264・エスリーア公爵、発見
ペストラの17の日。とうとうウィンギア伯父様が見つかった。
エスリーア公爵領の境目にある
食事はきちんと与えられていたからか、衰弱している様子はほとんどない。よく館に出入りしていたらしい世話人の者は、二、三日前に村から出て行ったらしく、ちょうど入れ違いのようになってしまった。
まあ、どうせ情報なんてほとんど持っていないだろうし、そんな小物はどうでもいいだろう。
そんな事よりも、ウィンギア伯父様は、大分精神が消耗しているようだった。医者の見立てでは、強く精神に干渉する魔導を何度も掛け続けられた結果らしい。しばらくの間回復系の魔導とリハビリが必要になるらしいけど、それが過ぎれば問題なく暮らせるようになるとか。
それを聞いたときのアルティーナとミシェナの喜びようは、一概には表す事が出来ない程だった。
彼女達程ではなかったけれど、私も嬉しかった。やっぱり血の繋がりがある人が死ぬのは悲しいものだ。
……まあ、その流れでいくと、未だ見つかっていないイシェルタが死んでも、ほとんどの人が悲しまないだろうけど。
多分、アルティーナはその中には入らない。なんだかんだ言って、彼女はイシェルタの事を慕っていたから。
お父様も私も、イシェルタは既に死んでいると思っている。
彼女が野に伏して機会を窺うなんて、まず考えられない。なら……他の貴族の館に厄介になるしかない。
一応イシェルタが居そうな領地の貴族には、片っ端から館内を捜索させてもらえるように女王直筆の書状を携帯している。
無実なのに罪を着せられる事を恐れた貴族は、探し人がいない事を自らアピールしたけれど……それでも見つからないなら、もはや残っている可能性は一つしかない。
イシェルタは何者かに暗殺された。そして、死体も残さず隠滅されたということだ。
一番怪しいのはイシェルタがよく物を買っていたとされるエルフ族の商人。彼は頻繁に館に出入りして、何かを売っていたそうだ。
その時ばかりは人払いをしていて、商人と二人っきりになるようにしていたそうだけれど……時折他の男を連れてきたり、外で大きな雷撃音が鳴ったりしたそうで、下手に聞いてしまったら殺されるのではないか? とても恐ろしかったと使用人達が話していた。
その話を聞いて思い出したのは、あの『収束光砲』とか呼ばれていた魔導具だ。あんな国家兵器に匹敵しそうな物を配備している貴族はまず有り得ない。最初に女王に献上し、国軍の戦力を高めてから自領でも配備するのがこの国のルールだ。
それを隠してあれだけの量を手に入れるなら、それこそ秘匿にしているルートを使うしかない。それに……あれは、私との決闘まで姿の欠片すら見せなかった。
その少し前にエルフ族の商人が来ていたそうだし、彼がそれらを売ったのはまず間違いないだろう。
そんな恐ろしい兵器を取り扱う武器商人が恐れるのは、身元がバレる事だ。なら、イシェルタを野放ししておく理由なんて何一つない。
さっさと殺して口を封じた方がその商人の為になる……そういうことだ。
匿ったって、価値を見出せない。損をするだけなのは見えている。
色んな意味で生きていない理由の方が多い以上、あまり人員を割くべきでは無いのだろう。
お父様もそれがわかっているからか、ファオラの終わりには捜索に割いていた人員を戻そうと思っているらしい。
どうせペストラが終われば、魔王祭の予選が順々に始まっていく。
今年は私や仲間達も参加する事が出来るし、三年生は最後のチャンスだ。去年出会った人達の中にも、今年参加してくる人達がいるかも知れない。
世界が最も忙しくなる季節に向けての準備の期間。もし、あの子――ファリスって言ってたっけ。見た感じ大体同い年の様だったし、彼女が出てくるなら私の『人造命具』の出番があるかも知れない。どうせ夏休みの間にどこかに行く事もないんだし、少しは身体を慣らしておいた方が良いのかもしれない。
そんな風に思って、動き回れるような簡素な服装で庭園の方に行くと……そこにはアルティーナが細剣を持って静かに構えていた。
シーンとした空気が周囲に立ち込めて、その一挙手一投足が洗練されているように見えた。
操られていたあの時とは別人なくらいだ。
真剣な表情で何度か鋭い突きを繰り出し、仮想敵との攻防がはっきりと見えるくらい、その動きは機敏だった。
「……エールティアさん?」
しばらくの間集中していたアルティーナは、細剣を鞘に収めて、深呼吸をして……ようやく私の存在に気付いて話しかけてきた。
「中々の腕前ね。かなり様になっているじゃない」
「いくら出来てたって、あの決闘の時に生かせなかったら、なんの意味もないでしょう」
深いため息を吐いたアルティーナは、まだ前回の決闘を引きずっているようだ。
……それも仕方ないだろう。操られていたあの時は、まともな思考が出来ていなかったのだから。
最大の舞台で自分の意志もなく終わらされたのだから、未練が残っても当然だ。
「……なら、今ここで試してみる? 本当の貴女がどれだけ私に迫れるかを」
だから、そんな彼女の心残りを消してあげるのも、私の仕事なのではないかと……そう思った。
例えあれだけの大敗を喫したとしても、納得出来ないのであればね。
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