ。
「……ちっ」
カイゼルの方はばっちり影響を受けているようだけど、それでも銃口がブレないのは流石だと言えるだろう。
炎の鳥の方は……動きがかなり鈍くなっている。それでも完全に消えるほどではないようだ。
「なるほど。これくらいの魔導なら耐えきれる、と。なら、これで消し飛ばしてあげる。【エアルヴェ・シュネイス】」
ファリスが発動していたあの魔導――【エンヴェル・スタルニス】と対をなす魔導。ひび割れた空から降り注ぐ破滅の光。会場全体を包み込んで、何も見えなくなっていく。
カイゼルも、黒く染まっている炎の鳥も、全てが白に染まっていって、塗り潰されていく。
カイゼルが浮かべた驚愕の表情も。シューリアが興奮気味にしている実況も……全てが染め上げられ――消え失せる。
私が使える最強の魔導。私以外には誰もいない。あの日の孤独を具現化した証。
束の間の白。それが終わりを見せた時――カイゼルは地面に倒れ伏していた。
『……あ、やっと見えてきた――ってあれ? なんでカイゼルくんが倒れてるの?』
実況席の方からも私達の状況が確認できるようになったのだろう。シューリアはきょとんとした声を上げて戸惑っていた。
『決着は着いた。この勝負はエールティア・リシュファスの勝利だ』
その中でも冷静な表情をしていたガルドラは私の勝利宣言をするけれど……シューリアも、観客席の人達も微妙に納得していない様子だった。
それは無理もない話だろう。だって、いきなり真っ白に染まったかと思ったら、カイゼルは倒れて私の勝利を宣言されているのだから。
『え? ほ、本当に?』
『くふ、本当ですよ。ガルドラ決闘官の発動している結界はしっかり役目を果たしました。それに……あの魔導は予選の時に他の決闘官が確認しています。前回も同じように無傷のエールティア選手に対し、満身創痍の雪風選手が地面に伏していたとか。今回も同じように、傷ついたカイゼル選手が地面に横たわっている――どちらが勝者かは明白でしょう』
胡散臭い笑いをして、周囲の人達に言い聞かせるように説明をしてくれるオルキアのおかげか……観客席の方からも思い出したかのように声を上げる人達が出てきて――最終的には全体に認められて、私の勝利が会場中に響き渡る。
こうして、私は準々決勝まであと一歩というところまで駒を進める事が出来たのだった。
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