231・考える瞳
決闘申請書が正式に受理されたことを知らせる手紙が届いて、いよいよ後に退けなくなった事を改めて実感する。
と言ってくれた。あまりに当たり前のように言ってくるものだから、目が点になるってこういうことなんだろうなぁ……って思うほどだった。
お母様も同じように言ってくれたし、どれだけ私を信じてくれているか伝わってくる。
二人とも最初は一緒に戦うって言ってくれていたんだけれど……それは流石に断る事にした。こっちの方はかなりてこずった。二人とも全く折れる気がなかったんだもの。
だけど、アルティーナが……いや、エスリーア公爵夫人がただ準備をするだけだなんて有り得ない。そう思わせてくる程の申請内容だったし、お父様とお母様には、私の友達を守って欲しかった。
それをお願いすると、二人とも快く承諾してくれた。
……本当は彼女達の力を借りた方が良いのかもしれない。だけど、決闘委員会があんな内容の申請書をすんなりと通してきた以上、変な言いがかりをつけられてもおかしくはない。
なら、お父様方には、可能な限り友達を守ってもらった方が断然いい。なんとか納得してもらう事には成功したけれど……これで一日まるごと使い切るとは思ってもみなかった。
それでもなんとか約束を取り付ける事が出来た。後は……ベルンやシルケット王、アルフに向けて手紙を書いて協力を仰ごう。最悪、リュネーやレイアはティリアースから逃がす。向こうの企みの枠外に追い出せば、手を出すことは出来ないはずだ。
――私は、また独りで戦おうとしているのか。
本当は一緒に戦った方が良いのだろう。彼女達の力を当てにする。それが出来たらどんなに良かったか。
だけど今回の戦いは、今までと格が違う。間違いなく決闘の名を借りただけの侵略戦争だ。
普通の戦いじゃない以上、負けたら……いいや、勝ったとしても、捕まったらどんな仕打ちを受けるかわからない。最悪、心を壊されてしまうかもしれない。そうなったら……もしそうなったら、私もどうするかわからなくなる。
それに……もし、数人対数千人なんて規模になってしまったら、私は間違いなく大規模な魔導による殲滅を敢行するだろう。そうなれば、レイアはともかく、他のみんなは私の攻撃で死んで、決闘を終えることになる。
そうなれば、今度は味方殺しを平気でする者を女王にするのかと鼻息を荒くする者が出てくるだろう。
だから、この戦いは少しの言い訳も介入させないように終わらせないといけない。こちらが人質を取ったとか、伏兵がどうとか……一切の負け惜しみを言わせるつもりはない。
それにはどんな強大な戦力に向かっても私が一人で全てを制圧しないといけない。聖黒族としての力を、この手で証明させる。泣き言も、恨み言も……全ては後に聞こう。例え――それで仲が引き裂かれようとも。
――
「ティア様、最近忙しそうですけれど、大丈夫ですか?」
あの決闘申請書から私は大分色々と手を回していた。他の貴族に戦力を出さないように念押しをして、エスリーア公爵家につくならどういう目に遭うか……それを思い知らせるような脅迫じみた事をするのに、お父様や、お父様付きの諜報部隊の手を借りて根回しを行っていた。
入念にしているせいで、最近では一日中難しい顔をしているような気がしている。学園ではみんなが心配するから、出来る限りいつも通りに振る舞っているけどね。
それでも館にいる時は表情が硬いのだろう。今回の決闘は、周囲の人に可能な限り隠して、遠くの味方に助力を求めるような形を取っている。だから、心苦しい気持ちもある。それが現れているのかもしれない。
「ええ。今が踏ん張りどきなだけだから」
気にしないで良い……そう言っても、ジュールの表情は晴れる事はない。むしろ、余計に曇らせてしまった。
「……ラディン様から、全て聞いているんですよ?」
「……そう」
なんとなく、予想はついていた。私はなんでも一人で抱え込みがちだ。それはお父様の方もよくわかっている。だから……ジュールや雪風には話をするだろうと思っていた。
「なんで……なんで私達を頼ってくれないんですか? 確かに、私達は弱いです。ですが――」
「……今回は。これだけはそれじゃ駄目なのよ。ジュール。貴女は私の魔導に耐えきれない」
「ティ、ティア様、の?」
思っていた事と全く違う答えが返ってきたのに驚いたジュールは、戸惑うように右往左往している。
「今回の決闘……明確に『戦争』と表記されていたわ。そして私は学園以外での貴族と接点はほとんどない」
アルティーナは違うだろうが、私は貴族よりも庶民の人達との付き合いが深い。しかも学園に入ってからは、シルケットや
「何百、何千……それ以上の敵と対峙する事になるでしょう。そんな時、私は迷わず広範囲の魔導を発動させる。その時、貴女は私の足手まといにならないことは出来る?」
真剣な目で、まっすぐジュールを射貫くように見つめる。彼女はそれに答える事が出来ず……抗議するような視線を向けて、ぎゅっと手を握り締めていた。
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