144・みんなのアイドル

 学園長と挨拶したり、黒竜人族の皇子――アルフと出会ったりした日から数日が過ぎた。少しだけ慣れた気がする寮を後にして、私達はドラグニカが誇る陸の孤島リュミドラに存在する闘技場に足を運んでいた。


「うわー……でっけえ!」


 最初に抱いた感想を、フォルスは一言で表してしまった。もっと色々あるだろうに、それで終わらせてしまったらこれ以上続かない。


「まるで山のようですね。これほど大きな闘技場……そうそう見られるものではありません。まるで人が吸い込まれているようです」

「これほどの施設があちこちに建っていたらそれは問題だろう」


 雪風は感心するように入り口に次々と入って行く人混みを見ていた。ベルーザ先生の言う通り、こんな建物がそんなに多くあっても困る……なんて思いながら、一つの疑問に直面した。


「これだけ大きかったら、遠い席だと満足に見ることなんて出来ないんじゃないの?」


 舞台になるであろう場所は闘技場の中心になるだろうし、これだけ大きかったらすり鉢状にしても全員はカバー出来ないはずだ。一番遠い席に座ってもほとんど見えないのなら、ここに来る意味なんてあまりないと思うんだけど……。


「それについては問題ない。僕達は見る事はないけれど、そこの方はちゃんと対策されている」


 ベルーザ先生が思わせぶりな事を言ってるけれど、まともに答えるつもりはないみたいだ。

 まあ、入ってみたらわかるだろうし、それまでは楽しみにしておくとしようか。


 ――


 随分と長い時間が掛かったけれど、なんとか中に入る事が出来た私達が次に見たのは、広い会場に、戦場の舞台となる場所はかなり広く場所を取っている。上の方に解説席があるみたいで、全体を見渡せるようになっているけれど、会場が見えやすい位置になっている。


「あれは……?」


 それよりも気になったのは闘技場の上部に設置された大きな板状のなにかだ。吊るしてある……という訳じゃなくて、魔導具を使って宙に浮いているように見える。それが円を描くように回って動いていた。


「あれは……あれはもしかして!!」

「フォルス、知ってるの?」

「あ、ああ……! 魔導具を作る魔具師にとって、画期的発明を成し遂げたウェルグリンの作品だ! 設定した範囲の物を、あの大きな板に映像として映し出すことが出来るんだぜ! どっかに操作盤があるはずだ! ウォルカ、ちょっと探しに行こうぜ!!」

「興奮したのはわかったから、ちょっと落ち着きなよ。探したって見つかるようなところには置いてないだろうし、迷子になるだけだから」


 少しだけ見直したけれど……そのまま興奮しすぎて詳しい解説を始めたフォルスは放っておくことにしよう。なんてのんきに思っていると――


『みっなさーん! おっまたせしましたー!』


 妙に明るい声が聞こえて解説席の方に目を向けると、そこにはドワーフ族の女の子が周囲に愛想を振りまいてる様子が確認できた。ドワーフ族にしては色白で、綺麗なピンクに近い髪とうっすら赤い目をしていてる。綺麗というよりも可愛い感じの容姿をしていて、ドワーフ族の特徴も相まってそれがより際立っているように見える。隣の竜人族の男性は、茶色の髪と目をしていて、結構強面な感じだ。腕を組んで真面目そうな顔をしている。見るからに堅物そうだ。


『魔王祭本選にはみんなのアイドルのシューリアちゃんとー……』

『……決闘官のガルドラ・カイゼルードだ』

『ガルちゃん、ちょっと硬いよ? リラックス、りら~っくす』


 明らかに迷惑そうな顔をしているガルドラは、シューリアの言葉に耳を傾けないようにしているみたいだ。


『わたしの事を無視するガルちゃんは放っておいてー……魔王祭本選は大陸中から集められた生徒のみんなが死力を尽くして競い合う最高のお祭りぃ! 初めて来るみんなの為にも、ルールの説明してあげるね!』

『単純明快。我が張る結界の中で敵を殺すか降伏させる事。それ以外のルールは一切ない。兵器の運用、魔物の使役……勝つための方法ならば、それは是となる』

『まー、要は先に敵を倒しちゃった方が勝ちって事なんだよね。他にはなにしてもいいけど、あんまりひどい事していると後で大変になっちゃうかもかも~!』


 ルール事態は予選決勝戦と変わってないんだけれど、解説席の女の子のぶりっ子な感じがちょっと気に入らない。なんていうか、媚びてるみたいだ。


「……なんでしょうか。あの話し方は」


 嫌そうな顔をして言葉を口にする雪風も珍しい。やっぱり彼女もああいうのは苦手みたいだね。


「こういう人もいるよ。私はそうでもないかな」

「可愛いなぁ……シューリアちゃん」


 リュネーは楽しそうに聞いて……って、今の声、フォルス? よく見たらウォルカの方も嬉しそうにシューリアの方を見ていた。男というのはああいうのが好きなのかな?


『それじゃ早速、最初の試合いってみよー!』


 シューリアの隣にいるガルドラが仏頂面で会場の方に視線を向けているのを見ると、必ずしもそうじゃないと思える事が出来た。なんだかその事実に少しだけ安心したような……そんな妙な気分になりながら、試合の方に集中することにした。

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