166・全力の一撃
どれだけの間、魔導の打ち合いをしていただろう? 気づいたら観客のみんなの歓声が聞こえてきて、ライニーは息切れで身体がぶれているように見えた。
「やっぱりその身体、幻で作ったものだったのね」
「はぁ……はぁ、だから? そんなの知ったって、何の意味もないでしょ!?」
半ば吠えるように食ってかかってくるけれど、確かに意味はない。その気になれば、そんなの関係なく攻撃できるしね。聞いたのはただ確認したかったらだ。
「そうね。もう動きも止まりかけてるし、的になるなら確かめる意味はないわね」
「いっ……言ってくれる、じゃ……ない! ライニの全力、見せてあげるんだからぁぁ!!」
私から距離を取ったところを見ると、彼女の切り札は広範囲に影響を及ぼす魔導のようだ。散々私が使ったあとだけれど、彼女に使えるかな?
「ゆる、さない! ライニを馬鹿にするやつは……みんなぁ、消えちゃえぇぇぇ!! 【エクレール・アッシュ】!!」
発動と同時に具現化したのは、闘技場を突き抜けそうな程に巨大な雷の斧。それをその
なるほど、よく魔力が練られた良い魔導だ。私を殺す為にこの一撃を放ったかと思うと胸が打たれるような思いもする。それほどまでに綺麗で、力のある魔導だ。
「中々良いもの持ってるじゃない」
「後悔したって遅いからね! 結界ごと、塵一つ残さず消してあげる!」
ご自慢の魔導を発動できて、心の中に余裕が出来たようだ。まだライニーの心は折れていなかった。
……逆に、これを潰せば、彼女の心は折れるだろう。見たところ、アルフが全力を出せば生き残れるくらいの魔導だけれど……どれを使おうか?
「ふ、ふふ、あはは、消えちゃええええ!!」
どこか壊れた笑みを浮かべて、ライニーは迷うことなく振り下ろしてきた。気持ちの良いほどの殺気を放つ彼女に向かって、対抗する魔導を解き放つ。
「【レフレルクス】」
上空から現れた光の弓が矢を
「そんな小さな矢でライニの魔導を止められないよ!」
「それはどうかしら?」
放たれた矢が雷の斧に当たると同時に数百――数千の光の矢に分かれて、空中の何もない場所で反射しながら威力と速度を増していく。観客席の方にも飛んでいくけれど、着弾する前に反射して、再び会場に戻っていく。
激しい音と無数の光が私達のいる場所を支配して、何も見えなくなりそうになる。
ライニーが何か言ってるように見えるけれど、【レフレルクス】が反射して広がり、飛んでいく音に遮られて良く聞こえない。多分悲鳴でも上げてるんだと思う。
しばらくして【レフレルクス】が収まった後には、ライニーが発動していた【エクレール・アッシュ】は跡形もなく消えていて、残ったのは地面に倒れている小さな妖精族の女の子――ライニーの姿だけだった。
『勝者、エールティア・リシュファス』
全てが終わって静かだった観戦客と私に告げるように勝者の名前がガルドラから言い渡される。
ライニーはあの雨のような光の矢から逃れる事が出来なかったみたいで、結界具の効果が発動する程度には致命傷を負っていたみたいだった。
私はゆっくりとライニーの方に歩み寄って、彼女をそっと掴むように抱える。改めて彼女を見てみると、小妖精族よりも身体が小さい。色んな妖精族を見てきたけれど、その誰とも違うように見える。
「ん……っ、あ、は、離して! 離してよ!」
少しの間気を失っていたライニーは、気がついた瞬間に暴れ出した。だけど、それを許すほど甘くはない。
ぎゅっと掴んで動きを無理やり止める。
「あぐっ……!」
「その前に、言うことがあるでしょう?」
「ぐっぐうぅぅ……」
少しずつ力を入れているせいで、ライニーは徐々に苦しみに満ちた表情になっていく。
「あ、う、ぅぅぅ、……め、なさい」
「なに?」
「ご、ごめ……なさい……」
認めたくないのか、苦しいのか……絞り出すように声を出したライニーの言葉を聞いて、私は彼女を解放してあげた。
「あ、はぁ、はぁ……ひ、酷いよ。こんな事……」
「それより酷い事を、貴女はベルンにしようとしたのよ。許してもらえるだけありがたいと思いなさい」
心はこもったなくても、謝罪は謝罪。一度だけ許してあげよう。
「ふんだ。あなたなんて、ローランにやられちゃえば良いんだ!」
「……彼を知ってるの?」
「教えてあげない! いーっだ!」
両手で口の端を引っ張って、いーっとしたライニーは、そのままひらひらと何処かに飛んでいってしまった。
負け惜しみを言っていたけれど、彼女の所作には怯えの色が見えた。もう、あの子は私に挑む事はしないだろう。余程な事がない限りわね。
『す、すごい! すごいすごい!! ティアちゃんの圧勝だよ! ガルちゃん!』
『……シューリア・エンゼリア。あまり騒ぐと不敬罪で捕まるぞ』
今まで黙っていたシューリアが感動するかのように騒いでいるのを、ガルドラが呆れた口調で
周りの観客からは声援が聞こえて、少し心地良い。前はあまり味わえなかった感情に少しだけ浸りながら、戦いに幕が降りた実感を確かめていた。
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