181・中央都市(王都)リティア

 お母様をアルファスに残して、私達はティリアースの中心――リティアへと辿り着いた。

 私達は中央都市と呼んでいるけれど、女王の住んでいるこの都市は、他の国からは王都と呼ばれる事も多い。


 どこよりも発達して、聖黒族の力を周りに知らしめるこの都市は、ティリアースの象徴とも言うべき存在だ。

 初代魔王様の産まれた地。この世界の中心である事を示す為に、中央都市と呼ばれるようになった……という経緯もある。


「そろそろ見えてくるぞ」


 お父様の声に外を眺めみると、遠くから大きな城が見え初めていた。コクセイ城。古い城を大幅に改修した時にこの名前に変わったそうだ。

 そういえば、ここが初代魔王様生誕の地……というのは伝わってるけれど、彼女が女王としてこの国を支えていた時、ここを拠点にする事は無かったらしい。リティアに住み出したのは、次の次――三代目になってからだとか。


 彼女の時代にこの城も改修されたはずなんだけれど……なんでこんな立派な城を使わなかったんだろう? アルファスにある私達が住んでいる館を死ぬまで愛用していたらしい。


 そう考えると、どんどん視界に広がる大きな城も、どこか色褪せて見える。私達のいる町の方が、よっぽど初代魔王様ゆかりの地なんだしね。


「あれがコクセイ城ですか……凄く立派ですね」

「そうね。でも……」

「大きいだけで中身がない。今のこの国のようだな」


 ぽつりと呟いたお父様の声を、私は聞き逃さなかった。独り言を本当に小さく言っただけだから、視線すら向ける事は無かったけれど……そんな風に思っているなんて意外だった。


 お父様がこの国を愛している事は知っていたし、常に領民の暮らしを気にしていたりと理想的だったから。

 偶に町の屋台に連れて行ってくれた事もあるほど大切にしてるのに、そんな批判をするなんて思わなかったのだ。


 幸いにもジュールには聞こえていなかったようで、私一人がフリをする事くらい訳なかった。

 だけど……その一言が、どうにも頭に焼き付けられてしまって、なんでそんな事を言ったのか、鳥車が都市に入るまで疑問に思うのだった。


 ――


 大きな門と、門番の身分確認を通り抜けて中に入ると……そこには美しい街並みが広がっていた。

 アルファスよりも整然としている道に建物。服装も中継都市やガンドルグなんかとは比べ物にならない。


 ……いや、ガンドルグはそもそも種族が違うから仕方ないか。


「なんだか、浮いているような気がしますね」

「普段見慣れている景色と違うからそう感じるだけじゃない?」

「そうでしょうか」


 ジュールは納得出来ないように頭を傾げていたけれど、そもそもメイド服の彼女は他と違うから仕方ない。

 別にメイドとしての仕事もしてないから着なくていいと思うんだけれど……ジュール自身が気に入っているから着替えようとしないしね。


 珍しいものを見ているような目のジュールがどこか羨ましい。

 私は昔から毎年この時期になるとここに来ていたから、彼女程の感動はもってなかった。


 互いが見ているものは同じなのに、全く違う風に感じている違いが、少しだけ寂しい。


「……どうかしました?」

「別に。なんでもない」


 私のそんな気持ちを知ってか知らずか。ジュールは不思議そうに首を傾げていた。それがちょっと不満で、つい拗ねたように視線を逸らすとそこには生易しい目でこちらを見ているお父様がいて、更に気まずくなった。


 この居づらい空気は別荘に到着するまで続いて、軽く疲れてしまった。


 ――


 リティアの貴族達の館を次々と通り過ぎて、コクセイ城に近くてそれなりに開けた場所。そこにお父様の別荘が建っていた。鳥車から降りると、メイドや執事が出迎えてくれた……んだけど、当たり前のようにジュールが下りてくるから、戸惑うような雰囲気が広がった。


「その子は契約スライムだから気にしないでちょうだい」


 私のその言葉に、広がっていた動揺が収まって、落ち着きを取り戻した。

 初代魔王様の時も、契約スライムは何故かメイド姿をしていたと残ってるし、聖黒族の間では女性型のスライム族はメイド。男性型のスライム族は執事姿にしている事が多いらしい。


 現に私のお母様も結婚するまではメイド姿だって聞いたくらいだからね。……正直、親のそんな姿なんて絶対に見たくなかったから、結婚を機にまともな服を着てくれるようになって本当に良かった。


 ジュールも結婚したら普通の服を着るようになるのだろうか? でも結婚するってなったら――私とすることになるのだろう。私は……正直女の子同士っていうのはちょっと良くわからないけれど。


 それも『今は』なのかもしれない。どのみち私は同じ聖黒族か、血を分けて契約したスライム族のジュール以外の選択肢は存在しないんだけどね。


「ティア様、早く行きましょう!」

「わかったから、もう少し大人しくしなさいね」


 初めて来た別荘に少し興奮気味のジュールの姿に思わず笑みが漏れた。どうなるにせよ、私とジュールは一緒に歩んでいくのだろうと。

 もし、血が指輪の代わりとしたら――ある意味結婚しているようなものなのかもしれない。


 ――なんてね。

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