284・驚きと賞賛
『流石ファリス選手! あのあだ名は伊達じゃ無かった訳ですね!』
シューリアが興奮したように声を荒げて、歓声が嵐のように巻き起こる。
なるほど。確かに劇的なほどの勝利だ。常人では何をされたかすら分からなかっただろう。
「雪風、今の見えてた?」
ちょっと軽い感じで聞いたはずだけど、肝心の彼女はかなり悩んでいるようだった。
「……正直、あれ以上は無理です。辛うじて……といったところですね」
流石。私の見解でも、雪風はファリスのあの動きはギリギリ見る事が出来たと思う。
あのファリスの動きは単調過ぎたし、実力の一割も出してないだろうから、これ以上の事はわからないけれど……少なくともあれが辛うじて見れるくらいなら、互角に渡り合うことすら難しいだろう。
「エールティア様はどうですか? なにか――」
「全く参考にならなかったわ」
雪風が『見えてました?』なんて聞くはずもなかったから、普通に参考にならなかった
正直、エグゼスって名前の魔人族が弱かったのも原因の一つだろう。自信満々にファリスの事を睨んでいたけれど、目の前にいる相手の実力すら計れないだけにしか見えなかったしね。
あんな風に瞬殺されてしまっては、実力を見ることなんて出来るわけがない。せめてもう少し粘ってくれれば良かったんだけど……仕方がないか。
魔王祭はまだ始まったばかり。彼女の対戦相手には私がよく知る相手もいるだろうし、実力を確かめる機会はいつでもある。
それでも見切れなかったなら……最悪、私が直接戦いながら感じれば良い。今まではそうしてきたんだし、なんの問題もない。
「次の試合は――」
気を取り直して、ファリス達の決闘が始まる前に届けられたトーナメント表を見てみる。
今日は後二試合する予定らしいから、私が全く知らない人達の組み合わせが一つと、カイゼルの試合が一つある。
ただ、ここまで早く終わるとは思わなかっただろうから、もう一試合くらいするだろう。となると――
「最後はジュールの試合になりそうね」
「そうですね。組んだ方も、あの一瞬で終わるとは思ってもいなかったでしょうし……次の日の試合を今日に持ってくる可能性はありますね」
私に賛同するように頷いた雪風は、どこか嬉しそうだった。
短い間だったけれど、ジュールは雪風の師事を受けていた。だから、思い入れがあるのだろう。
「あの舞台で、あの子と戦ってみたい?」
そんな雪風に、ちょっとした意地悪を思いついて、言葉を投げかけてみる。我ながら性格悪いなとにやにやしながら思っていると、雪風はゆっくりと首を左右に振った。
「僕はあの時、エールティア様と戦う事を望みました。本来ならば刃を向ける事すら許されない。魔王祭でしか、貴女様の実力を肌で感じる事が出来ません。もちろん、少しだけ……ほんの少しだけはありますけれど、後悔は微塵もありません」
……そんな清々しい顔で言われたら何も言えなくなるじゃない。
思わずそんな事を思ってしまうほど、雪風の表情は清らかだった。
意地悪を言った私の方が気まずくなってしまったところで、会場の方では次の試合が始まろうとしているところだった。
シューリアの選手説明も終わっていて、後は決闘開始の宣言を待つのみのようだ。
選手名鑑に書いてあったから一応どんな選手かはわかるけれど……さっきファリスと戦って負けたエグゼスと同程度だろう。
ガルドラ決闘官が試合開始の合図を出して実際、いざ試合が始まってみると――
「……やはり、興味ないみたいですね」
「そうね。観客席も応援はしているけれど……」
どうにも少しだけ冷めた空気を感じる。まあ、あれだけ圧倒的な幕引きを見せられた後じゃ、多少はそうなるというものだ。
「ファリスの瞬殺が余程、頭の中に残っているんでしょうね。見なさいよ。あの二人、やりにくそうにしてる」
会場の雰囲気が自分達に向いていない事を理解しているのだろう。どこか動きがぎこちない。
「……これは勝ち進んでも次でおしまいね」
この程度の空気に振り回されているくらいなら、わざわざ観察する程でもない。
どのみち勝った方は次にファリスと戦う事になる。剣筋も甘さが残っているし、エグゼスと同程度なら、軽くあしらわれて終わりだろう。
ただでさえ知人や友人という訳でも無いのだから、余計に興味なんて湧きようがない。
「あまり興味がないのでしたら、何か買ってきましょうか?」
「いいえ、せっかくだから私も一緒に行くわ。まだ時間が掛かりそうだしね」
どうせ私の試合はないのだから、ある程度自由に行動しても良いだろう。それに……このまま雪風に置いて行かれてしまったら、このあまり興味の起きない試合を見続ける事になってしまう。ただでさえ退屈気味なのだから……まず間違いなく眠気がやってくる。
カイゼルはまだ良いにしても、ジュールの時に寝過ごしてしまったら、まず間違いなく悲しむだろう。
流石に主人としても見過ごすわけにはいかないし、ここは雪風と一緒に外の空気を吸いに行くのが一番だろう。
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